企画シンポジウム

企画シンポジウムは、会員がコーディネータとなって企画する、森林科学に関する明瞭で簡潔にまとまったテーマをもったシンポジウムで、本大会ではS1からS12までの12のシンポジウムを開催します。発表者は公募せず、コーディネータが決定します。

S1. 大規模ダケカンバ産地試験林調査から見えてきた樹木の環境適応
Adaptation of trees to local environments revealed from a large-scale provenance trial of Betula ermanii

S2. 都市住民の森林への訪問をめぐる研究の可能性と課題
Possibilities and Tasks of Academic Research on Visits to Forests by Urban Residents

S3. 昆明・モントリオール生物多様性枠組実現に向けた産学官の役割:方法論の議論を中心に
The Role of Industry, Academia, and Government in Realizing the Kunming-Montreal Global Biodiversity Framework: Focusing on Methodological Discussions

S4. 2020年農林業センサスデータが捉える日本林業の現状
What does the 2020 census of Agriculture and Forestry tell us about the current state of Japanese forestry?

S5. 福島第一原子力発電所事故の生物影響―何が起こり、何が起こらなかったのか―
Biological effects of the Fukushima Dai-ichi Nuclear Power Plant Accident – What happened and what Did Not

S6. これからの林業経済学を考える
Pondering the Future of Forestry Economics

S7. 森林教育研究のさらなる発展を目指して―森林環境を活用した教育活動の可能性を探るー
For Seeking to Extend Forest Education Research Activities: Exploring the Possibilities of Educational Activities Utilizing the Forest Environment

S8. 山地森林環境の長期的な変化と,それらが水・土砂・流木の流出に及ぼす影響をふまえた災害予測の可能性
The effect of long-term changes in mountain forest environment on water, sediment and woody debris transport and possibility of disaster prediction based on those knowledges

S9. スマート林業の現場実装を見据えた研究開発
The smart forestry, from research and development to implementation

S10. 木質バイオマス燃料供給の現状とこれからの木質バイオマスの可能性
Current status of woody biomass fuel supply and the future potential of woody biomass

S11. 生理部門企画シンポジウム「スギを語る」とポスター紹介
Tree Physiology Division Symposium “Talking about Japanese cedar” and poster introduction

S12. 広葉樹林化を進めるためには何が必要か
How can we encourage the regeneration of broadleaf trees in conifer plantations?

S13. 変動環境下における大気‐森林間の物質交換と樹木の生理生態
Atmosphere-forest material exchange and tree physiological ecology under changing environment

S1. 大規模ダケカンバ産地試験林調査から見えてきた樹木の環境適応
Adaptation of trees to local environments revealed from a large-scale provenance trial of Betula ermanii

コーディネータ:津村義彦(筑波大学),後藤晋(東京大学)

