会長挨拶

2022年度からの2年間を引き続き日本森林学会会長を務めさせていただくことになりました東京大学の丹下 健です。2020年度からの2年間は、コロナ禍の中での学会運営となりました。学会大会は、現地開催ができず、オンライン開催となりました。学会大会は、研究成果の発表の場であるとともに、会員の交流の場であり、若手研究者にとっては研究者ネットワークを広げる場でもあります。2023年3月開催予定の学会大会もオンライン開催となりますが、会員交流の場の充実を図って行きたいと思います。学会大会のオンライン開催は、遠隔地からでも参加しやすいなどの利点もあり、アジア諸国からの元留学生や韓国の森林学会の先生方との交流を試行することもできました。今後、学会大会を現地開催できるようになった時に、オンライン開催の利点をどのように残していくかは、これからの検討課題と思います。

2020年に学会財政の健全化の検討を目的として理事会の元に設置した将来検討委員会の報告書で、日本森林学会誌(日林誌)のオンラインジャーナル化が改善策として提案されました。学術誌のオンラインジャーナル化は、経費削減とともに研究論文のより早い公表などの利点があり、多くの学会で採用されています。2021年度総会に日林誌のオンラインジャーナル化を提案し、日林誌が担ってきた会誌としての役割の代替方法等も含めて会員の意見を聴取し、2022年度総会で採否を決定することになりました。理事会では、日林誌あり方検討委員会を設置し、具体的な提案に向けた検討を行いました。会員に対する意向調査を経て、日林誌のオンラインジャーナル化と森林科学誌に会誌の機能を持たせて全会員に冊子体を配付することを2022年度総会に諮り承認いただきました。移行期間を設けて2023年から実施していくことになりました。機関会員と賛助会員に対しては、半年ごとに合冊した日林誌の冊子体を送付することといたしました。現在の会費の4区分が2区分に変更になり、会費が下がる会員はおられますが、値上げとなる会員はおられません。財政健全化への効果についても検証し、総会等でご報告させていただきます。

森林を取り巻く状況をみてみますと、地球環境の持続性に対する危機感から、2015年に、2020年以降の地球温暖化対策の国際的な枠組みであるパリ協定が締結され、2030年の達成目標として持続可能な開発目標(SDGs)が国連で採択されました。我が国も、パリ協定に参加し、2050年のカーボンニュートラルの達成を宣言しました。脱炭素社会の実現に向けて取り組む「グリーントランスフォーメーション」が注目されています。「グリーン」という用語が用いられていますが、環境に配慮した先端技術を使い、産業構造を変革(トランスフォーメーション)する取組であり、省エネの技術革新など、工学的な分野が主体となっています。しかし、実質排出ゼロの実現には、化石資源から生物資源への転換や、森林と木材の吸収源機能強化を格段に推進していくことが必要となります。森林分野では、SDGsの13番目の目標「気候変動に具体的な対策を」でも、森林の持続可能な経営の重要性が指摘されています。しかしながら、熱帯林の減少は続いており、地球全体の森林の炭素貯留量はほとんど増加していません。森林の吸収源機能を十分に発揮させるためには、国際協力によって森林減少を抑制する仕組みを強化する必要があります。その基盤として、森林の吸収源機能に関わる森林資源量やその成長量に関する正確なデータを共有することが必要です。国内の森林では炭素貯留量の増加が継続していますが、再造林放棄地の増加が将来の森林資源造成の課題となっています。持続可能な森林経営には、林業の採算性の向上、木材の販売収入の増加が必要です。森林を適切に維持管理することが収入に繋がるカーボンクレジット市場の拡大も期待されています。持続可能な社会の構築に向けた国内外の森林の課題は山積しており、森林科学の研究者が活躍する場は大きく広がっています。森林科学の研究者が活躍されることが、森林科学に関心を持つ若者を増やすことに繋がると思います。

コロナ禍のなかで先が見通せない状況ではありますが、研究成果の発信や情報交換などを通しての会員の皆様の研究活動の支援と社会貢献という学会の機能をさらに向上できるよう努力して参りたいと思います。皆様のご理解、ご協力をよろしくお願いいたします。

日本森林学会会長 丹下 健

(2022年6月)