Journal of Forest Research Vol.30 No.3(2025年6月)

種類: 巻頭言/特集

Title:  Recent advances in the understanding of the development and functions of roots in forest ecosystems

巻頁: J For Res 30 (3): 143-145

題名: 森林生態系における樹木根の発達と機能の最近の理解の進展

著者: 牧田直樹,福澤加里部,檀浦正子,平野恭弘

所属: 信州大学理学部

抄録:   樹木の根は森林生態系に不可欠な要素であり,樹木の発達,森林動態,生物地球化学的プロセスに寄与している.2007年,Journal of Forest Researchは「Development and function of roots of forest trees」という特集号を組み,日本における樹木根の分野の発展に焦点を当てた.それ以来,森林生態系における根系の発達と機能の解明は大きく進展し,根の形態,解剖学,化学,生理学を含む根の機能形質の観察技術や特性評価において,大きな進歩があった.また,根と土壌生物との相互作用についての理解も進んだ.しかし,気候変動や自然災害における森の根の役割については,まだ多くの疑問が残されている.本特集号では樹木根のトピックを再検討し,最近の知見を共有し,議論することを目的とした.また,生きている根のみならず,枯死した根,根圏についても焦点を当て,樹木根研究の様々な側面を取り上げた12本の論文を掲載している.本特集号では,気候変動,地すべり,津波災害,地上部とのつながり,菌根菌共生などに関する根の研究を通して,樹木根が常にさまざまな環境要因に敏感であることを知ることができ,森林科学への情報提供と気候変動などの社会的背景の解決に役立つと期待する.

https://doi.org/10.1080/13416979.2025.2489235

 

種類: 招待総説/特集

Title:  Forest management and root systems in changing climatic conditions

巻頁: J For Res 30 (3): 146-155

題名: 気候変動下における森林管理と根系

著者: Leena Finér,大橋瑞江,平野恭弘,Tapani Repo

所属: フィンランド自然資源研究所

抄録: 気候変動は気温や地温の上昇,また高温,乾燥や洪水など局所的気象イベントの頻度の増加を導く.これらの変化は森林生態系,また木材供給や炭素隔離など生態系サービスの供給サービスに負の影響を与える.細根と菌根は,土壌から養水分を吸収すること,また寿命の短さから炭素や養分を土壌へ移行させることから,森林の生態系機能に必須の役割を果たす.この総説では,地温上昇や土壌水分利用特性の変化,また滞水環境下における樹木細根の反応についてこれまでの論文をレビューした.また環境変動に対する細根の負の反応が,樹種や産地の選択,混交林分の育成,被覆林業の連続的な実施,林業用車両による轍や土壌圧縮の回避などの森林管理作業により,どのように緩和できるかについて議論した.主な対象は亜寒帯林と温帯林の根系である.気候変動下や様々な管理法により負の影響を緩和させる樹木根反応の知見は未だ限られており,実際に導入する前にさらなる研究と発展が必要である.

https://doi.org/10.1080/13416979.2024.2385438

 

種類: 総説/特集

Title: Mission impossible? Criteria for judging dead fine roots in forest field studies

