企画シンポジウム

企画シンポジウムは,会員がコーディネータとなって企画する、森林学に関する明瞭で簡潔にまとまったテーマをもったシンポジウムです。

S1.総合学としての林学史

History of Forestry as Forest Arts and Sciences

略称:林学史

コーディネータ:平野悠一郎 森林総合研究所多摩森林科学園

山本伸幸 森林総合研究所林業経営・政策研究領域

水内佑輔 金沢大学融合研究域

 日本森林学会の学問的基盤である「森林科学」は、科学技術の急速な発展が進んだ19世紀後半から20世紀前半の東アジアにおいて、域外との知識・技術交流を重ねつつ、総合学・現場主義を軸に体系化された近代「林学」を直接的に受け継いできた。

 しかし、東アジアの近代林学は、決して単一の理論、手法、学問的ルーツに基づいて形成されたものではなかった。今日、日本森林学会に14部門が存在するように、その形成過程では、森林をめぐる多様な人間社会の価値や期待が反映されていた。その学問体系においても、ドイツ林学としての森林管理・経営論に加え、当時世界的な注目を集めていた水土保全機能の発揮、植物学・博物学的な関心、さらには在来の造林技術や樹木管理技術など、様々なルーツが見られた。そして、自然生態的・社会的・歴史的背景の異なる地域にて、各種の価値や期待を実現するにあたり、林学は必然的に、一つ一つの実験結果を積み上げる経験主義・現場主義のスタンスを有することにもなった。

 こうした多様な側面を持つ林学形成過程への着目は、近年、周辺学問分野や国際交渉の場でも関心の集まってきた人間社会における森林の歴史的・将来的な重要性に、森林科学としての知見蓄積を踏まえた科学史・技術史的な論拠を提示することに結びつく。同時に、短期的な国力増強を目指す帝国主義全盛の近代世界にあって、ともすれば相対立する価値や期待、ならびに様々な学問分野を横断した長期持続的な資源管理や調査研究が、「林学」という枠に集約・体系化されたプロセスこそは、「持続可能な社会構築」や「多様性の中での共存」という今日の社会課題の解決に向けて、森林科学が提供しうる貴重な実験記録である。

 本企画では、以上の観点から、多様なルーツを内包する林学の源流を、歴史的・部門横断的に捉え直すことで、森林科学の意義や可能性を改めて見出していくことを目的とする。なお、本企画は、公募セッション(T4)「総合学・原論としての森林科学」の起点の一つとも位置づけている。

発表者: 大住克博(前鳥取大学)

    田中隆文(名古屋大学)

    三島美佐子(九州大学)

    酒井秀夫(前東京大学)

    水内佑輔(金沢大学)

コメンテーター:芳賀和樹(法政大学)

S2.森林サービス産業を批判的に検討する―森林・林業の価値の視点から

A Critical Assessment of the Forest Service Industry: Reconsidering the Value of Forests and Forestry

略称:森林サービス産業

コーディネータ:田村典江 事業構想大学院大学

森林サービス産業は、近年、新たな林政のテーマとして注目を集めている。森林空間を活用した健康、観光、教育などの体験サービスは、都市住民の心身の健康増進や企業活動の活性化に貢献するとともに、山村地域における雇用と所得機会を創出することをnねらいとしている。このような”産業”が形成されてきた背景には、木材利用の減少や担い手不足に起因する林業の衰退、気候変動対策や生物多様性保全への社会的関心の高まり、そして自然とのふれあいを求めるニーズの増加といった複合的な要因がある。森林サービス産業の育成は、山村の内発的発展を促す手段として森林・林業基本計画にも位置づけられており、現在、全国58地域が推進地域として登録されるに至っている。

従来の林業・木材産業から一歩踏み出し、森林空間が創出するサービスに着目して政策的に推進しようとする展開は、時代の要請に対応するものと評価できる。しかしながら、その一方で、経済的側面にのみ焦点を当て、新たな”産業”として後押しすることについては懸念がある。産業振興としての側面にのみ注目が集まることは、森林生態系の多様性や地域社会との関係性といった本質的な価値を後景におしやり、森林と人間との間に存立する重層的な関係を単純化する恐れがある。

