Journal of Forest Research Vol.29 No.1(2024年2月)

種類: 巻頭言/特集

Title:  Physiological ecology of woody species under changing environments

巻頁: J For Res 29 (1): 1-2

題名: 変動環境下における木本植物の生理生態学

著者: 渡辺誠,星加康智,小池孝良

所属: 東京農工大学農学部

https://doi.org/10.1080/13416979.2023.2291743

 

 

種類: 原著論文/特集

Title:    Defensive traits of Fagus crenata leaves after long-term CO2 exposure in free-air CO2 enrichment (FACE) system

巻頁: J For Res 29 (1): 3-10

題名: 開放系大気CO2増加(FACE)施設内で長期間CO2曝露を行ったブナ葉の防御形質

著者: 渡邊陽子,松木佐和子,矢崎健一

所属: 北海道大学農学研究院

抄録: 産業革命以来,急激に大気中CO2濃度が上昇し続けており,植物,とくに木本植物への成長や生理的な影響が懸念されている.なかでも,高CO2濃度による植物の防御特性の変化(例えば縮合タンニン量の増加)から植物―植食者間相互作用の変化が予測されているが,葉の開葉フェノロジーと防御形質の季節変化に対するCO2の影響に着目した研究は少ない.本研究では,開放系大気CO2増加(FACE)施設内で7–9年間生育したブナの苗木を用いて,3年間開葉フェノロジーと防御形質の季節変化に対する高CO2濃度の影響を調査した.その結果,高CO2濃度(500 µmol mol-1)下においても開葉フェノロジーは対照区(360 µmol mol-1)と同じであった.葉の防御形質では有意にCO2の影響を受けているものもあったが,調査年により影響が異なった.また,処理区と季節間の交互作用はほとんどみられなかった.したがって,本研究では長期間のCO2暴露にかかわらず,ブナ葉の開葉フェノロジーおよび防御形質の季節変化に対する高CO2濃度の影響は見られなかった.その理由として,暴露したCO2濃度が低かった可能性があること,野外での実験のため他の環境要因も影響している可能性があることが考えられた.

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/13416979.2023.2291212

 

 

種類: 原著論文/特集

Title:   Feeding of leaf beetle to two species of alder grown under two different soils in a free-air CO2 enrichment

巻頁: J For Res 29 (1): 11-18

題名: 開放系CO2付加施設の異なる土壌に生育したハンノキ属樹木2種のハムシによる食害

著者: 増井昇,渡邊陽子,飛田博順,小池孝良

所属: 静岡県立大学食品栄養科学部

抄録: 異なる土壌(褐色森林土–富栄養,火山灰土混合区–貧栄養)に植え付けたミヤマハンノキ(Alnus maximowiczii)とケヤマハンノキ(A. hirsuta)の植食性昆虫(ハンノキハムシ:Agelastica coerulea)に対する葉の被食防御能力に及ぼすCO2濃度上昇の影響を,開放系CO2付加(FACE)施設を利用して調査した.高CO2(約500ppm)はミヤマハンノキの被食葉面積指数(CLI)から抵抗性を示したが,土壌肥沃度の影響は無かった.一方,ケヤマハンノキのCLIに対してより有意な影響がCO2と土壌肥沃度の両方で見られた.自然条件下で見られたように,ケヤマハンノキはミヤマハンノキと比較すると,両方のCO2レベルで,約5倍多く植食性昆虫(ハンノキハムシ)が食害を与えた.これはミヤマハンノキ葉の縮合型タンニン(CT)濃度がケヤマハンノキより高いことから説明された.7月の対照区では,面積当たりの質量(LMA)は,富栄養土壌の葉では貧栄養土壌よりも約10 g m-2低かった.葉のC/N比は,両種とも高CO2の影響を受けなかったが,ケヤマハンノキでは7月の富栄養土壌と比較して,貧栄養土壌で少し高かった.ミヤマハンノキのCTは高CO2下で9月に増加する傾向があった.ヤマハンノキのCTは,7月には富栄養よりも貧栄養土壌で高く,9月には7月に比べて全体的に減少した.ミヤマハンノキのフランキア属の根粒による窒素固定活性は,土壌の肥沃度とは無関係に,高CO2で対照区よりも高かった.これら葉の特性が変化した結果,肥沃な土壌を除き,ハンノキ属の植食者による食害のピークは,対照区よりも高CO2区の方が遅く出現した.

