Journal of Forest Research Vol 19, No 5 (2014年10月)

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Title:  Balancing wood market demand and common property rights: a case study of a community in the Italian Alps
巻頁: J For Res 19 (5): 417-426
題名: 木質バイオマスエネルギーの新規市場需要と共有財産権に基づく地元利用のバランスについて-イタリア・アルプス地方の共有林の事例-
著者: Alessandro Paletto,Isabella De Meo,Maria Giulia Cantiani,Dario Cocciardi
所属: Consiglio per la Ricerca e la sperimentazione in Agricoltura, Italy
抄録: Common property rights have a long tradition in the Italian Alps, dating back to the Middle Ages, when alpine village communities managed common forests. On these properties, in accordance with rules aimed at regulating the collective use of resources, shareholders have the right of common use of the land. As many mountainous areas still rely on firewood for the heating of homes, the right to gather firewood from common forests is the most important common property right. In the last few decades, renewable bio-energy production based on forest woody biomass has undergone significant development. In Italy, in communities where the right to gather wood still has economic, social, and cultural relevance, decision makers and community members have a different vision about the use of firewood. This paper focuses on this issue by presenting a case study located in the Italian Eastern Alps, characterised by a historical tradition of common property management. In order to define the optimal strategy to manage the common forests, taking into consideration the local community’s needs, a semi-structured questionnaire was submitted to the administrators of the common forests and to the shareholders. Different scenarios of wood use were developed to support managers and decision makers in identifying on-going trends in firewood demand. The results show that the economic scenario for the development of the bio-energy supply chain cannot be reconciled with the historical tradition and social needs.


種類: 原著論文/社会経済-計画-経営
Title:  REDD+ initiatives for safeguarding biodiversity and ecosystem services: harmonizing sets of standards for national application
巻頁: J For Res 19 (5): 427-436
題名: REDDプラス・イニシアティブにみる生物多様性及び生態系サービスのセーフガード指針の比較分析-プロジェクトから国レベルまでの複数スタンダード・ツールの調和を目指して-
著者: 江原誠,百村帝彦,横田康裕
所属: 九州大学大学院比較社会文化学府
抄録: REDDプラスの議論が本格化するに伴い、REDDプラス実施による環境面への影響に関心が高まっている。本論ではREDDプラスのセーフガード指針として世界的に利用されている3つのスタンダード(基準)と1つのツールを対象とし、それぞれの生物多様性と生態系サービスの取扱いについて比較分析した:社会・環境原則と基準(SEPC);REDDプラス社会・環境スタンダード(REDDプラスSES);気候・地域社会・生物多様性プロジェクト設計スタンダード(CCBS);戦略的環境・社会アセスメント(SESA)。これらのスタンダード・ツール間では、REDDプラスがもたらす正の影響を期待する空間的範囲の違い、優先されるべきREDDプラス活動の違い、生物多様性と生態系サービスのモニタリングの厳密さの違いといった生物多様性と生態系サービス確保への取組にて期待されている成果とそれらを達成するための手段が異なっていた。一方、これらのどのスタンダード・ツールにおいても、生物多様性と生態系サービスのための優先エリアの特定やREDDプラスの活動の負の影響のモニタリングとその緩和対策が求められていた。こうした様々な期待に現実的に対応し、プロジェクトレベルから国レベルへと取組のスケールアップを促進するための一助として、各スタンダード・ツールの特性を活かしながら、これらのスタンダード・ツールを組み合わせて利用する複数のオプションを提案した。


種類: 原著論文/社会経済-計画-経営
Title:  A comparative study of heuristic algorithms for the multiple target access problem
巻頁: J For Res 19 (5): 437-449
題名: 多ターゲットアクセス問題に対するヒューリスティックアルゴリズムの比較研究
著者: 白澤紘明,長谷川尚史
所属: 京都大学大学院農学研究科
抄録: 計算実験を通して、多ターゲットアクセス問題(MTAP)に対するヒューリスティックアルゴリズムの比較研究を行った。MTAPとは、森林域に設けられた目的地に到達するための最小費用の道路網を設計する問題である。まず、MTAPは既存道路網をあらわすノードを同一視することで、グラフ理論におけるシュタイナー木問題(STP)に変換できることを示した。これによりMTAPを解くために、STPアルゴリズムを使用することが可能となった。STPがNP困難であるため、本研究ではヒューリスティックアルゴリズムを用いた。計算実験では、その多くが近似率2である14種類のヒューリスティックSTPアルゴリズムを対象とし、各アルゴリズムによって、様々な特徴を持つ1,120の問題例が解かれた。実験の結果、平均距離ヒューリスティック(ADH)と最短路ヒューリスティックの反復適用(SPH-V、SPH-Z、SPH-zZ、SPH-ZZ)が、解の質の観点から優れた性能を有することが示された。加えて、ADH、SPH-V、SPH-ZZによって、似たような形状の道路網が設計されることを確認した。