森林サービス産業は、単に森林空間が存在するだけで成立するものではなく、そこに多様な価値を見出す人々の存在があって初めて成り立つものではないか――本シンポジウムでは、このような視点にたち、森林サービス産業の基盤である「森林と人間の多様な関わり」に焦点を当て、その価値を経済的な評価に限定するのではなく、空間・生態系としての多角的な側面から再考する。経済や産業といった単一の指標では捉えきれない、多様な森林利用の実態を各地の事例を通して検討し、森林サービス産業のあるべき姿を、森林の複合的な価値の観点から考察したい。

発表者予定者

鎌田磨人(徳島大学)

丹羽英之(京都先端科学大学)

三木敦朗(信州大学)

山本信次(岩手大学)

S3.森林管理に活かされる知識とは?:アジア諸国における現場フォレスターの認識比較

What knowledge matters in forest management?: comparing perspectives of field foresters in Asian countries

略称:フォレスター比較

コーディネータ:石崎涼子(いしざきりょうこ)、森林総研

大田真彦(おおたまさひこ)長崎大学

志賀薫(しがかおり)森林総研

地域の現場で森林管理を実践するフォレスターは、自身が持つ科学的な知識や経験に基づく知識に加え、地域住民のニーズや関心、政府の方針など、さまざまな要素を考慮しながら判断や行為等を行っている。こうしたフォレスターによる森林管理は、長期的な視野を持ち、森林のもつ多様な価値の実現を目指す「林学」の実践現場である一方で、単純化・分かりやすさ・操作性といった官僚が持ちがちな知識のあり方の象徴と捉えられることもあり、地域の実状を無視した科学知の押しつけとの批判を受けることもある。また、フォレスターの持つ専門性の弱さが森林管理に与える影響を懸念する声もある。

 では、実際に地域現場で森林管理を担う「現場フォレスター」は、自らの仕事やそれに必要な知識についてどのような認識を持ち、どういった観点を重視してどのように森林管理を行っているのだろうか。その認識は、国や制度的な立場などによってどのように異なるのだろうか。

 私達の研究グループでは、2024年から2025年にかけて、歴史的・社会的・文化的背景が異なる国々において、共通フォーマットを用いた調査を実施し、現場フォレスターが森林管理やそれに関わる知識に対して持つ認識の比較検討を行った。調査対象とした現場フォレスターは、現地において森林施業(植栽や伐採など)に関わる許認可ないしは助言・指導などに携わる現場担当者であり、日本においては国有林の森林官、都道府県の林業普及職員、市町村の森林行政担当者、森林施業プランナーを対象とした。

 本シンポジウムでは、調査結果のうち日本をはじめとするアジア諸国で得られたデータを中心にとりあげ、森林管理における知識の特徴とその地域条件への適応方法、それらに影響を与える要因などについて議論を深めたい。

発表者予定者リスト

① 石崎涼子ら(森林総研):「日本における現場フォレスターの認識」

② 大田真彦(長崎大学):「インドにおける現場フォレスターの認識」

③ 岩永青史(名古屋大学):「ベトナムにおける現場フォレスターの認識」

④ 笹田敬太郎(森林総研九州):「台湾における現場フォレスターの認識」

⑤ 葉山アツコ(久留米大学):「フィリピンにおける現場フォレスターの認識」

⑥ 志賀薫ら(森林総研):「インドネシアにおける現場フォレスターの認識」

S4.熱帯林業における気候変動適応策~科学的知見の蓄積と社会実装に向けて~

Adaptation Strategies to Climate Change in Tropical Forestry ~Scientific Findings and Their Social Implementation

