日本森林学会誌107巻2号(2025年2月)

[論文] アンケート調査による森林由来カーボンクレジットの購入者の分析
―新潟県版J-クレジットにおける事例―

渡邊 匠海(新潟大学大学院自然科学研究科)ほか
キーワード: J-クレジット, カーボン・オフセット, カーボンクレジット, 脱炭素, アンケート調査
2025 年 107 巻 2 号 p17-25
https://doi.org/10.4005/jjfs.107.17
[要旨] 森林由来J-クレジット(森林クレジット)の認証量は年々増加しているが,販売の難しさが課題となっている。本研究は森林クレジット購入者の特徴や購入動機などを明らかにすることで,森林クレジット取引の活性化に向けた取組を検討した。新潟県の六つの森林管理プロジェクトから森林クレジットを購入した179者にアンケートを送付し,96者から回答を得た。森林クレジット購入者の多くは地域貢献を目的とした小規模事業者で,1回の平均購入量は5 t-CO2以下と非常に少なかった。購入者の多くが県の担当者,プロジェクト実施者,仲介者(コーディネーター)のいずれかの紹介をきっかけに購入していた。このうちコーディネーターは新規購入者の獲得が多く,販路の拡大に有効と考えられた。しかし,コーディネーター経由の場合の多くは購入量が少なく,継続購入の意欲も低かった。対照的に,自主的な情報収集がきっかけの場合は購入量が多く,継続購入にも意欲的だった。以上より,森林クレジット取引の活性化には,コーディネーター経由の購入者の意欲を高めるための対策と,環境貢献に意欲的な事業者の目に留まる機会を増やすための情報発信が有効と考えられた。

[論文] コナラとマテバシイにおける被害材の分割後の林内放置がカシノナガキクイムシの羽化脱出に与える効果

矢口 甫(国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所)ほか
キーワード: ブナ科樹木萎凋病, カシノナガキクイムシ, 駆除, 割材, 林内放置
2025 年 107 巻 2 号 p.26-32
https://doi.org/10.4005/jjfs.107.26
[要旨]ブナ科樹木萎凋病(ナラ枯れ)は,カシノナガキクイムシが媒介する伝染病である。ナラ枯れ被害の拡大を防ぐ策として,枯死木の分割処理は当該昆虫の駆除効果が大きいだけでなく,薪に利用できる点で有効な手段の一つである。しかし,薪割りには多くのコストを要する。また,割材の効果を調べた研究は,薪に利用できる樹種に限られている。そこで,コナラとマテバシイの分割後の材を林床に放置したとしても,羽化脱出数が減る可能性を検証した。まず,両樹種の枯死木を試験地に搬入し,30 cmに玉切りした。供試丸太について,2分割と8分割にした材と,分割しない材を準備した。各材を林床に数か月間放置した後に羽化トラップ内に設置し,経時的に個体を回収した。また,含水率を推定するために各材の重量を測定した。コナラでは,個体数が他に比べて8分割材で有意に少なく,推定含水率も8分割区で有意に低かった。マテバシイでは,分割なし材と比べて2分割材と8分割材において個体数は有意に少なかったが,2分割材と8分割材の推定含水率は差が見られなかった。以上から,両樹種において分割した材を林床に放置したとしても,羽化脱出数を抑えられる可能性がある。