種類: 原著論文/環境
Title:  Effect of climate and structure on the progression of wooden check dam decay
巻頁: J For Res 19 (5): 450-460
題名: 木製治山堰堤の腐朽の進行程度に及ぼす気候条件と構造条件
著者: 秋田寛己,北原曜,小野裕
所属: 日本工営株式会社 大阪支店 技術第二部
抄録: 木製治山堰堤(以下,木堰堤)の腐朽の進行程度に及ぼす気候条件と構造条件を解明するため,環境条件の異なる3県における木堰堤腐朽調査を実施した。ピロディン貫入量のμとσは線形関係にあるため,腐朽評価値をμとして,アメダス観測所データ等からの気候条件及び木堰堤構造条件との関係性を調査した。重回帰分析の結果として,気候条件では気温と降雨日数から算出したCI,気温から算出したWI,年平均気温,標高が影響を及ぼす因子と考えられた。また,CIのように温度と水の因子を掛け合わせた指数の方が降水量等の単独因子よりも腐朽との関係性がよいことがわかった。構造条件では比流量,水通し幅,堤長,堤高がそれぞれ影響を及ぼす因子と考えられた。気候と構造条件の統合結果として,CI,標高,堤高が説明変数として抽出され,施工後5年までのμの予測式が得られた。この予測式は,アメダス観測所データからのCIを求めることで地域別に木堰堤腐朽の推定が可能であると考えられた。


種類: 原著論文/生物-生態
Title:  Verification of a phenotypic discrimination method for hybrid larch seedlings using DNA markers
巻頁: J For Res 19 (5): 461-468
題名: グイマツ×カラマツF1雑種苗木の表現型識別方法のDNAマーカーによる精度検証
著者: 来田和人,内山和子,市村康裕,森口喜成,津村義彦,黒丸亮
所属: 北海道立総合研究機構林業試験場
抄録: グイマツ(Larix gmelinii var. japonica)とカラマツ(L. kaempferi)のF1雑種は、初期成長が早く幹が通直であり野鼠の食害を受けにくいことから、北海道で重要な造林樹種である。良質な苗木を生産するためには、正確に雑種を判定する必要があるが、グイマツ×グイマツ苗木とグイマツ×カラマツ苗木の間で形態やフェノロジーに連続的な変異がある。そのためDNAマーカーを使用して形態やフェノロジーによる雑種識別方法の精度検証と改良を行った。葉緑体DNAの解析によると雑種採種園産1年生苗木の雑種率は、採種年(2004年,23.2%;2005年,53.6%)と母樹(2004年, 5.8?39.4%;2005年, 20.0?81.0%)によって異なっていた。判別分析によると2年生苗木の根元径、同時枝(伸長中の主軸から、その年のうちに分枝した枝)の数、頂芽形成日、1年生苗木の頂芽形成日が雑種苗木の識別に有効な形質であった。毎年一定の雑種率を仮定し苗長を判定基準に含む従来の識別方法では、正しく識別できた苗木の割合は72.7?78.5%,であった。一方、判別分析で識別能力が高いとされた形質を採用し、苗木の選別強度をDNA解析で推定した雑種率に一致させた改良型識別方法では、正しく判別できた苗木の割合が81.7?88.2%に高まることが明らかになった。


種類: 短報/生物-生態
Title:  First report of triploidy in Ailanthus altissima, an invasive tree species
巻頁: J For Res 19 (5): 469-472
題名: 3倍体ニワウルシの報告
著者: 黒河内寛之,内山寛,長谷川幹夫,齊藤陽子,井出雄二
所属: 東京大学大学院農学生命科学研究科
抄録: 中国原産のニガキ科落葉高木ニワウルシは過去に本種が植栽された国々で、植栽地からの逸出が問題となっている。著者らは核DNAのマイクロサテライトマーカーを用いて日本各地から採取したニワウルシを解析したが、その解析過程で倍数性が疑われるオスのニワウルシ個体(以下、Aa-1)を発見した。Aa-1の倍数性を確認するために、光学顕微鏡を用いた花粉の形態観察とフローサイトメトリーを用いた倍数性の検定を行った。Aa-1の花粉の中には多倍体植物に特徴的な巨大花粉が確認された。また、Aa-1の核DNA相対量は通常個体の1.5倍で、Aa-1は3倍体であると推測された。一般的に奇数倍数体個体は通常個体に比べて繁殖力の低いことが知られており、Aa-1も種子による繁殖力が低い可能性がある。そのため、Aa-1は植栽地からの逸出のリスクを抑えて、利用できるかもしれない。

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