日時・会場:3月8日 14:15-17:15・342講義室

趣旨

歴史的な気候変動(氷期や間氷期)の影響で森林植物は分布変遷を繰り返して現在の森林が構成されている。しかし、それは約10000年で+7℃という緩やかな変動であったため、樹木種の多くは分布のシフトで対応できた。現在進行している温暖化はこれまでに経験のない急速なもの(100年で+5℃)であるため、分布域の移動では対応できず、現在の集団や個体は大きな環境変動に曝されると考えられる。固着性の樹木は、種子散布と花粉散布によって徐々に分布域を移動させる。数千年もあれば百km単位での移動も可能であるが、環境が急変し移動で対応できない場合には、その場の環境に順応して表現型を変化させる「表現型可塑性」を示す必要がある。しかし、現在の自然分布の環境下で、それぞれの種が主要形質についてどの程度の表現型可塑性を保有しているかを伺い知ることは極めて難しい。そのため環境効果と遺伝効果を明らかにするためには、同一環境下に異なる産地の樹木を植栽して調査する産地試験林を設定する必要がある。地球温暖化などの環境の急激な変化に樹木がどのように応答するかを明らかにするため、ダケカンバの天然分布域全体をカバーする11産地から集めた種子を用いて、大規模なダケカンバの産地試験林を北海道から天然分布域外の九州までの11植栽地に設定した。ダケカンバは主に森林限界周辺の寒冷地に分布するために、温暖化の影響を特に受けやすく脆弱であると予想されるが、実際にどの程度の温度上昇で生存や成長ができなくなるかは不明である。これらの産地試験林では、樹木の成長と形態形質や光合成関連などの生理形態形質の調査、DNA解析、遺伝子発現解析を行ってきた。落葉広葉樹によっては温度上昇によって、成長がむしろ良くなる樹種もあるが、ダケカンバの場合、温度が上昇するほど、生存率と成長が低下し、そのパターンに産地間差があることが示された。例えば、高緯度の集団ほど、樹高が高く、葉面積が大きく、SLAが高く、芽吹きは早くなる傾向を示した。また南限に近い集団は、他の集団に比べて遺伝的多様性が低く、遺伝的な組成が異なっていた。またこの南限集団と森林限界に近い高標高集団に由来する実生は、ともに成長などが良くなかったが、前者は遺伝的多様性減少に伴う近交弱勢による影響、後者は自然淘汰の影響が顕在化したのではないかと考えられた。また植栽地間の比較から、生理特性の産地変異は光合成特性よりも水利用特性で大きく、成長の悪い産地ほど葉の水利用効率が高いことが明らかになった。低緯度・温暖産地の実生では、光合成速度が顕著に増加したが、高緯度・冷涼産地の実生は、高温時にストレスがかかることが示された。これらの成果を踏まえて、地球温暖化が森林樹木の形態形質に与える影響を考察し、森林生態系の温暖化に対する緩和・適応策として、何が必要かを議論したい。

S2. 都市住民の森林への訪問をめぐる研究の可能性と課題
Possibilities and Tasks of Academic Research on Visits to Forests by Urban Residents

コーディネータ :平野悠一郎,高山範理,八巻一成(森林総合研究所)

日時・会場:3月8日 9:00-12:00・441講義室

趣旨

森林サービス産業は、林野庁の主導で2019年度から本格化した施策である。この施策は、健康、観光、教育の三部門での森林活用事業の発展を促すものである。しかし、その実態は、多様な人間と森林との関わりのうち、都市住民をはじめとした外部の主体が、森林を「訪問」し、直接的に触れ合う利用行為一般に焦点を当てたものである。その上で、人間と森林との関わりを深めていくことが社会的に「望ましい」との観点から、幼少期から老年期までのライフステージを通じ、様々な形で森林を訪れる「新たな森と人のかかわり“Forest Style”の創造」を掲げた。
 多くの人口が都市部に在住する今日、レクリエーション、体験、保健休養等を目的とした外部からの訪問は、人間が森林からの効用を実感できる大きな機会となった。しかし、その内実の解明に向けての学術研究は、体系的に行われてきたとは言い難く、多くの余地が残されている。こうした空白を埋める一環として、森林総合研究所では、本年度から研究プロジェクト「無関心層を取り込んだ森林空間利用促進のためのアウトリーチ手法の提案」を実施している。すなわち、都市住民を中心とした森林への無関心層が、どのような形で訪問者となり得るかを、実証的に明らかにするとともに、そのニーズを森林所有者・管理者や、森林サービス産業の事業者の経営へと効果的に結び付けていく試みである。
 本企画シンポジウムでは、この研究プロジェクトの進捗を軸に、都市住民の森林への訪問をめぐる学術研究の可能性と課題について、様々な視点から議論を深めることを狙いとする。各報告、コメント、パネルディスカッションを通じて、研究調査のフレームワーク・手法・課題等の情報共有は勿論のこと、森林への訪問の社会的意義や、人々を森林に惹きつける鍵や仕掛けといった点についても、積極的な意見交換を行う場と位置づけている。

S3. 昆明・モントリオール生物多様性枠組実現に向けた産学官の役割:方法論の議論を中心に
The Role of Industry, Academia, and Government in Realizing the Kunming-Montreal Global Biodiversity Framework: Focusing on Methodological Discussions

コーディネータ :香坂玲(東京大学),栗山浩一(京都大学)