巻頁: J For Res 30 (3): 156-164

題名: 不可能な作戦?野外調査における死んだ細根の判定基準

著者: 大橋瑞江,牧田直樹,檀浦正子,福澤加里部,平野恭弘

所属: 兵庫県立大学環境人間学部

抄録: 枯死根の判定は,森林生態系の炭素(C)および栄養塩循環における細根の役割を明らかにする上で重要である.しかし,枯死根の様々な判定法や細根の枯死を表す用語のばらつきは,枯死根の定量化において重大な誤差を引き起こす可能性がある.本研究の1つ目の目的は,先行研究で用いられてきた様々な枯死根の判別基準を整理することである.2つ目の目的は,細根の死の定義に含まれる問題点を明確にし,枯死根と分解根の境界を示すことである.そして最後の目的は,同じ基準でのデータ取得に向けて,枯死根判定における将来の課題を提案することである.これらを達成するため,本研究では過去50年間に発表された95の論文を収集した.これらを精査した結果,枯死根の選別には視覚と触覚に基づく判断が最も一般的に使用されていることを発見した.そして細根の脱落と枯死の状態を表す様々な表現が認められた.枯死根の用語は根の枯死から分解までのプロセスに基づく必要がある.よって枯死根の判別精度は,細根分解過程を実験的に解明することで向上できるであろう.野外での判定基準に客観的で明確な表現を増やすことも大切である.さらに複数の手法を組み合わせ,AIなどの新しいツールを導入すれば,不可能であった枯死根判定を可能とすることができると期待される.

https://doi.org/10.1080/13416979.2025.2465818

 

種類: 総説/特集

Title: Understanding the role of vegetation root systems in the initiation of rainfall-induced shallow landslides: scaling perspectives

巻頁: J For Res 30 (3): 165-178

題名: Understanding the role of vegetation root systems in the initiation of rainfall-induced shallow landslides: scaling perspectives

著者: Rozaqqa Noviandi, Takashi Gomi, Gumbert Maylda Pratama, Rasis P. Ritonga, Teuku Faisal Fathani

所属: Department of Civil and Environmental Engineering, Universitas Gadjah Mada, Yogyakarta, Indonesia

抄録: The contribution of root systems, defined as the arrangement of belowground structures formed within plant communities through both individual plant root systems and their interactions, to the stability of forested hillslopes can be assessed at individual root and plant levels. Root systems influence both vertical and lateral flow by creating preferential flow pathways or bypassing flow and influencing pore-water development and slope stability. Root systems development differs depending on stand density (i.e. tree spacing) and species composition, which are also associated with resource competition among individual plants. Forest stand conditions related to plant density and resultant root system development possibly alter frequency and size of landslides. Scaling effect, defined as translation of insights of individual root system into entire hillslopes or watersheds, poses challenges due to the heterogeneity of forest stand conditions, soil properties, topography, and hydrological processes. The primary goal of this review is to explore how forest root systems and forest stand conditions influence landslide dynamics through hydrological and mechanical processes, thereby providing insights for further research to address sustainable forest management and disaster risk reduction.

https://doi.org/10.1080/13416979.2025.2482218

 

種類: 原著論文/特集

Title: How do aboveground and belowground functional traits correlate with the demography of tree seedlings regenerated after landslide disturbances?

巻頁: J For Res 30 (3): 179-186

題名: 山腹崩壊による撹乱跡地に更新する樹木実生ではどのようにデモグラフィーと地上部―地下部の形質は関係しているか?

著者: Ruiqi Zeng,内海 俊介,Yuzhuo Fang,福澤 加里部,吉田 俊也,小林 真

所属: 北海道大学大学院環境科学院

抄録: 機能形質に注目した植物生態学は,特に撹乱後の森林における植物のデモグラフィーを研究する上で利用されている.しかしながら,山腹崩壊による撹乱跡地に限って言えば,どのように更新する実生の機能形質とデモグラフィーが関係しているかはほとんど分かっていない.そこで本研究では,北日本において人為的に山腹崩壊を発生させた撹乱跡地に旺盛に更新していたトドマツ (常緑種)とイタヤカエデ (落葉種)を対象に2年間にわたってモニタリングを行った.私たちは,特に種内での機能形質のばらつきと2つのデモグラフィーに関わるパラメータ(成長と枯死)との関係を調べた.調査の結果,常緑の木本実生では,葉や根を作るコストや光受容に関わる機能形質と成長との間に関係が見られた.しかし,枯死に関しては,いずれの種でも機能形質との間に関係は見られなかった.これらの結果は,地上部だけではなく地下部の機能形質も山腹崩壊後の植生に回復に重要な役割を果たしていることを示唆している.また,本研究は山腹崩壊後の森林では,機能形質とデモグラフィーの種内での関係は,注目するデモグラフィーに関わるパラメータによっても異なることも示唆している.