略称:熱帯林業適応策

コーディネータ:谷 尚樹、国際農林水産業研究センター

世界第3位の熱帯林面積保有国であるインドネシア共和国を対象国として科学技術振興機構(JST)と国際協力事業団(JICA)が実施する地球規模課題対応国際協力技術協力プログラム(SATREPS)を2023年度より実施している。本プログラム(気候変動適応へ向けた森林遺伝資源の利用と管理による熱帯林強靭性の創出)では、熱帯林再生や社会林業(住民参加型の林業)に適した林業樹種について、気候変動への脆弱性を明らかにし、気候変動により高い適応性を持つ優良個体を選抜し、それら優良個体の種苗を量産する技術を確立する。さらに、気候変動に対してレジリエンスの高い林業を促進した場合の効果を、木材生産量や生態系機能(温室効果ガス吸収や非木材資源量など)、地域社会や地域経済の観点から評価し、林業促進の必要性や有用性を科学的に明らかにすることを目指している。本シンポジウムでは、インドネシアより本プログラムに参加する研究者を招聘し、国内からの参画メンバーを交え、気候変動に対する脆弱性の評価、育種技術を用いた適応的な個体の選抜や増殖技術、植林を実施した時のインセンティブについて、最新の研究成果を紹介するとともに、特に林業及び土地利用分野(FOLU)においてパリ協定に基づく国の温室効果ガス削減目標(「国が決定する貢献(NDC)」)への高い貢献が求められるインドネシアの森林政策の動向や気候変動への適応計画について情報提供を行う。

発表者予定者リスト

Eny Faridah(ガジャマダ大)

Enny Sudarmonowati(BRIN)

津山幾太郎(森林総研)

津村義彦(筑波大)

Alnus Meinata(筑波大)

山岸祐介(住友林業)

近藤俊明(国際農研)

Novelia Triana(長崎大)

Widiyatno(ガジャマダ大)

S5.日本型フォレスターが、地域の森林管理を支える存在となるためには。

Making the Japanese-Style Forester a Functional Reality

略称:地域フォレスター

コーディネータ:小森胤樹 フォレスターズ株式会社

日本型フォレスターという言葉が初めて公式に登場したのは、平成21年に策定された「森林・林業再生プラン」においてである。地域の森林・林業の牽引者として、構想の作成・合意形成・実現支援を担う人材として位置づけられ、平成25年度には森林総合監理士として制度化された。平成26年度から登録・公開が始まり、令和6年度末には有資格者数が1,914人に達する等、制度的な整備は着実に進んできた。

 あわせて、地域林政アドバイザー制度や森林環境税・譲与税など、日本型フォレスターの活動に援用可能な政策的な措置も進められてきた。これにより、国や都道府県の専門職公務員だけではなく、民間技術者が日本型フォレスターとして活動する機会も増えている。また、岐阜県や奈良県では森林総合監理士資格を参照しつつ、独自の人材育成・運用を行っているほか、技術交流会や「フォレスター・ギャザリング」などの活動も広がり、技術者像として一定の基礎を固めつつある現状がある。

 このように基盤が整った今こそ、フォレスターの「実質化」が問われている。市町村による認知と期待はどう変化したのか。林政アドバイザー制度や森林経営管理制度、森林環境譲与税は本当に活用されているのか。循環型林業への転換が進む中、木材生産の抑制や公益的機能の維持を担う存在として、フォレスターは「伐ってはいけない」と指導する責任を果たせるのかなど、創設から10年を経た現在だからこそ、改めて必要な人材確保(リクルート)、能力、そして権能や職責について、制度と現場の両面から議論したい。

発表者リスト

小森胤樹(フォレスターズ株式会社 代表取締役)「民間フォレスターの必要性」 

藤平拓志(奈良県フォレスターアカデミー校長)

「5年目に入った奈良県独自のフォレスター制度の良いところ、悪いところ」

小山泰弘(長野県林業総合センター育林部長)

「現場条件に寄り添う技術を活かす森林づくり」

相川高信(PwCコンサルティング合同会社・シニアマネージャー)

「日本型フォレスター再考:森林・林業再生プラン検討時からの状況変化を踏まえて」

黒沢秀基(片品村 地域林政アドバイザー)「片品村での活動について」

コメンテーター

田村典江(事業構想大学院大学):制度創設期を知る立場から

S6.生理部門企画シンポジウム「植物の生理特性を知って環境修復に活かす」とポスター紹介

Tree Physiology Division Symposium “Understanding plant physiological characteristics for environmental rehabilitation” and poster introduction

