Journal of Forest Research Vol 16, No 1 (2011年2月)

http://www.springerlink.com/content/109671/

種類: 原著論文/環境
Title: Nitrogen-fixing activity in decomposing litter of three tree species at a watershed in eastern Japan
巻頁: J For Res 16 (1): 1-7
題名: スギ人工林および落葉広葉樹林における落葉分解に伴う窒素固定活性の変化
著者: 山中高史, 平井敬三, 相澤州平, 吉永秀一郎, 高橋正通
所属: 森林総合研究所
抄録: 落葉分解に伴う窒素固定活性の変化を明らかにするため、コナラ、アカマツまたはスギの新鮮落葉(風乾重約3g)を入れたリタ-バックを茨城県城里町の小流域(2.3 ha)の斜面上部に位置する落葉広葉樹林内および斜面中部に位置するスギ人工林内に設置した。アセチレン還元法により測定したスギ落葉の窒素固定活性量はバック設置後16ヶ月目と19ヶ月目とに、62.56–3.86 nmoles C2H4•h-1•g-1乾重になったが、同時期のコナラおよびアカマツでは、1.07–0.09であった。窒素含量の上昇はスギ落葉で最も大きかった。真菌バイオマスは、スギおよびコナラ落葉では設置後16ヶ月目まで上昇し、アカマツ落葉では設置後19ヶ月目まで上昇した。窒素含量および真菌バイオマスが最も大きく増加したスギ落葉で重量減少率が大きくなったことから、スギ落葉における窒素含量の増加がその後の落葉分解様式および窒素循環に影響を及ぼしていることが示唆された。

種類: 原著論文/環境
Title: Litter decomposition in a subtropical plantation in Qianyanzhou, China
巻頁: J For Res 16 (1): 8-15
題名: 中国千煙洲の亜熱帯造林地におけるリター分解
著者: Shiguo Xu, Yunfen Liu, Yingguang Cui, Zhiyong Pei
所属: 中国・山東師範大学
抄録: A long-term (20 months) bulk litter decomposition experiment was conducted in a subtropical plantation in southern China in order to test the hypothesis that stable isotope discrimination occurs during litter decomposition and that litter decomposition increases concentrations of nutrients and organic matter in soil. This was achieved by a litter bag technique. Carbon (C), nitrogen (N) and phosphorus (P) concentrations in the remaining litter as well as б13C and б15N during the experimental period were measured. Meanwhile, organic C, alkali-soluble N and available P concentrations were determined in the soils beneath litter bags and in the soils at the control plots. The dry mass remaining (as % of the initial mass) during litter decomposition exponentially declined (y = 0.9362 e-0.0365x, R2 = 0.93, P < 0.0001), but total C in the remaining litter did not decrease significantly with decomposition process during a 20-month period. By comparison, total N in the remaining litter significantly increased from 5.8 ± 1.7 g kg-1 dw litter in the first month to 10.1 ± 1.4 g kg-1 dw litter in the 20th month. During the decomposition, б13C values of the remaining litter showed an insignificant enrichment, while б15N signatures exhibited a different pattern. It significantly depleted 15N (y = -0.66x + 0.82, R2 = 0.57, P < 0.0001) during the initial 7 months while showing 15N enrichments in the remaining 13 months (y = 0.10x – 4.23, R2 = 0.32, P < 0.0001). Statistically, litter decomposition has little impact on concentrations of soil organic C and alkali-soluble N and available P in the top soil. This indicates that nutrient return to the topsoil through litter decomposition is limited and that C cycling decoupled from N cycling during decomposition in this subtropical plantation in southern China.

種類: 原著論文/環境
Title: Litter carbon inputs to the mineral soil of Japanese Brown forest soils: comparing estimates from the RothC model with estimates from MODIS
巻頁: J For Res 16 (1): 16-25
題名: 褐色森林土における鉱質土層へのリター供給量の広域推定: RothCモデルを用いた推定とMODISによる推定の比較
著者: 橋本昌司, ヴァッテンバッハ マーチン, スミス ピート
所属: 森林総合研究所立地環境研究領域
抄録: 土壌に蓄積している炭素は、リター供給と分解のバランスによって決まる。リター供給量は純一次生産量と強く関係している。特に、定常状態では、純一次生産量とリター供給量がほぼ同一と見なせる。本研究では、褐色森林土を対象に30cm深までの鉱質土層へのリター供給量を、平均的な炭素蓄積量とRothCモデルとを用いて広域で推定し、MODISの純一次生産量データベースと比較した。また感度分析と不確実性評価のため、モンテカルロシミュレーションを行った。RothCモデルでの推定量とMODISの値は、正の相関があった。しかし、RothCによる推定値がMODISの値よりも平均値で17.2 % 小さかった。正規化した両者の差をマッピングしたところ、空間的なバイアスが見られた。そのバイアスはおそらく、両者の温度に関する応答関数が異なることと、本研究では全国一律に平均的な炭素蓄積量を計算に用いるというシンプルな仮定が原因と考えられた。本研究では、土壌炭素蓄積量から逆推定された土壌へのリター供給量と、衛星データから推定された純一次生産量が密接に関連していることが明らかにされた。また明らかになった両者の不一致は今後の研究に役立つであろう。