https://doi.org/10.1080/13416979.2023.2290763

 

 

種類: 原著論文/特集

Title:    Leaf defense traits of birch, beech, and oak saplings grown under two types of soil in a free-air ozone exposure system

巻頁: J For Res 29 (1): 19-29

題名: 開放系オゾン曝露施設を用いた異なる土壌肥沃条件に生育するシラカンバ,ブナ,ミズナラ幼木の葉の防御形質

著者: 石聡,増井昇,小池孝良,寺田千里,中村誠宏,渡部敏裕

所属: School of Environmental Science and Engineering, Tiangong University

抄録: 葉の防御形質は光合成産物に由来するため,木本植物における食害量の増加は,植物の光合成能力を抑制する対流圏オゾン(以下,O3)濃度の増加に起因すると考えられる.そこで,異なるO3濃度条件(非制御区,高濃度O3区)及び土壌肥沃条件(富栄養な褐色森林土壌,または貧栄養な火山灰土壌)において,シラカンバ(遷移初期種),ブナ(遷移後期種),ミズナラ(中間種)に関して葉の防御形質を調べた.その結果,リグニンを除いて,シラカンバの葉の防御形質は高濃度O3及び富栄養条件によって低下することが示された.ブナはO3感受性であるものの,C/Nは富栄養条件でわずかに高く,特に総フェノール類とリグニン濃度は高濃度O3により増加した.したがって,CNB仮説(carbon-nutrient balance hypothesis)はブナには適用されなかった.これは,シラカンバや他の樹木とは,ブナが異なる栄養塩の転流システムを有しているためであると考えられた.O3感受性の低いミズナラでは,O3濃度や土壌肥沃度の影響はあまり認められなかったが,窒素量の減少により,C/N は 高濃度O3区でわずかに増加する傾向が認められた.さらに,ミズナラの葉の総フェノール類は,貧栄養条件で高濃度O3によって減少する傾向が認められた. これらの結果から,樹種間で異なるO3感受性は,防御形質への影響を通じて植物と昆虫の関係性を改変することが示唆された.

https://doi.org/10.1080/13416979.2023.2280730

 

 

種類: 原著論文/特集

Title:    Ecophysiological difference in co-existing beech and oak saplings grown in different soil types under a free-air ozone exposure system

巻頁: J For Res 29 (1): 30-37

題名: オゾン付加と異なる土壌条件の組み合わせで生育したブナとミズナラの生理生態学的特性

著者: 北岡哲, 石聡, 渡部敏裕, 小池孝良

所属: 北海道大学農学研究院

抄録:ブナ(Fagus crenata)とミズナラ(Quercus mongolica var. crispula)幼木の成長と葉の養分特性に,オゾン(O3)濃度と土壌条件が与える影響を評価した.開放系O3付加実験施設(O3付加なし35ppb対O3付加75ppb)と土壌2処理区(火山灰土壌と褐色森林土)を組み合わせた計4処理区で実験を行なった.その結果,幼木でもブナのO3耐性はミズナラよりも低いことが確認された.処理区ごとの全個体における二次伸長個体の比率は,O3付加に対して,ブナとミズナラで異なった.ブナの二次伸長率は0.5未満であったが,ミズナラでは0.4~0.6であり,さらに3度目のシュート伸長も観察された.最大光合成速度(Amax)の処理区による差は,ミズナラでは見られなかったが,ブナではO3付加により低下傾向にあった.主成分分析により4処理区のブナとミズナラは,Amaxと葉の養分特性で次のように特徴づけられた.O3付加のブナは第1主成分であるCaが高く,N,P,K,Amaxが低く,第2主成分のMgとMnが低かった.ミズナラはO3付加と褐色森林土の組み合わせにおいて,N,P,K,Amaxが高かったが,第2主成分の影響が小さかった.今後,O3の前駆物質であり酸性沈着物としての影響も懸念される窒素酸化物(NOx)の排出が,アジア域で増え続けるならば,土壌酸性化により土壌中のMnとAl濃度が上昇し,高O3濃度下でブナの光合成活性はさらに低下することが考えられた.

