日本森林学会誌105巻10号(2023年10月)

[短報] 福島第一原子力発電所事故由来の放射性セシウムによるコナラ幹部の汚染状況と外部汚染の低下要因の検討

小川秀樹(福島県林業研究センター)ほか
キーワード: コナラ, 放射性セシウム, 樹皮, 福島第一原子力発電所事故
2023 年 105 巻 10 号 p. 311-315
https://doi.org/10.4005/jjfs.105.311
[要旨] きのこ原木利用に資するため,福島事故由来の137Csにより汚染されたコナラ幹部の汚染状況を調査し,また外部汚染の低下要因を検討した。福島県内の広葉樹林において2016年にコナラ8株から16本の幹を伐採し,高さ別に円盤を採取して,部位別の137Cs濃度と137Cs分布割合を求めた。樹皮表面には事故から5年後においても未だ放射性物質が付着し,外樹皮の137Cs濃度は内樹皮,辺材,心材より高く,外樹皮には円盤全体の6~7割の137Csが分布していた。このことから事故から5年後でも外部汚染が原木利用への課題となりうることが示唆された。また,2011年から2016年までの幹の肥大成長比と2016年の外樹皮の137Cs濃度には反比例的な関係性が認められ,幹の肥大成長による樹皮表面汚染の希釈が外樹皮の137Cs濃度の減少要因の一つとなっていると考えられた。さらに,希釈の影響以上に外樹皮の濃度は低下していたことから,それ以外の要因が存在する可能性も示唆された。

[短報] 畳み込みニューラルネットワークMobileNetV2を用いたクロマツ雌花開花ステージの判定ツールの開発

宮本 尚子(国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所林木育種センター東北育種場)ほか
キーワード: MobileNetV2, クロマツ, 雌花, 開花ステージ, 人工交配
2023 年 105 巻 10 号 p. 316-322
https://doi.org/10.4005/jjfs.105.316
[要旨] 開花ステージ判定の精度は人工交配の成否に関わるため重要である。従来は目視判定するのが一般的であるが,習熟が必要であり,判定に個人差があるなどの課題が存在する。今回,クロマツ雌花について,調査者の目によらない簡易な開花ステージ判定手法を構築するため,深層学習を用いた分類モデルを作成し,モデルを組込んだWebアプリケーションを開発した。習熟した複数の調査者が様々なクロマツ雌花の画像をステージⅠ,ⅡおよびⅢに分類し,全員の判定が一致した画像合計3,074枚の画像を使用して,MobileNetV2の転移学習によってモデルを作成した。雌花が画面全体に対して小さい画像や,雌花と関係のない物体が写りこんでいる画像,雌花が黄緑色をしている画像などでモデルの予測が正しくないものがあったが,正解率は0.974,適合率と再現率をバランスよく評価するFスコアは0.949とともに非常に高かったため,実際の野外での形質評価における使用も期待できると考えた。

[短報] 釜ヶ峰アベマキ遺伝資源希少個体群保護林の林分構造と成立過程

藤木 大介(兵庫県立大学自然・環境科学研究所)ほか
キーワード: 間伐, 施業履歴, 地上部現存量, 年輪解析, 萌芽更新
2023 年 105 巻 10 号 p. 323-328
https://doi.org/10.4005/jjfs.105.323
[要旨] 広島県の釜ヶ峰には大径級のアベマキ林が成立している。本研究では,毎木調査,文献調査,年輪解析データを用いて,本林分の林分構造と成立過程を把握することを試みた。調査結果から,閉鎖林分は,林分高が30 mを超え,ブナ天然林と同程度の地上部現存量(294.2 t/ha)をもつことが示された。本林分の起源は1880年前後の伐採に伴う萌芽更新によると推測された。林冠を占めるアベマキのうち,劣勢木は1940年代と1970年代,中間木は加えて1990年代の3回に渡って成長が好転していた。これらの成長の好転は,間伐や松枯れによって,林冠孔隙ができ対象木の樹冠が拡張した結果と推測された。本林分は,コナラ属が優占する落葉広葉樹二次林が約140年で,ブナ天然林に匹敵する地上部現存量に到達した貴重な事例である。現在の里山に存在する放棄広葉樹二次林を,間伐を通して大径級の林分へ誘導するうえで,よい参照になり得る。