日時・会場: 3月8日 9:00-12:00・432講義室

趣旨

2022年12月、生物多様性条約の第15回締約国会議(COP15)において、昆明・モントリオール生物多様性枠組が採択された。その中で、2030年までに陸域と海域について少なくとも各30%を、公的な指定による保護地域及び民間取組等と連携したOECM(保護地域以外で生物多様性保全に資する地域)からなるシステムを通じて保全する「30 by 30」について明記され、一つの大きな指標となった。国内においても、OECMに帰属する「自然共生サイト」が設定され、本年度から正式に個別認証が開始されている。一方で、これら保全と利用に関する制度の推進に向けた政策的・科学的障壁は山積しており、インセンティブの導入や前進的な研究成果の共有が求められる。
 本企画シンポジウムでは、公的な指定による保護地域及びOECM・自然共生サイトによる保全エリアに加え、多角的な土地の保全と利用の方法論・データ分析を対象とし、保全と利用の相克に関する議論を展開する。主眼となるのは、保全と利用の価値対立に対して、サイト認証やデータ分析がいかに寄与するのか、という点である。相克から共生へ移行するためには、価値の定量化によって客観的な比較を行っていく必要がある。そのため、方法論、データ分析については認証エリアにとどまらず、幅広い知見を共有する。これにより、人口縮退、コスト、防災、再生可能エネルギー導入等持続的な土地利用に関する多様な観点からの合意形成を目指す。具体的には、保全手法としての保護地域、OECM、自然共生サイトの事例紹介に加え、認定や税のインセンティブに関する議論を行う。その後、ゾーニング・合意形成に向け、ビッグデータの活用、将来予測、非専門家との対話のためのツール(バウンダリー・オブジェクト)としての土地被覆・土地利用マップの活用の情報共有を行い、専門家と利害関係者の協働、保全と利用の両立の具体的方法論を議論する。

S4. 2020年農林業センサスデータが捉える日本林業の現状
What does the 2020 census of Agriculture and Forestry tell us about the current state of Japanese forestry?

コーディネータ :林宇一(宇都宮大学),藤掛一郎(宮崎大学)

日時・会場: 3月8日 9:00-12:00・431講義室

趣旨

 かつて行なわれていた林業事業体・林業サービス事業体への調査が,農業事業体・農業サービス事業体への調査と合わさり,農林業経営体調査となって4回目の調査が終わった。農林業センサスは様々な課題を抱えてはいるが,唯一,全国の林業動態を把握できる調査でもある。一方で,農林業センサスは国の基幹統計であるものの,他の調査に比べ調査項目が多く,個人情報保護にも配慮する必要があることなど調査負担は大きい。このため,現場を担う市町村の調査員からも現在の調査体系に疑問が出てきている。このような中,我々研究者は,現状の農林業センサスを存続させるためにも,積極的・継続的にその活用方法を提示し,かつ活用していくことで,その意義を明確にしていく必要がある。
 社会科学系の森林科学研究者は,これまで農林業センサス調査が行われるたびに,データを分析し、その結果や考察を報告してきた。その流れを汲み、今回は2020年農林業センサス調査に関する分析を報告する。使用するデータは,2010年,2015年,2020年の農林業センサス調査と,センサス調査対象となる経営体を特定するための客体候補名簿調査の2種類である。分析内容は,農林業センサス全体に対するものから,保有山林経営体,受託林業作業経営体,農家林家など従来の分析枠組みに沿いつつ,登壇者の関心も踏まえたものとする。
 本報告は,2022年度より4年計画で取組んでいる科研費研究(22H02379)の中間報告的位置づけを持つ。このため,登壇者間のみならずフロアとの間でも積極的に意見交換し,今後の分析の参考にしたいと考えている。公共財である農林業センサスの利用拡大の一助となれば幸いである。

S5. 福島第一原子力発電所事故の生物影響―何が起こり、何が起こらなかったのか―
Biological effects of the Fukushima Dai-ichi Nuclear Power Plant Accident – What happened and what Did Not

コーディネータ :兼子伸吾(福島大学),上野真義(森林総合研究所)