https://doi.org/10.1080/13416979.2025.2459970

 

種類: 原著論文/特集

Title: Intraspecific variation in root system structure in a Pinus thunbergii stand grown in a gravelly spit coast

巻頁: J For Res 30 (3): 187-199

題名: 礫質砂嘴海岸に生育するクロマツ林根系構造の種内変動

著者: 平野恭弘,藤堂千景,谷川東子,山瀬敬太郎,大橋瑞江,檀浦正子,岡本祐樹,土居龍成,吉田厳,池野英利

所属: 名古屋大学環境学研究科

抄録: 海岸林のクロマツ根系は,土壌条件に応じて高い表現型可塑性を示す.本研究の目的は,1) 海岸の礫質砂嘴に生育するクロマツの根系形質-最大深さや水平根長-について,全根系掘り取りと写真から作成された根系構造モデルにより,林分内の種内変動を明らかにすること,2) 根系形質が樹木地上部形質から推定可能かどうかを明らかにすること,とした.クロマツは,硬い砂礫層を通過してねじれた根を成長させ,多くの個体は種特異的な直根型根系を,一つの個体は二段の太い水平根系をもつといった,根系の種内変動を示した.水平最大根長には地上部特性との関係が認められなかったものの,クロマツ根の最大深さには樹高と有意な関係が認められた.これは,樹高が根最大深さの予測指標となりうることを示唆し,減災機能の高い海岸林の再生に有効な指標であることを意味する.多角的立体写真測量法を用いたstructure-from-motionにより,根系のサーフェスモデルとソリッドモデルを作成し,任意の深さにおける根の断面積合計を深さ方向に連続的に推定することができた.この根系モデルを再現する新しい方法は,掘り取り後の根系形質解析に有効である.本研究は,礫質砂嘴海岸の一つの林分内でさえも,クロマツ根系特性に種内変動があると結論した.

https://doi.org/10.1080/13416979.2024.2431756

 

種類: 原著論文/特集

Title: The effects of waterlogging duration on responses of above- and belowground organs of Pinus thunbergii seedlings after the release from waterlogging

巻頁: J For Res 30 (3): 200-212

題名: 滞水期間がクロマツ苗木の滞水解除後の地上部及び地下部の回復に及ぼす影響

著者: 藤田早紀,野口享太郎,丹下健

所属: 国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所

抄録: 2011年に発生した東日本大震災の津波によりクロマツ海岸林の多くが被害を受けた.津波を受けた海岸林の再生事業では,根系を発達させるために盛土を造成しましたが,重機の走行に伴う締め固めが原因で,排水不良によって滞水が生じる盛土が一部で見られ,クロマツ苗の成長への影響が懸念されている.そこで,本研究では,異なる滞水日数を設定した苗木試験を実施した.滞水日数は,7日間,17日間,32日間(いずれも水位を土壌表面に維持)とし,その後,滞水処理を一斉に解除し,回復期間を設けた.本研究では,滞水中および滞水解除後の地上部および地下部の反応を,蒸散量や光合成速度,細根の成長および形態に着目して評価した.結果として,本実験条件下では,滞水日数が17日以内であれば,クロマツ苗木は速やかに生理的な活動を回復できることが明らかになった.しかし,滞水日数が17日から32日の場合,回復できる個体とできない個体があった.回復できた苗木では,回復に約2週間を要し,新たな細根の成長見られた.一方で,新たな細根伸長がなかった苗木では回復が見られなかった.これらの結果は,クロマツ苗木が滞水から回復できるように,滞水条件を適切に管理することが重要であることを示唆しています.

https://doi.org/10.1080/13416979.2025.2459969

 

種類: 原著論文/特集

Title: Effects of coastal embankments on ectomycorrhizal fungal communities and enzymatic activities of Pinus thunbergii in tsunami-affected areas in Japan