種類: 原著論文/生物-生態
Title: Canopy photosynthesis in a mangrove considering vertical changes in light-extinction coefficients for leaves and woody organs
巻頁: J For Res 16 (1): 26-34
題名: 葉と非同化器官に関する吸光係数の垂直変化を考慮に入れたマングローブの群落光合成生産量の推定
著者: 諏訪錬平
所属: 琉球大学理学部海洋自然科学科
抄録: マングローブであるメヒルギ林内の光減衰パターンについて、葉および非同化器官に関する吸光係数の垂直変化を考慮に入れて解析を行った。さらには、構築された群落内光減衰モデルを適用して、群落光合成生産量および葉群呼吸消費量を推定した。林冠構造および光減衰パターンは、層別刈取法に従って調べられた。また、個葉の光-光合成曲線および暗呼吸速度は光環境への依存性と季節変化を考慮に入れて測定された。得られた主要な結果は以下の通りである。 (1)非同化器官積算投影面積密度C の積算葉面積密度F に対する比は、林冠下部に近づくにつれて増加した。(2)葉の吸光係数は、林冠下部に近づくにつれて0.30 から0.72まで増加した。一方で、非同化器官の吸光係数は0.77であり、林冠内ではほぼ一定であった。(3) 非同化器官による遮光過程、C/F 比の垂直変化および葉の吸光係数の垂直変化を無視すると、年群落総光合成生産量について約±10%の誤差が生じ、年剰余生産量については約±20%の誤差が生じることが明らかになった。

種類: 原著論文/生物-生態
Title: Changes in carbon stock following soil scarification of non-wooded stands in Hokkaido, northern Japan
巻頁: J For Res 16 (1): 35-45
題名: 北海道の無立木地を対象とした掻き起こし地における炭素貯留量の時間変化
著者: 青山圭一, 吉田俊也, 原田茜, 野口麻穂子, 宮久史, 柴田英昭
所属: 北海道大学大学院環境科学院
抄録: 北海道においては、ササ類(チシマザサやクマイザサ)に覆われた無立木地を成林化することを目的として、1960年代から重機を用いた掻き起こし(または地掻き)施業が広く行なわれている。この研究では、施工後およそ35年間の時系列に沿って、施工地の植生および土壌(深さ0.3mまで)中の炭素貯留量を定量化することを試みた。施工後、天然更新に任された林分では、次第にダケカンバが優占した。炭素貯留量は次第に増加し、チシマザサが優占していた箇所では、37年生で215.1 ± 35.2 Mg C /ha、クマイザサが優占していた箇所では、34年生で181.1 ± 29.8 Mg C /haに達した。しかしこれらの値は、未施工の無立木地で観察された値と大きくは異なっていなかった。構成要素別に見ると、植生中の炭素貯留量はすばやく施工前のレベルに達していたが、土壌中の炭素貯留量は、35年生程度の林分においても施工前を下回った状態に留まっていた。掻き起こしは、ササ地を森林に回復させる確実な手法ではあるが、土壌中を含む炭素の貯留を考えたとき、その効果は50年以上といった長期間を考慮しないと達成されないことが明らかとなった。