日時・会場: 3月8日 9:00-12:00・343講義室

趣旨

2011年に発生した東日本大震災とそれに続く福島第一原子力発電所の事故は、放射性物質の大規模拡散という未経験の問題を引き起こした。その結果、広い範囲で帰還困難区域を含む避難指示区域が設定され、社会的にも前例のない事態となった。放射性物質による汚染の影響についての社会的な不安も大きく、震災以後の福島大学における放射線被ばくの生物影響に関する講義や市民講座においては、「避難区域の生物のDNAは壊れているのではないか?」、「変な形の生き物が分布を広げているのではないか?」等の質問が頻出した。
 震災後10年以上が経過し、様々な方々の大変な努力により、帰還困難区域の面積は大きく縮小し、上記のような質問が出されることもずいぶんと少なくなった。しかしながら、放射線の生物影響についての社会的な認識が深まっているとは言い難い。原子放射線の影響に関する国連科学委員会 (UNSCEAR)などの公的機関の科学的見解がなかなか浸透しておらず、科学的知見を政策や社会活動に適切に反映させていくことの難しさを浮き彫りにしている。
 そこで本シンポジウムでは、放射性物質の循環や放射線被ばくが植物に与える影響についての最新の研究を紹介する。原子力発電所事故による生物影響については、この10年間で多くの知見が蓄積されてきた。放射性物質の循環等に関する研究を皮切りに、比較的低線量の被ばくでも生じた針葉樹の樹形異常、さらに「分からない」と言われ続けてきた遺伝的な影響等についても、定量的な評価が可能となってきた。これらの研究の紹介を通じ、福島第一原子力発電所事故によってどんな生物影響が観察されたのか、あるいは観察されなかったのかを共有したい。そのうえで、科学的な知見を適切に社会活動に反映させていくためには、どのような取り組みが必要なのか、考える契機としたい。

S6. これからの林業経済学を考える
Pondering the Future of Forestry Economics

コーディネータ :田村典江(事業構想大学院大学),柴崎茂光(東京大学)

日時・会場: 3月8日 14:15-17:15・431講義室

趣旨

「官」(林野行政)からみた制度を中心とする研究から、経済社会の担い手たる「民」(林業・林産業部門)からみた経済法則の探求を目指して、林業経済研究会(現・林業経済学会)は、1955年に設立された。設立当初の会員数は28名だったが、現在は380名を超え、研究者や学生のみならず、全国各地から多くの行政職員、実務者が参加する学術団体となっている。
 2025年に設立70周年を迎えることから、現在、学会では2000年代以降の林業経済学に関する研究動向について、項目別のレビューを行う記念論文集の編纂や、今後の林業経済学が取り組むべきリサーチクエスチョンについて学会内外の人々の協力・参加を得ながら探求する事業に取り組んでいる。
 発表者らはこの記念事業の実施に携わって、2000年代以降の林業経済学の展開や、現在、林業経済学がおかれている状況、および寄せられている期待について考える機会を得た。
 会則にその目的を「林業、林産業、山村さらには人間と森林との幅広いかかわりに関する社会科学および人文科学の理論的・実証的研究」と掲げるように、林業経済学が取り上げる研究課題は幅広く、森林学会の部門キーワードに照らし合わせると、林政のみならず、風致・観光、教育、経営、利用など多くの部門に関連した研究が行われている。2000年代以降、森林と社会の関係の変化に伴って、林業経済学が取り扱う領域はますます多様化・複雑化しており、今後の林業経済学を展望するためには、広く森林学会に参加する諸部門の研究者との交流が不可欠である。
 そこで本企画シンポジウムでは、記念事業の取組を通じて得られた知見や洞察を発表し、今後の林業経済学のあるべき方向性について、日本森林学会の多くの分野からの参加者と共に議論したい。

S7. 森林教育研究のさらなる発展を目指して―森林環境を活用した教育活動の可能性を探るー
For Seeking to Extend Forest Education Research Activities: Exploring the Possibilities of Educational Activities Utilizing the Forest Environment

コーディネータ :山田亮(北海道教育大学),井上真理子(森林総合研究所),杉浦克明(日本大学)