略称:生理部門シンポ

コーディネータ:田原恒、森林総合研究所

小島克己、東京大学

斎藤秀之、北海道大学

津山孝人、九州大学

則定真利子、東京大学

講演会「植物の生理特性を知って環境修復に活かす」と生理部門のポスター発表の1分紹介で構成する生理部門の企画シンポジウムを開催します。

生理部門では、個体から細胞・分子レベルまでの幅広いスケールの現象を対象に、多様な手法を用いて樹木の成長の仕組みを明らかにする研究に携わる方々の情報・意見交換の場となることを目指しています。従来の研究分野の枠組みにとらわれることなく、さまざまなスケール・手法で樹木の成長の仕組みの解明に携わる多くの皆様に、生理部門での口頭・ポスター発表にご参加頂くとともに、本シンポジウムにご参集頂きたいと考えております。

 講演会では、植物が過酷な環境に適応できる仕組みへの理解を深め、その知見をどのように不良環境の修復に結び付けていくのか考えます。東京大学の小島克己さんに、樹木の環境ストレス耐性機構の解明と、それを踏まえた熱帯荒廃地の環境造林技術についてご講演いただきます。森林総合研究所の山溝千尋さんには、酸性土壌で生育できるユーカリが生産するアルミニウム無毒化タンニンの生合成の解明と再構成についてご紹介頂きます。

 講演会に引き続き、生理部門でのポスター発表者に1分間で内容を紹介いただきます。

 生理部門では、会場での議論の場を補完する形で、口頭発表およびポスター発表に関する議論のためのオンラインスペース(Slack)を利用しています。詳細については、生理部門のFacebookページ(森林学会_生理部門/Tree_Physiology_JFS)やX(@TreePhysiol_JFS)などで随時ご案内していきます。

S7.大規模産地試験から見えてきたダケカンバの環境適応の核心部:気孔・樹形・萌芽・被食防衛・外生菌根

The leading edge of local adaptation of Betula ermanii revealed from range-wide provenance trial: stomata, tree architecture, sprouting, antiherbivore defense and ectomycorrhizal fungi

略称:樹木の環境適応

コーディネータ:相原隆貴、筑波大学生命環境系

蔡一涵、東京大学先端科学技術研究センター

ダケカンバは、高山など低温・多雪地域に分布する落葉高木であるが、冷温帯上部〜森林限界の、開放地〜針葉樹林内という多様な立地環境に広い分布が見られる。また、日本だけでなく中国・ロシアにおいても多数の地域変種が報告されることから形態的変異が大きく、樹木の環境適応を明らかにする上で非常に重要な種である。現在、世界的に見ても大規模なダケカンバ産地試験地が設置されており、天然分布域全体をカバーする11産地由来の苗木が北海道から九州の11箇所に植栽されている。第135回日本森林学会大会において、本試験地を用いた研究成果の企画シンポジウムが開催され、ダケカンバの成長・葉形質・光合成特性などから環境適応について議論したが、研究はさらなる発展を見せている。今回のシンポジウムでは、気孔・樹形・萌芽・被食防衛・外生菌根菌などの見地から高山の寒冷・多雪の極限環境に生育するダケカンバの環境適応の核心部に迫る。ダケカンバの気孔密度・気孔サイズは遺伝的な影響が強く、分布適地の産地由来の苗木ほど気孔サイズの可塑性が大きいことから、環境変動に適応しやすいことが示唆された。また、産地と試験地の環境差が温暖・湿潤方向へ移動するほど気孔密度が減少・気孔サイズが増大しており、ダケカンバは気孔の調整を通して気候変化に適応することが明らかとなった。また、樹形については多雪環境の試験地のほうが少雪環境の試験地よりも樹高が低く、幅が広がる傾向があった。また樹形にも産地間差が認められ、その多様性は多雪環境よりも少雪環境で顕在化していた。苗木の萌芽幹数は主幹が先枯れした苗木ほど多く、多雪環境の産地由来の苗木ほど萌芽幹を頻繁に入れ替えていることが分かった。一方で、外生菌根菌の多様度・組成・構造は、産地よりも試験地の影響が強く、最も温暖な試験地で最も多様な外生菌根菌が検出された。また、3つの試験地から採取した土壌に滅菌した苗木を植栽したところ、特に最も寒冷な名寄試験地の土壌で高い定着率を示したが、外生菌根菌の種数は少なかった。これらの成果を踏まえ、ダケカンバの地上部〜地下部の多様な形質から、その環境適応および樹木の気候変化への適応について議論を深めたい。