https://doi.org/10.1080/13416979.2023.2290765

 

 

種類: 原著論文/特集

Title:  Effects of ozone on stomatal ozone uptake in leaves of Fagus crenata seedlings grown under different CO2 concentrations

巻頁: J For Res 29 (1): 38-45

題名: 異なるCO2濃度下で育成したブナ苗の葉における気孔を介したオゾン吸収に対するオゾンの影響

著者: 呂雨晴,有浦涼,黎婧,松本美佐子,青木拓朗,黄瀬佳之,山口真弘,伊豆田猛,渡辺誠

所属: 東京農工大学大学院農学府

抄録: 大気汚染物質のオゾンは,樹木の葉において気孔の鈍化として知られる気孔の制御障害を引き起こす.オゾンは気孔を通って葉内に侵入するため,気孔の鈍化は気孔からのオゾン吸収に影響をおよぼす可能性がある.一方,将来予想されている大気CO2濃度の上昇は,オゾンの気孔に対する影響を緩和する可能性がある.そこで本研究では,ブナの苗木を対象として,オゾンによる気孔の鈍化が葉における気孔からのオゾン吸収に与える影響を異なるCO2濃度条件で調べた.ブナの苗木を,2段階のオゾン濃度(低濃度および野外オゾン濃度の2倍)と2段階のCO2濃度(外気および700 ppm)を組み合わせた合計4処理区において,3成長期(2018~2020年)にわたって生育した.2020年7月に,葉のガス交換特性を測定し,光合成モデルと気孔コンダクタンス(gs)モデルを組み合わせた結合モデルを用いて,葉の気孔からのオゾン吸収量を推定した.オゾンはブナの葉の光合成能力に有意な影響を与えなかったがgsを有意に増加させた.この結果よりオゾンが気孔の鈍化を引き起こしたと判断された.オゾンはgsと純光合成速度の関係を変化させ,Ball-Berry-Leuningのgsモデルの傾きを有意に増加させた.葉の気孔からのオゾン吸収に関するモデルを用いた感度分析の結果,オゾンによる気孔の鈍化がオゾンの吸収量を増加させることが明らかになった.高濃度CO2は気孔閉鎖を引き起こし,葉の気孔からのオゾン吸収量を30~40%低下させたが,オゾンによる気孔の同化を緩和することはなかった.これらの結果は,オゾンによる気孔制御の障害を,気孔からのオゾン吸収と,それにともなう樹木へのオゾン影響を推定するモデルに組み込むことの重要性を示している.

https://doi.org/10.1080/13416979.2023.2283981

 

 

種類: 原著論文/特集

Title:    Differences in photosynthetic and water use characteristics of four co-existing tree species at the treeline of the Japanese Alps

巻頁: J For Res 29 (1): 46-53

題名: 日本アルプスの高木限界における4樹種の光合成および水利用特性の差異

著者: 東若菜,鎌倉真依,矢原ひかり,高橋耕一,牧田直樹

所属: 神戸大学大学院農学研究科,京都大学大学院農学研究科

抄録: 山岳生態系の脆弱性を評価する上で,高山域の樹木の生理特性の把握は極めて重要であるが,共存する落葉樹と常緑樹における水資源の獲得と利用の違いはまだ十分に理解されていない.本研究では,高標高域の環境に対する樹木の生理的適応を明らかにするために,乗鞍岳2500m付近の高木限界(樹高3m以上の樹木で構成される樹林帯の高標高域)に生育する落葉広葉樹(ウラジロナナカマド:Sorbus matsumuranaおよびダケカンバ:Betula ermanii)および常緑針葉樹(オオシラビソ:Abies mariesiiおよびハイマツ:Pinus pumila)について,夏季の光合成および水利用特性を個葉および個体レベルで比較した.その結果,落葉樹と針葉樹の違いのみでなく,各樹種に特徴的な生理学的適応がみられた.ウラジロナナカマドは高い水利用効率(葉の蒸散に対する光合成の比)と浸透圧調節により葉の水分を維持していた.対照的に,ダケカンバは水利用効率が低かったが,土壌から葉への通水コンダクタンスが高いことにより水分を補っていた.一方,オオシラビソは気孔制御により高い水利用効率を示し,葉の飽水量が高く水分を保持していた.また,ハイマツは水利用効率が低かったが,高い葉の貯水性と弾性率により失水を回避していた.したがって,高木限界の生育環境に対して,樹木は種特有の葉の光合成と水利用特性に依存して適応していることが示唆された.