巻頁: J For Res 30 (3): 213-220

題名: 日本の津波被災地で造成された海岸盛土がクロマツの外生菌根菌群集と酵素活性に及ぼす影響

著者: 瀬川あすか,山口郷彬,北上雄大,小長谷啓介,村上尚徳,成松眞樹,松田陽介

所属: 三重大学大学院生物資源学研究科

抄録: 2011年に発生した東北地方太平洋沖地震とそれに伴う津波により,日本の海岸林は壊滅的な被害を受けた.そうした海岸林の再生のため,さまざまな基質で造成された盛土上にクロマツ(Pinus thunbergii)の実生が植栽された.本研究は,これら実生に関わる外生菌根菌の群集および酵素活性に及ぼす盛土の影響の解明を目的とした.岩手県の海岸林2調査地において,植栽されたクロマツ実生とその近傍で生残したクロマツ成木から外生菌根を採取した.菌根形成率は,実体顕微鏡を用いて外生菌根の形態と色にもとづき測定した.一部の外生菌根で代表的な色の根端は窒素やリン,炭素の獲得に関わる8種類の酵素活性をマイクロプレートリーダーを用いて計測し,ITS領域のDNAバーコーディングにより外生菌根菌の分類群を推定した.菌根形成率は75.8%から100%であり,成木は両調査地ともほぼ100%であった.実生の菌根形成率は,内陸の森林土壌で99.1%と最も高く,破砕コンクリート片で75.8%と最も低かった.外生菌根菌の群集組成は調査地間で有意に異なった.外生菌根の3種類の酵素活性(β-グルコシダーゼ,ロイシンアミノペプチダーゼ,N-アセチルグルコサミニダーゼ)は,砂質土壌とその他の土壌基質間で有意に異なった.これらの結果から,土壌基質が外生菌根菌の群集構造および菌体外酵素活性に影響を与える可能性が示唆された.

https://doi.org/10.1080/13416979.2025.2482199

 

種類: 原著論文/特集

Title: Morphological responses of shoots and fine roots to weed control in Abies sachalinensis and Picea jezoensis seedlings

巻頁: J For Res 30 (3): 221-233

題名: トドマツ及びエゾマツ苗木における雑草除去に対するシュートと細根の形態応答

著者: 菅井徹人

所属: 国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所 北海道支所

抄録: 苗木の形態形質が競争条件に対してどのように機能するのかを理解することは,植栽地における競合植生や苗木を管理するための基盤情報になる.本研究では,主要な北方系造林樹種であるトドマツ及びエゾマツ苗木において,手作業による雑草除去に対するシュートと細根の成長反応と機能形質を評価した.競争力を反映する地上部の形態形質として,1個体あたりのシュートの総数,当年シュート1本あたりの長さと重さ,当年葉1枚あたりの面積と重さ,およびそれらの比率を評価した.細根系は主に養分吸収能を担う繊維根と,土壌空間の獲得や資源輸送能を担うパイオニア根に分類し,それらの直径と比根長(SRL)を評価した.トドマツ苗木では エゾマツと比較して,雑草を除去しない条件下において個体あたりのシュート総数を約40%減少させ,当年シュートの長さを維持し,比葉面積を約30%増加させていた.これらの結果は,先行研究で報告されていた被陰処理に対する応答とは完全には一致せず,トドマツ苗木は競争的な条件に対して耐性的でありながら,部分的に回避的な応答も示していた.一方で,雑草除去に対する成長応答に樹種種間で差がなかったことから,個体の成長は地上部の形態反応だけで説明できないことが示唆された.トドマツ苗木では,雑草を除去しない条件下では繊維根の平均直径が比較的細く,SRLは高かった.一方,パイオニア根は,両樹種とも雑草を除去しない条件下で,その平均直径が比較的細く,SRLは高かった.以上の結果から,細根系は,地上部の競争戦略に関係なく,競争に対して広く回避戦略をとることが明らかになった.地上部の資源と比較すると土壌中の資源は枯渇することがあることから,競争的な条件下における土壌空間の先制的な獲得の重要性が示唆された.