種類: 原著論文/生物-生態
Title: Microarthropod colonization of litter in arboreal and soil environments of a Japanese cedar (Cryptomeria japonica) plantation
巻頁: J For Res 16 (1): 46-54
題名: スギ人工林の樹上および土壌環境における小型節足動物のリターへの定着過程
著者: 吉田智弘, 肘井直樹
所属: 東京農工大学農学部附属広域都市圏フィールドサイエンス教育研究センター
抄録: スギの葉リターおよび樹皮を詰めたリターバッグを用いて、スギ人工林の樹上および土壌の生息地における小型節足動物の定着パターンを明らかにした。葉リターの重量減少率は土壌環境よりも樹上環境において低かった。個々のリターバッグ間の葉リターの重量は、土壌では分解の進行とともに顕著に変動が大きくなったのに対して、樹上ではそれほど違いはみられなかった。小型節足動物の定着過程は樹上と土壌のリターバッグで異なっていた。樹上のリターバッグでは、トビムシ目、トゲダニ・ケダニ類がバッグ設置後2年目の夏に個体数密度のピークを示し、ササラダニが15ヶ月後まで比較的一定の密度を維持していた。それに対して土壌のリターバッグでは、トビムシが初期にリターに定着し、その後、トゲダニ・ケダニ類が分解の進んだリターに定着していた。樹幹上の高さごとの主要な小型節足動物の個体数密度は同程度であり、垂直的な定着パターンは一定であった。樹上リターの分解が遅いのは多くの分解者にとって樹上が過酷な条件であることを反映しているためと考えられた。対照的に、樹上リターの過酷な環境条件は、不適な条件に対して生理的な耐性を有する一部の小型節足動物にとって比較的安定的な資源であることが推察された。これらの動物群の特性によって、樹上リターはトビムシやトゲダニ類によって季節的に、ササラダニによって連続的に利用されていると考えられた。本研究では、土壌の小型節足動物は、リターの分解が速いために、季節的な変化よりもリターの分解にともなう変化の影響を強く受けているのに対して、樹上の小型節足動物は、樹上環境では分解過程が遅いために、季節的な変化による影響を強く受けていることが示唆された。

種類: 原著論文/生物-生態
Title:  Morphological variation along the sea-land gradient: trees in a subtropical maritime woodland
巻頁: J For Res 16 (1): 55-61
題名: 亜熱帯海浜林における海-陸の環境勾配に沿った樹木形態の変異性
著者: 横尾誠, 渡慶次睦範
所属: 九州大学大学院理学部附属天草臨海実験所
抄録: 木本植物は環境条件に応じた形態を示すことは知られている。しかしながら、環境勾配に応じた樹木個体の形態的変異を連続的にかつ局所的(例:50m以下)に評価することは単純ではない。海浜環境は内陸の森林群集と異なり、海-陸という極端に異なる環境条件にさらされる特異な場所である。本研究は、天草下島富岡半島の亜熱帯性海浜林において、優占木本植物3種(Quercus glauca, Ligustrum japonicum, Pittosporum tobira)の林縁-林内の環境勾配に応じた形態的変異を評価した。その結果、1.単位断面積あたりの幹数の減少、2.樹高の増大、3.胸高断面積の増大、という3点の共通した形態変化が明らかになった。またQ. glaucaとL. japonicumの若葉の伸長は、林内部において林縁部よりも大きかった。さらに、林冠開放率は林縁部が有意に高かった。これらのことから、優占種に共通した形態的変異性は、海浜環境から受ける影響と光環境の変化に対する生態生理的可塑性に起因するものと考えられる。またこれら優占種の形態的変化は、海浜林縁部-林内における空間的異質性を作り出すため、他の動植物群集にも重要な影響を及ぼすと考えられる。

種類: 原著論文/生物-生態
Title:  Effects of asynchronous acorn production by co-occurring Quercus trees on resource utilization by acorn-feeding insects
巻頁: J For Res 16 (1): 62-67
題名: 同所的に生育するコナラ属の非同調的な堅果生産が種子食性昆虫の資源利用に及ぼす影響
著者: 福本浩士, 梶村恒
所属: 名古屋大学大学院生命農学研究科森林保護学研究室
抄録: 樹種間の非同調的な種子生産が種子食性昆虫の資源利用に及ぼす影響を明らかにするために、同所的に生育するコナラ属2種(アベマキとコナラ)の堅果生産数および虫害堅果数を2箇所の調査地で4年間調査した。堅果生産数の年変動は大きく、その変動係数はアベマキで1.05および0.80、コナラで0.87および0.73であった。また、コナラの堅果生産数は調査地間で同調的に年変動した。堅果生産数の年変動は樹種間では同調しなかったため、両樹種の堅果生産数を合計した場合の変動係数は、アベマキ、コナラそれぞれの変動係数よりも小さくなった。種特異的な捕食者であるシギゾウムシ属による食害堅果数の年変動は、アベマキ、コナラそれぞれの堅果生産数の年変動に依存していなかった。この現象は、シギゾウムシ属が休眠延長という生活史特性を保持していることに起因しているものと推察された。両樹種の堅果を利用するハマキガ科による食害は、両樹種の堅果生産数を合計した場合の年変動に依存していなかった。このことは、樹種間の非同調的な堅果生産がハマキガ科の個体数変動を安定化させる可能性を示している。

