日本森林学会誌106巻1号(2024年1月)

[論文] 原発事故後に生育した10年生コナラ萌芽更新木における部位別137Cs濃度分布

小川 秀樹(福島県林業研究センター)ほか
キーワード: コナラ, 萌芽株, セシウム, 福島
2024 年 106 巻 1 号 p.1-6
https://doi.org/10.4005/jjfs.106.1
[要旨] 福島原子力事故直前となる2011年2月に皆伐更新を行い,その後10年生育してきのこ原木としての収穫が近づいているコナラ萌芽木について,放射性セシウム(137Cs)による地上部の汚染状況を調査した。2021年5月に福島県内の落葉広葉樹林において萌芽株3株から計9本の萌芽を伐採して幹,枝,葉を採取し,それぞれの137Cs濃度と幹および太枝における137Cs蓄積量を測定した。その結果,葉や枝先の137Cs濃度は幹や太枝に較べて非常に高く,濃度のばらつきも大きかった。一方,太枝と幹の137Cs濃度差は小さかった。以上から,萌芽における垂直方向の137Cs濃度は,葉や枝先を除いてほぼ一様の分布となっていると考えられた。また,幹の濃度は,葉や直径で区分した枝と正の相関が認められ,特に太枝での相関が高かった。さらに,葉や枝先に比べれば,太枝の現地採取は容易で,かつ,濃度のばらつきも小さいことから,きのこ原木となる幹濃度を推定する部位としては,枝葉の中では太枝が適していると考えられた。

[短報] 飲料用ペットボトルを再利用した絶滅危惧種オガサワラグワの培養苗の馴化

遠藤 圭太, 織部 雄一朗 (森林総合研究所林木育種センター)ほか
キーワード: オガサワラグワ, 絶滅危惧種(IA類(CR)), 組織培養, 馴化, ペットボトル
2024 年 106 巻 1 号 p. 7-12
https://doi.org/10.4005/jjfs.106.7
[要旨] 絶滅危惧種であるオガサワラグワ(Morus boninensis)の保全のために,苗木生産を効率化するための組織培養苗の馴化技術として,使用済みの飲料用ペットボトルを再利用した「PB馴化法」を開発した。林木育種センター(茨城県日立市)の研究施設で組織培養によってオガサワラグワのクローン苗を作製し,自生地である東京都小笠原村の父島と母島に輸送した。島内の温室や事務室でPB馴化法によって培養苗の馴化試験を行った結果,66.7~100%の高い生存率で培養苗の馴化に成功した。PB馴化法の開発により,馴化の過程で多くの苗が枯死するという問題が解決し,培養植物を扱うための設備等が充実していなかった島内の施設でも,効率的にクローン苗を保存できるようになった。入手の容易な使用済みペットボトルから馴化のための道具が作製可能であり,PB馴化法は,オガサワラグワの保全を今後も継続するための重要な技術である。