https://doi.org/10.1080/13416979.2025.2452059

 

種類: 原著論文/特集

Title: Inconsistent interannual variations between net primary production and soil CO2 effluxes in a Moso bamboo forest

巻頁: J For Res 30 (3): 234-241

題名: モウソウチク林におけるNPPと土壌CO2フラックスの年々変動は一致しない

著者: 久米朋宣,林伯宣,Marly Orrego,鐘敏華,羅明慧,Si-Ho Han

所属: 九州大学大学院農学研究院(福岡演習林)

抄録:  森林生態系の炭素動態を評価するためには,純一次生産量(NPP)と土壌CO2フラックス(Rs)の年々変動の関連性を理解することが重要である.特に,タケノコの生産量が豊作・不作と2年周期で入れ替わることで知られるモウソウチク(Phyllostachys pubescens)林では,その重要性がさらに高い.本研究では,モウソウチク林において5年間にわたりNPPおよびRsの各コンポネントを測定し,それらの年々変動パターンが地上部と地下部とで一致するのかどうかを検討した.

結果として,NPPは顕著な年々変動(変動係数:CV = 41%)を示し,その大きな年々変動は,地上部NPPに起因していた.一方で,Rsの各成分(根呼吸(Ra)および分解呼吸(Rh))は,比較的小さい年々変動(CV = 10%–22%)を示した.NPPとRsの年々変動は同期しないことが確認されたが,リターフォールや細根生産量とRaとの間にはわずかな正の相関関係(スピアマン相関係数 = 0.9,p < 0.1)が観察された.これらの結果は,NPPのコンポネントが当該年のRaに影響を与える可能性がある一方で,Rhの年々変動は当該年のNPPの年々変動の影響を受けないことを示唆する.また,これらの結果は,モウソウチク林における純生態系生産量(NEP = NPP − Rh)の推定を簡略化できることを示唆しており,地域スケールでの簡便な炭素収支評価の可能性についても議論した.本研究では,竹林生態系における地上部および地下部プロセスのさらなる長期モニタリングの重要性を強調した.

https://doi.org/10.1080/13416979.2024.2440993

 

種類: 原著論文/特集

Title: Seasonal and interspecific variations in the water uptake depth of trees in a moist cool-temperate mixed forest in Japan

巻頁: J For Res 30 (3): 241-250

題名: 日本冷温帯混交湿潤林における樹木の吸水深度の季節変動と種間差

著者: 勝浦柊,松尾奈緒子,藍場将司,中川弥智子

所属: 名古屋大学大学院生命農学研究科

抄録: 樹木の吸水深度は,樹木の水獲得戦略や森林生態系の水循環に影響を与える重要な指標であるが,湿潤林では実証的なデータが不足している.本研究では,酸素安定同位体を用いて日本の冷温帯混交湿潤林に共存する24種の樹木の吸水深度を推定し,気温は異なるが土壌水分は同程度に湿潤な3時期(5月・8月・10月)において,季節・樹種・斜面位置・樹高が吸水深度に与える影響を明らかにした.季節は吸水深度に影響を与える要因の1つであり,気温が最も高かった8月に吸水深度は最も浅く,気温が最も低かった5月に最も深くなった.この吸水深度の季節変動は,高温下での蒸散量の増加により,水分の多い土壌表層からの吸水割合が増加する,または地温の高い土壌表層で細根生産が活性化するといった生理的プロセスに起因すると考えられる.樹種も吸水深度に影響し,湿潤林においても樹種間で地下資源のニッチ分化が生じていることが示唆された.斜面位置と樹高は吸水深度に影響を与えていなかった.本研究により,湿潤林において気温変動に起因する生理学的プロセスの変化が吸水深度に影響を与える可能性が示唆され,この結果は温暖化に対する湿潤林の応答を予測する上で重要である.

https://doi.org/10.1080/13416979.2024.2402591

 

種類: 原著論文/特集

Title: Morphological type and taxonomic diversity of arbuscular mycorrhizal fungi along an altitudinal gradient at Mount Ibuki, Japan