S8.地域の森林を活かしたこれからの暮らし ―飛騨市における広葉樹のまちづくりを事例に考える―

Exploring Pathways for Living in Harmony with Local Forests: An Interdisciplinary Perspective from Hida’s Broadleaf Forest Strategy

略称:地域の森と暮らし

コーディネータ:徳地直子、京都大学フィールド科学教育研究センター

時任美乃理、京都大学大学院農学研究科

それぞれの地域では、地域固有の自然に依拠した暮らしの中から多様な文化が育まれ、人々の生活を支えてきました。しかし近年、石油資源への依存の高まりや人口減少・高齢化の進行などにより、自然資本を基盤とした暮らしの継続には多くの課題が生じています。こうした課題解決のためには、自然科学に立脚した生態系の理解とともに、地域の特性・特徴を活かした地域独自の取り組みを展開していくことが必要とされています。

本シンポジウムでは、地域の森林の特性を起点に、人々の暮らしや文化との関係を多面的に検討することで、人と自然のつながり、そして自然資本を活かした地域社会のこれからのあり方について考えます。具体的には、森林の約7割を広葉樹が占め、その特性を活かしたまちづくりを2014年から進めている岐阜県飛騨市を取り上げます。同市では、生産地と利用者をつなぐ広葉樹コーディネータの設置、集材・製材体制の整備と活性化、そしてデザイナーや企業との連携による新たな利活用の創出、さらに広葉樹林業の持続的な育成に向けた調査研究など、多面的な取り組みが展開されており、林産業として多くの成果があがっています。一方で、中山間地域に位置する飛騨市は、他の地域と同様に人口の減少や高齢化の問題も抱えており、森林を基盤とした地域の暮らしや文化への影響は今後ますます大きくなっていくと考えられます。

本シンポジウムでは、林業と地域社会の持続可能な関係性を模索する重要な事例でもある飛騨市の取り組みを題材に,林学・生態学・社会学・心理学など多様な視点から、人々の暮らしと自然資本の関係について知見を共有し、地域の特性を活かした今後の森林との関わり方を展望することを目指します。森林に対する人々の多様で過大な期待や、森林が経済的なシステムに取り込まれようとする中で、森林と人々の暮らしが安心・安全に続くよう、多くの森林学会員の活発な議論を期待します。

S9.林野火災に対して森林科学は何が貢献できるのか?―大船渡市林野火災を契機に考える―

What can the forestry sciences contribute to wildfires: discuss following the wildfires in Ofunato City in 2025

略称:大船渡林野火災

コーディネータ:吉藤奈津子、森林総合研究所

松本一穂、岩手大学農学部

五十嵐康記、筑波大学

篠原慶規、宮崎大学

2025年2月に岩手県大船渡市で大規模な林野火災が発生した。3月には岡山県岡山市、愛媛県今治市でも大規模な林野火災が発生した。大規模な林野火災は、住宅や人命に被害を与えただけでなく、大切に育てていた森林そのものも破壊してしまった。火災後は、土砂移動や濁水の発生、水質の変化が懸念されているだけでなく、残った樹木をどう取り扱うべきか、森林生態系をどのように回復させていくべきか、といった多くの課題が残されている。しかし国内の林野火災の研究は非常に限られており、これらの問いに対して明確に答えられない状態にある。これらの課題に立ち向かうべく、これまで林野火災になじみがなった研究者も含め、多くの研究者が大船渡市を中心に研究をスタートさせている。今こそ、森林科学の研究者の英知を結集し、地域にどのように貢献できるのか、今後火災を起こさないためにできることはあるのかを議論していくべき時ではないか。以上のような背景を踏まえ、本シンポジウムでは、林野火災について、防災・水文、植物生態、造林、土壌微生物など、様々な視点からの講演を行う。これらを通して、現在進めている研究の情報交換を行う他、今後の研究の方向性や長期的な支援等について、一般の参加者も巻き込みながら議論していきたい。

S10.「緑の社会資本」のこれまでとこれから:林野公共事業のあり方を問う

The Past and Future of “Green Social Capital”: Examining the Role of Forestry Public Works