https://doi.org/10.1080/13416979.2023.2289267

 

 

種類: 原著論文/特集

Title:    Regeneration of forest floor-grown seedlings of Sakhalin fir can be promoted through shading by shelter trees

巻頁: J For Res 29 (1): 54-61

題名: トドマツ前生稚樹の更新は保残木による庇陰によって促進される

著者: 北尾光俊,原山尚徳,古家直行,Evgenios Agathokleous,石橋聡

所属: 森林総合研究所北海道支所

抄録: トドマツ前生稚樹の天然更新を利用した造林コストの削減に期待が寄せられている.一方で,トドマツは典型的な陰樹であり,上木伐採により前生稚樹に強い光が当たることで,褐変などの障害が生じることが知られている.本研究では,トドマツ人工林内の前生稚樹を対象として,上木伐採後の生存と成長を決める日射に関連する要因を調べた.UAVにより撮影した航空写真から算出した生存率は,全天写真により推定した連続照射日射量の最大積算値と,庇陰されている時間の合計値によって予測することが可能であった.上木伐採から1年目の夏に測定した針葉の落葉率は日積算日射量の増加にともない上昇した.また,伐採から2年目の夏に測定した当年枝の既存の葉に対する成長比は日積算日射量が多いほど低下する傾向が見られた.針葉の落葉によって,古い葉から当年枝に供給できる窒素が制限されることが成長低下の原因として考えられた.以上の結果から,地形的要因(北斜面など)や保残木によって日影を作り,強光による障害を回避することがトドマツ前生稚樹の天然更新に重要であると考えられる.

https://doi.org/10.1080/13416979.2023.2246753

 

 

種類: 原著論文/特集

Title:    Climate-related variation in leaf size and phenology of Betula ermanii in multiple common gardens

巻頁: J For Res 29 (1): 62-71

題名: 気候と関連したダケカンバ苗木の葉サイズ・フェノロジーの産地間変異

著者: 相原隆貴,荒木響子,Ragini Sarmah,蔡一涵,Aye Myat Myat Paing,後藤晋,久本洋子,種子田春彦,戸丸信弘,本間航介,高木正博,吉田俊也,飯尾淳弘,永松大,小林元,廣田充,津村義彦

所属: 筑波大学生命環境科学研究科

抄録: 葉形質やフェノロジーは樹木の生産や適応に直結する重要な形質である.形質の種内変異と関連する気候条件の理解は,その樹種の環境変化に対する適応能力の評価に繋がる.本研究は近年の気候変動下で著しい気温上昇を経験する高山に分布するダケカンバに着目した.産地試験地において,日本の南北に渡る産地由来の苗木の葉面積・比葉面積(SLA:specific leaf area)・開葉日を二年にわたり計測し,強く相関すると考えられる苗木の樹高,産地の気候条件との関連を検証した.分散分析の結果,全形質で産地間の変異が見られ,特に葉面積はその影響を強く受けていた.高緯度出身の苗木ほど樹高が大きく,葉面積・SLAの大きい葉を持ち,早い開葉を行う傾向にあった.葉面積は苗木の樹高と強く相関しており,大きな苗木ほど葉面積の大きい葉を持っていた.夏期降水量の少ない産地由来の苗木ほど樹高が大きく,葉面積の大きな葉を形成した.その一方,SLA・開葉日と二年間にわたって関連する産地の気候条件は検出できなかった.ダケカンバ苗木が高緯度産地出身ほど早い開葉型を示したのは,日長のバリエーションと関連があると推察された.産地間の気候条件の違いがダケカンバの樹高・葉形質・フェノロジーの変異の創出に貢献していると考えられた.

https://doi.org/10.1080/13416979.2023.2289731

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