巻頁: J For Res 30 (3): 251-261

題名: 伊吹山における標高勾配に沿ったアーバスキュラー菌根菌の形態型と分類学的多様性

著者: Linda Yustikasari,北上雄大,小長谷啓介,松田陽介

所属: 三重大学大学院生物資源学研究科

抄録: アーバスキュラー菌根(AM)共生は,植物と菌類の最も広範な相互作用のひとつである.しかし,森林生態系のなかでも,気候条件,土壌特性,宿主植物種の変化を伴う標高勾配に沿ったAM菌の分布はほとんど知られていない.本研究は,標高勾配に沿ったAM菌共生の解明を目的とした.そこで,伊吹山の異なる標高において,AM菌の菌形成率と群集組成を調べた.標高200 m,500 m,800 mのスギ,標高1100 mのオオイタヤメイゲツ,山頂にあたる標高1350 mのリュウノウギクから各種の根と土壌を採取した.菌根形成を評価するため,各標高に由来する15試料の根を顕微鏡観察に用いた.これらの試料は,rRNA小サブユニット遺伝子のV4,V5領域を標的としてサンガー法によりDNA塩基配列を決定した.菌根形成率は標高と有意で正の相関関係にあった.Arum型とParis型は,各標高に由来する検鏡した全植物種で観察された.Glomus属とDiversispora属で構成された101の分子操作的分類群が見出された.標高間におけるAM菌群集組成の有意なクラスタリングは認められなかった.環境変数の中では,土壌温度とpHがAM菌の群集構造様式に有意な影響を与えた.以上より,標高が高くなるにつれて,植物はより強固な菌根共生を必要とし,その関係は周囲の環境により選抜されることが示唆された.

https://doi.org/10.1080/13416979.2024.2390273

 

種類: 原著論文/特集

Title: Effects of soil physical ameliorants on the growth and root morphology of Prunus yedoensis and Ginkgo biloba seedlings in compacted soils

巻頁: J For Res 30 (3): 262-271

題名: 土壌物理性の改善が締固め土壌に生育するPrunus yedoensis とGinkgo biloba 苗の成長と根形態に与える影響

著者: Se Hee Lee, Min Woo Park, Hanna Chang, Sun Mi Je, Gwang-Jung Kim, Nam Jin Noh

所属: Department of Forestry and Environmental Systems, Kangwon National University, Chuncheon, Republic of Korea

抄録: Soil compaction is prevalent in forest ecosystems, it alters the physical structure of the soil and impedes tree growth. Although ameliorants are known to enhance soil properties and positively influence tree growth, studies remain limited on the effects of potential factors on root development in compacted soils after amelioration. This study aimed to examine the effects of the physical ameliorant treatments BIOC (compaction + biochar) and ORGF (compaction + organic fertilizer) on the soil properties, growth, and root development of Prunus yedoensis and Ginkgo biloba seedlings in compacted soils. We found that ameliorant treatments improved physicochemical soil conditions, such as bulk density, porosity, permeability, pH, total carbon, and total nitrogen, which in turn influence seedling growth. Specifically, in P. yedoensis, the relative growth rate of height was significantly higher in BIOC (46.19 ± 3.47%) compared to the control (29.58 ± 3.22%). The ameliorants did not significantly affect root morphological traits; however, we found that the total fine root length was positively correlated with shoot biomass in G. biloba (R = 0.97), but not in P. yedoensis. Root length tended to increase in BIOC, with measurements of 288.12 ± 68.97 m for P. yedoensis and 65.96 ± 25.08 m for G. biloba, while the mean fine root diameter tended to decrease in ORGF (1.25 ± 0.04 mm) and BIOC (1.37 ± 0.08 mm) for G. biloba. We conclude that biochar and organic fertilizer positively affect both soil properties and plant growth, highlighting that enhanced root development through ameliorants can improve plant growth in compacted soil.

https://doi.org/10.1080/13416979.2024.2420374

 

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