略称:林野公共のあり方

コーディネータ:佐藤宣子、九州大学大学院農学研究院

国土が急峻で災害が多発する列島にある日本は、森林が「治山・治水」の役割を果たしていることを古くから重視し、森林を造成してきた。森林が安全・安心な生活に資する「緑の社会資本」として広く認識されているといえる。

 明治期の過剰伐採に対して保安林制度による伐採規制を行い、戦後は拡大造林によって1千万haの人工林を造成し、その後は主に間伐施業によって森林の水土保全機能を高めてきた。近年では、気候変動の影響とみられる豪雨による洪水や土砂災害が激甚化しており、「流域治水」対策への対応が森林に求められている。一方で、森林は木材生産の場でもあるが、80年代以降、木材利用は低位な状況が続き、「過少利用」が問題とされてきた。しかし、2010年代後半からそうした状況は大きく変化し、人工林の「主伐・再造林」が推進され、木材自給率も43%まで回復している。主伐(ほぼ皆伐)が進められる中で、再造林率が3割程度と低位であることが政策課題となり、再造林率を高める方策が盛んに議論されている。この議論で欠けているのは、伐採のあり方についてである。

 主伐時代とは、どう伐採し、どう更新・育成するのか、それを通じて次の世代へ向けてどのような「緑の社会資本」を継承するかが問われる時代だともいえる。全国一律に拡大造林を進めた反省を踏まえると、地域に応じて考える必要があり、行政的には158の地域森林計画(流域計画)別の考察が有効だと思われる。さらに、社会資本のあり方を考える上では、林野庁予算の約2/3を占める林野公共事業費(治山、造林、林道、災害復旧)の現状を踏まえた議論が求められる。

 本企画シンポジウムは、以上の問題意識の下で実施している共同研究の中間報告として開催する。この問題にアプローチするために自然科学と社会科学研究者が参画している。成果を共有し、活発な議論ができることを期待している。

発表者予定者リスト

佐藤宣子:九州大学大学院農学研究院

蔵治光一郎:東京大学大学院農学生命科学研究科

吉村哲彦:島根大学学術研究院農生命系

當山啓介:岩手大学農学部

教重涼子:九州大学大学院生物資源環境科学府

尾分達也:北海道大学大学院農学研究院

上野竜大生:九州大学大学院生物資源環境科学府

S11.環境・社会と調和した持続的な木質バイオマス発電事業の在り方

An Environmentally and Socially Responsible Woody Biomass Power Generation Business for Long-term Sustainability

略称:持続的な発電事業

コーディネータ:横田康裕、森林総合研究所

鈴木保志、高知大学教育研究部  

有賀一広、宇都宮大学農学部  

佐藤政宗、森のエネルギー研究所  

寺岡行雄、鹿児島大学農学部  

久保山裕史、森林総合研究所

2012年7月に再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT制度)が施行されて以降、木材を燃料とする発電事業が日本各地で取り組まれるようになり、2023年には、国内で生産された丸太の約3割(1,132万m3)がエネルギー利用に回されるなど、発電事業等による木材需要は、地域の木材需給に深く組み込まれ、もはや無視できない存在となっています。一方、FIT制度開始から10年以上が経過し、いわゆる「卒FIT」がより現実的となり始めています。こうした中、環境や社会と調和がとれた発電事業であれば、その継続は社会的に重要な課題といえます。2020年に農林水産省と経済産業省から、森林の持続可能性と発電事業の自立を両立させるための重要な論点と対策方針が示されました。しかし、その後の社会経済状況の変化は激しく、ウッドショックによる木材需給の変動をはじめ、急速なインフレ、賃金上昇、労働力不足などが深刻化し、さらにはSDGs(持続可能な開発目標)への貢献やCSR(企業の社会的責任)の履行も、これまで以上に強く求められるようになっています。

 こうした現状を踏まえ、本企画シンポジウムでは、今日における「環境・社会と調和した持続的な木質バイオマス発電事業の在り方」について理解を深め、今後の展望を参加者の皆様と共に考えることを目的とします。まず、発電事業者からは、これまでの事業展開と、現在、事業継続に向けた環境・社会・経済面での取り組み、そして直面している課題について報告していただきます。次いで、森林学会側からは、全国的な発電事業の動向と、環境・社会との調和および事業継続に関する課題を概観する報告を行います。総合討論では、発電事業者と森林学会の間で、環境・社会と調和した持続的な発電事業の在り方や、それを実現する上での課題について情報・意見交換を行い、さらには学会としてどのような貢献が求められ、また可能なのかについても議論を深めたいと考えています。

