日本森林学会誌105巻5号(2023年5月)

[論文] スギ植栽木に対するススキ型および落葉広葉樹型競合植生の被圧効果の違い

原谷 日菜(宮崎大学農学部、北海道大学大学院環境科学院)ほか
キーワード: 下刈り, 枝量, 競合状態, GLMM, 樹冠発達
2023 年 105 巻 5 号 p. 147-153
https://doi.org/10.4005/jjfs.105.147
[要旨] スギ植栽木に対する異なる競合植生による被圧効果の違いを光の制限と樹冠発達の抑制の二つの側面から明らかにすることを目的として,ススキが優占する林地と落葉広葉樹が優占する林地に植栽されたスギ苗の3年間の成長と4年目のスギの枝量を調査し,植生タイプ間で比較を行った。樹高と地際直径の成長量を目的変数とした一般化線形混合モデル(GLMM)による解析の結果,植栽木の樹冠上部が被圧されない競合状態(競合植物の高さが植栽木の樹高未満)における植栽木の成長が,ススキ型では落葉広葉樹型に比べて顕著に劣っていた。また,高さ61~100 cmの範囲のスギ植栽木の枝量はススキ型で少なかった。以上の結果から,ススキ型では着葉量の多いスギ樹冠下部をススキの密な葉でより強く被圧し光を制限することに加え,葉の物理的な接触によってスギの樹冠発達を抑制する効果も落葉広葉樹型に比べて強いと推察された。ススキ型のこのような被圧の効果が,落葉広葉樹よりも顕著なスギ植栽木の成長低下を生じさせていると考えられることから,ススキ型においては植栽木樹冠下部への被圧や枝の発達抑制を考慮した下刈り省略の判断が必要であることが示唆された。

[論文] 四年制大学における森林科学の専門教育課程のカリキュラムと科目の内―2021年全国調査をもとに―

井上 真理子(国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所多摩森林科学園)ほか
キーワード: 大学教育, 教育内容, 教育課程, シラバス, 人材育成
2023 年 105 巻 5 号 p. 154-165
https://doi.org/10.4005/jjfs.105.154
[要旨] 大学の森林科学の専門教育について,全国アンケート調査から専門教育課程のカリキュラムと科目の内容を分析した。調査は,旧林学科があった大学を含む26校の森林科学の教員を対象に2021年に行った。回答を得た24校(森林の専門学科8,森林のコース等10,その他6)では,30の教育プログラム(教育P)があった。森林科学の専門科目は,必修400科目(森林系200,林産系65,総合系135),選択714科目(森林系434,林産系177,総合系103)が挙げられた。必修で森林系と林産系の科目を開設する14大学と,必修で森林や林産の科目がない大学もあった。教育内容は,科目名から森林科学の内容(樹木・生理,生態,造園・立地,動物・昆虫・保護,防災・水文,利用,経営,林政,文化系,測量)と林産系の11分野に分けた。科目の開設状況は,Ⅰ)必修で7分野以上開設(12校),Ⅱ)選択を加えて7分野以上開設(10校11教育P),Ⅲ)科目・内容共に少ない(4校7教育P)だった。森林科学の多様な科目が開設されており,大学間で共通する必修の分野は見られなかった。森林科学の専門領域として内容の検討が必要と考えられた。

[総説] 衛星データを用いた森林変化マップにおける面積推定と精度評価の手法

志水 克人(国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所森林管理研究領域)
キーワード:  精度評価, 不偏推定量, 衛星画像, 標本調査, 確率抽出
2023 年 105 巻 5 号 p. 166-182
https://doi.org/10.4005/jjfs.105.166
[要旨] 森林変化や土地被覆変化マップなどの主題図には現実との相違がある程度含まれる。主題図を効果的に利用するためには,マップ分類がどの程度正しいかを表す精度を評価することが重要になる。本総説では,衛星データを用いて作成した森林変化マップの面積推定と精度評価における基本的な原則を整理し,精度評価の構成要素をSampling design,Response design,Analysisにわけ,それぞれで基準と推奨される手法を示した。また,精度評価を実施する上での留意点についても記述した。統計的に厳密な精度評価では,無作為抽出を基本とした確率抽出によりサンプルを抽出し,リファレンスデータとの相違を解析して,マップ分類の精度を推定する。精度評価と面積推定では,母集団誤差行列が中心的な役割を担う。サンプル抽出に対応した不偏推定量もしくは一致推定量を利用することで,精度と面積の推定値と信頼区間を算出し不確実性を示すことができる。精度評価の基本的な手法は確立されているが,より新しい手法も提案されている。精度評価では全てに対応する単一の手法はなく,目的に応じて適切かつ基準を満たす手法を選択する必要がある。

[その他:シンポジウムの記録] 日本学術会議公開シンポジウム「気候変動時代における市町村による新たな森林管理とゾーニング」開催報告

井上 真理子(国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所多摩森林科学園)ほか
キーワード: 森林管理, ゾーニング, シンポジウム, 多面的機能, 林野行政
2023 年 105 巻 5 号 p. 183-186
https://doi.org/10.4005/jjfs.105.183

[その他:学会企画の記録] 第133回日本森林学会大会/学会企画「あつまれ!がっかいの森」 昼の部~ゆるっと話そう ワークライフバランスとか~ 夜の部~ゆるっと話そう キャリア形成とか~

髙田 乃倫予(日本森林学会ダイバーシティ推進委員会、岩手大学)ほか
キーワード: 森林管理, ゾーニング, シンポジウム, 多面的機能, 林野行政
2023 年 105 巻 5 号 p. 187-190
https://doi.org/10.4005/jjfs.105.187