日本森林学会誌107巻1号(2025年1月)
[論文] 傾斜地における個体内での樹冠長の不均一性が林分密度予測に与える影響
壁谷 大介(国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所)ほか
キーワード: 樹冠長, 傾斜地, 平均個体間距離, 樹冠形
2025 年 107 巻 1 号 p1-7
https://doi.org/10.4005/jjfs.107.1
[要旨] 樹冠長は林分密度と関係の高い指標であり,ALSデータを活用した林分密度推定に利用できる点で有効である。その一方で,樹冠長の定量には傾斜地等で生じる樹冠長の個体内での不均一性が問題となる。そこで本研究は,二次式~多項式で想定した樹冠形を持つモデル樹木で構成された林分を理論的に想定し,斜面上側・下側で生じる樹冠長の不均一性が,傾斜地における林分密度推定に与える影響を評価した。二次式(パラボラ型)の樹冠形を持ち,樹冠長4 mの立木 3,000本ha-1 からなる仮想林分において立地の傾斜角を変化させた場合,傾斜角30°では,斜面下側の樹冠長は4.54 m,傾斜角60°では5.74 mとなることが推定された。このとき,斜面下側の樹冠長から予測される林分密度は,傾斜角30°では2,641本ha-1,傾斜角60°では2,092本ha-1となった。同様の傾向は,樹冠形に多項式を仮定した場合でも観察された。林分密度推定に対する樹冠長の不均一性の影響は,斜面上側,下側の樹冠長の平均値を用いることでおおよそ補正でき,上側,下側の一方のみ測定した場合においても,立地の平均傾斜角と平均個体間距離でおおよそ補正できた。
[論文] 北海道でのナラ枯れ初被害における被害木の特徴
内田 葉子(地方独立行政法人北海道立総合研究機構林業試験場)ほか
キーワード: カシノナガキクイムシ, ミズナラ, ナラ菌, 早期発見, 穿入孔数
2025 年 107 巻 1 号 p.8-15
https://doi.org/10.4005/jjfs.107.8
[要旨] 「ナラ菌」を媒介するカシノナガキクイムシの穿入によってミズナラなどのナラ類が枯死する「ナラ枯れ」の被害が日本各地で広がっている。北海道ではこれまでナラ枯れは報告されていなかったが,2023年に初めてナラ枯れによる被害木が発見された。北海道南部の松前町および福島町の5地点で現地調査を実施し,カシノナガキクイムシに穿入されたナラ枯れ被害木10個体16本を発見した。被害木はすべてミズナラで,うち2個体について穿入孔付近の材片から「ナラ菌」を検出した。穿入孔の多くは地際部にあり,枯死木9本の穿入孔数は1~17個と少なかった。また,枯死木は穿入生存木よりも穿入孔数および穿入密度が高かった。被害木は胸高断面積が大きいほど穿入孔数が多かったが,被害木の胸高直径を周囲の未被害木と比較すると,必ずしも大径木が穿入されていたわけではなかった。北海道でのナラ枯れの初被害は,枯死木は穿入生存木と比べて穿入孔数が多い点などでは先行研究と一致していたが,少ない穿入での枯死や大径木ではない個体への穿入など,本州以南の一般的なナラ枯れとは異なる特徴も見られた。