 多くの皆様のご参加をいただき、活発な議論が交わされることを期待しております。なお、今回は、上記の趣旨に沿い、未利用木材などの国産燃料を主に使用する発電事業を対象とします。

S12.不定根形成メカニズムの理解と樹木根系構造に基づく斜面安定性の検討 〜樹木根系の育種基盤構築に向けて〜

Understanding the mechanism of adventitious root formation and examining slope stability based on tree root structure: Toward Laying the Foundation for Innovative Breeding of Tree Root Systems

略称:さし木の根系

コーディネータ:渡辺敦史、九州大学大学院農学研究院

樹木根系は、地すべり等の災害に対して防止機能を発揮する唯一の自然物と考えられている。しかし、スギ挿し木苗を活用した人工林は、斜面崩壊(土砂災害)防止機能に対し脆弱であるとの言説がメディアやweb上で流布している。挿し木苗は水平根を主体とし、地すべりに対し有効とされる垂直根が欠如するとされ、この根系構造が斜面崩壊防止機能に対する脆弱性と関連づけられている。

スギ挿し木の樹木根系構造そのものの知見は極めて少なく、実際の根系構造と斜面崩壊防止機能との関係は科学的には明確ではない。そこで、10年生のスギ挿し木品種を対象に根系構造の品種特異性や立地環境と根系形質との関係の解明に取り組んできた研究者より、挿し木根系構造の詳細を報告いただく。さらに、砂防関連の研究者より明らかとなった樹木根系構造と斜面崩壊防止機能の関係を紹介いただく。

挿し木根系の出発点である不定根誘導については、傷害によって誘導された内在性オーキシンが不定根誘導に作用するとした定説ではなく、内在性オーキシン誘導を促す新規環境シグナルの存在が明らかとなっている。新規シグナルを人為操作することで、人為的に不定根誘導部位を操作する「根のデザイン化」などの取り組みも含めこれまでに明らかとなっている不定根誘導メカニズムについて紹介する。

センダンは、早生樹として期待される広葉樹の一つである。センダンについては、主根がよく発達して深く伸びるとされてきたが、成長にともない水平根を主体とする根系構造へと変化していくことが明らかとなっており、センダン根系の再生能力と合わせて紹介する。

スギ挿し木根系構造の品種特異性が明らかになったことや不定根誘導メカニズムの新たな理解が進んだことにより育種による根系構造改変の可能性が示唆された。今回、4つのトピックを紹介し、樹木根系の育種基盤構築に向けた取り組みに関して議論いただくことが目的である。

S13.変動環境下における大気‐森林間の物質交換と樹木の生理生態

Atmosphere-forest material exchange and tree physiological ecology under changing environment

略称:環境森林生理生態

コーディネータ: 渡辺 誠、東京農工大学大学院農学研究院

産業革命以降、化石燃料の消費増大に代表される人間活動によって、森林を取り巻く環境は劇的に変化している。人間活動の活発化に伴う、様々な生元素の循環量の変化やそれに伴う気候変動、大気汚染といった環境変動による森林生態系への影響が世界的に懸念されている。このような環境の変化は、樹木の光合成などの生理活性を始めとして、土壌の養分・水分の利用性や病虫害に対する抵抗性といった様々なプロセスに複雑な変化を与え、森林の生産性や各種機能に影響を与える。そして、そのフィードバック作用として、森林からの養分・水分および揮発性有機化合物などの放出特性も変化する。数十年以上かけて蓄積される森林バイオマス、環境資源としての森林の持続的利用、そして流域レベルでの物質循環の将来予測を行う上で、これら環境変化と森林・樹木の間に存在する相互作用の理解は避けて通ることができないきわめて重要な課題である。これらの相互作用は多岐に渡るプロセスの集合体であるため、様々な分野における知見に基づく議論が必要である。これまで本シンポジウムでは主に温帯・冷温帯林を対象として議論を重ねてきたが、今回のシンポジウムではそれらの研究講演に加えて、国際農林水産業研究センターの田中憲蔵氏より熱帯雨林構成樹種の葉の形質における林冠内における分布に関する研究成果をご講演頂く。温帯・冷温帯林と熱帯雨林における光合成生産の違いを中心に、森林に対する環境の変化の影響と将来の展望の議論を深める機会としたい。