種類: 原著論文/生物-生態
Title:  Types of frass produced by the ambrosia beetle Platypus quercivorus during gallery construction, and host suitability of five tree species for the beetle
巻頁: J For Res 16 (1): 68-75
題名: 養菌性キクイムシ、Platypus quercivorus の坑道形成時に排出されるフラスのタイプと、5種の樹種の寄主としての適性
著者: ハグス タルノ, 斉宏業, 遠藤力也, 小林正秀, 後藤秀章, 二井一禎
所属: 京都大学大学院農学研究科 地域環境科学専攻 微生物環境制御学分野
抄録: カシノナガキクイムシ(Platypus quercivorus )の、5種の樹木材内における生態を、(1)このキクイムシによって生産されるフラスの量と坑道の長さの関係、(2)フラスの形状とこのキクイムシの口器の形態学的特徴の関係、(3)カシノナガキクイムシの繁殖にとっての5種の樹種の適性、という3つの視点から研究した。用いた樹種はミズナラ、コナラ、クリ、ウラジロノキ、スギの5種である。その結果、フラス量とトンネルの長さの間には直線関係があること、2つのフラスタイプのうち、粉末状フラスが生産される場合、常にその坑道内に幼虫が見られること、一方、成虫だけしか存在しない坑道からは繊維状フラスが生産されることが明らかになった。成虫の口器は完全に硬化しており、繊維状フラスの生産に適している。このキクイムシの寄主選好性を(1)オスの坑道形成開始時に見られる選好性と(2)メスの定位、交尾、幼虫の発育に見られる選好性の2つに分けて調べたところ、ウラジロノキとコナラにより多くの穿孔が見られたが、スギには少数の穿孔しか見られなかった。一方、第二の点に関しては、カシノナガキクイムシは2種のQuercus 属の種においてだけ、生活史を全うすることができた。

種類: 短報/環境
Title: Mineral nutrient fluxes in rainfall and throughfall in a lowland Atlantic rainforest in southern Brazil
巻頁: J For Res 16 (1): 76-81
題名: ブラジル南部の低地大西洋岸降雨林における降雨と林内雨の無機栄養塩フラックス
著者: Maurício Bergamini Scheer
所属: Universidade Federal do Paraná, UFPR, Brazil
抄録: The ecosystems occurring on dystrophic soils, such as sandy soils, are highly dependent on nutrients from the atmosphere and those cycled by their own biota. Nutrient inputs from rainfall and throughfall were measured between October 2001 and August 2003 in a secondary Atlantic rainforest in southern Brazil. Canopy interception (rainfall minus throughfall) was 17.3% of the annual rainfall of 2,235 mm. Monthly interception ranged from 12 to 31% during the rainiest months (precipitation above 200 mm) and from 1 to 45% during the driest months (precipitation below 50 mm) indicating relatively high variability during this period. The studied site may be susceptible to water stress in this period due to the high permeability of the sandy soil. Approximately 80% of the Ca and Na and 57% of Mg were mainly from rainfall (bulk deposition) whereas the main input source for K was net throughfall (about 78%). Mean annual inputs via throughfall (in kg ha-1) were: 90.6 for Na, 29.1 for K, 7.1 for Ca, and 2.9 for Mg. The highest nutrient inputs occurred during the rainy season. Na fluxes were relatively high, while K, Ca, and Mg inputs were low, compared with other tropical and subtropical forests. Information on nutrient fluxes for different forest ecosystems are fundamental for building up a database that can give support to environmental diagnosis, to forest management, and to conservation and restoration techniques.

種類: 短報/生物-生態
Title: Abundance-dependent transmission of the pinewood nematode, Bursaphelenchus xylophilus (Nematoda: Aphelenchoididae), to the Japanese pine sawyer, Monochamus alternatus (Coleoptera: Cerambycidae), adult in its pupal chamber
巻頁: J For Res 16 (1): 82-86
題名: 蛹室付近に集合したマツノザイセンチュウの個体数依存的なマツノマダラカミキリ成虫への乗り移り
著者: 曽根晃一, 永野真一朗, 畑邦彦
所属: 鹿児島大学農学部
抄録: マツノマダラカミキリ(カミキリ)の蛹室付近に集合したマツノザイセンチュウ(線虫)のカミキリ成虫への乗り移り率とそれに影響する要因を明らかにするために、36個体の脱出成虫の線虫保有数、蛹室の壁面や周辺の材内での残留線虫数、蛹室内での青変菌の繁殖程度、そして蛹室付近の材の含水率を調査した。蛹室付近に集合した線虫数は0~19,041個体、カミキリ成虫の線虫保有数は0~18,920個体であった。線虫の乗り移り率と蛹室内での青変菌の繁殖程度や材の含水率の間には、有意な関係は認められなかった。乗り移り率は、1,000個体以上の線虫が集合した蛹室ではほぼ100%であったが、線虫数が1,000未満の蛹室では0~100%まで変動した。この蛹室付近に集合した線虫数依存的な線虫のカミキリ成虫への乗り移りも、カミキリ成虫間の線虫保有数の大きい変動を引き起こす要因の一つであると考えられた。

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