S14.森林内飛行ドローンによる効率的な森林データ収集

Efficient forest data collection using drones flying within the forest

略称:林内ドローン開発

コーディネータ:加藤 顕、千葉大学

最新のドローン技術が森林分野でも利用拡大している。福島国際研究教育機構のプロジェクトにより、森林内で飛行できるドローンが開発され、ドローンによる森林内3次元データ収集が可能となった。収集した森林内データを用いれば、人がこれまで計測してきた胸高直径のデータをドローンによって効率的にデータ収集・計測が可能となる。データ整備が遅れている福島県内の森林で、こうした最新技術を用いたデータ整備を進め、広域データで福島復興のためにどんな世界が描けるかを検討したい。

本シンポジウムでは、これまで利用可能なレーザー技術について、これまでの3次元データ取得技術と森林内で取得されるデータの違いを示し、森林内データ取得の必要性を示す。ドローンに搭載した小型線量計による森林内放射線量のデータ収集と、その3次元的解析について紹介する。さらに、最新の解析技術として、広葉樹3次元データの解析手法を紹介する。こうした最新技術を用いれば、針葉樹ばかりでなく、様々な樹形を持つ森林に対し、データ整備が可能となる。今後のドローンの活用の展望について、最先端のドローン開発者を交えたパネルディスカッションを行い、森林分野でのドローン技術の意義について議論を深めたい。

発表者:加藤 顕、山田誠太郎(千葉大学)「森林分野でのドローンの活用と3次元データ解析」鈴木 智、中田 敏是(千葉大学)、野田龍介(東京工科大) 「森林内ドローンの開発」 田中博幸、太田智子(日本分析センター)「ドローン搭載用小型放線量計の開発」

S15.森林教育研究のさらなる発展を目指して―森林、自然、木材を活用した教育活動の研究の可能性を探る―

For Seeking to Extend Forest Education Research Activities: Exploring the possibilities of research on educational activities that utilize forest, nature, and timber

略称:森林教育の発展

コーディネータ: 山田 亮、北海道教育大学岩見沢校

東原 貴志、上越教育大学大学院

杉浦 克明、日本大学生物資源科学部

遠藤 知里、常葉大学短期大学部

日本森林学会では、第129回大会から教育部門が設置された。近年、森林環境における自然体験活動の展開が拡がるなど、教育に関する研究により一層の推進が期待されている。ただし、森林での教育活動は、実践する場所の条件が多様で、活動内容も幅広く、数多くの実践が行われている一方で、研究面では課題が多く、発展途上となっている。森林教育の研究には、人を相手にした教育活動について多角的に読み解き、森林科学の一部門としてさらなる発展を図るには、自然環境をフィールドとした近接領域の研究者や実践者と連携し、実践活動にあわせた研究方法について、検討をすすめていくことが求められる。

 第129回〜132回、135回、136回学会大会において、森林教育に関わりが深い教育分野の関係者とともに企画シンポジウムを開催し、教育研究の深化と拡がりの可能性を検討してきた。特に前回は、自然保育、市民活動、技術科教育、ツーリズムの実践者と研究者から、事例を中心とした報告があり、教育活動から得られる効果についての議論が深められた。

 本大会では、これまでの流れを踏まえ、森林教育研究のさらなる展開を目指し、近接領域の関係者から研究や実践事例を集めたシンポジウムを企画する。発表者は、研究者でありながら、森林や自然の現場における教育活動の経験が豊富であり、木育と自然保育の関連、学校教育や社会教育における青少年の育成、活動プログラム・教材の開発、地域活性化へ向けた取り組みなど幅広く、多くの示唆に富む報告がなされることを期待している。森林科学の知見の普及に関心のある研究者や人材育成に関わる多くの学会員に参加いただき、森林教育研究の発展を追求していく機会としたい。