日時・会場: 3月10日 9:00-12:00・411講義室

趣旨

日本森林学会では,第129回大会から教育部門が設置された。近年,地域の森林環境における自然体験活動の展開が拡がるなど,教育に関する研究により一層の推進が期待されている。ただし,森林での教育活動は,実践する場所の条件が多様で,活動内容も幅広く,数多くの実践が行われている一方で,研究面では課題が多く,発展途上となっている。森林教育の研究には,人を相手にした教育活動について多角的に読み解き,森林科学の一部門としてさらなる発展を図るには,環境教育や野外教育などの近接領域の研究者や実践者と連携し,実践にあわせた研究の方法について,検討をすすめていくことが求められる。
 第129回大会では,森林教育に関わりが深い教育分野の関係者とともに企画シンポジウムを開催し,教育研究の深化と拡がりの可能性を見出すことができた。第130〜132回大会でも開催し,教育活動から得られる効果についての議論が深められた。そして2020年の『日本森林学会誌』Vol.102(1)で特集「森林教育研究の展望」(論文2編,短報2編)が掲載されるに至った。いずれの論考でも,森林教育の実践や研究の課題を整理しながら,近接領域で導入されている研究手法を用いて結果を導き出しているなど,これまでの企画シンポジウムの成果となった。
 本大会では,これまでの流れを踏まえ,森林教育研究のさらなる展開を目指し,近接領域である野外教育や学校教育の関係者から研究や実践事例を集めたシンポジウムを企画した。発表者は,研究者でありながら,森林や自然の現場における教育活動の経験が豊富であり,その対象も幼児の森のようちえんの活動から,中学校や高等学校での実践,さらにシニア対象の自然体験までと幅広く,多くの示唆に富む報告がなされることを期待している。森林科学の知見の普及に関心のある研究者や人材育成に関わる多くの学会員に参加いただき,森林教育研究の発展を追求していく機会としたい。

S8. 山地森林環境の長期的な変化と,それらが水・土砂・流木の流出に及ぼす影響をふまえた災害予測の可能性
The effect of long-term changes in mountain forest environment on water, sediment and woody debris transport and possibility of disaster prediction based on those knowledges

コーディネータ :浅野友子(東京大学),内田太郎(筑波大学)

日時・会場: 3月8日 9:00-12:00・443講義室

趣旨

人が身近な森の資源に頼って暮らしていた100年前には里山は荒廃し,毎年の降雨による表土の侵食速度は現在に比べて大きかった。一方,近年は,森林資源があまり使われなくなり森林や下層植生が回復し,表土は年々厚さを増し,山地流域内では土と材積量が増加しつつある。つまり,国内の山地の多くは今、この100~200年では経験したことのない、豊かな植生と厚い土層に覆われている。毎年起こる表層浸食に比べて単発的に生じる斜面崩壊の予測は難しい。さらに近年,気候変動の影響があらわれ始め,今後いっそう豪雨の頻度や強度が増すことが予想されている。このように場の条件と災害の誘因となる外力のいずれもが変化しており,災害の生じ方や対策が従来と異なってくると考えられる。一方で,現在の災害対策技術は過去の災害の経験をもとにしている部分が多くあり,将来の災害を予防するためには,山地森林環境の歴史的な変化を理解し,それらが水・土砂・流木の流出に及ぼしてきた影響を考慮した上で将来を予測する必要がある。水・土砂・流木流出形態や流出量の変化は、平野や海岸の防災や管理にも大きく影響する。
 第132~134回日本森林学会で行った企画シンポジウムでは,時間の流れの中で森林環境や災害、災害予測の現状を理解することに焦点を当て,主に江戸時代以降に大きく変化した山地・森林,土壌やそれらを取り巻く社会や山地災害の変遷を振り返った。そうしたところ,山地森林環境が成立した歴史的な経緯は多様であることを認め、個別に理解することが重要であること、過去を知り正しく整理・分析することは容易ではないが、視野を広げればその方法があることがわかってきた。今年度も引き続き同じテーマでシンポジウムを行い,過去の現象理解を深め,災害予測や今後の森林管理につなげる可能性をさぐる。

S9. スマート林業の現場実装を見据えた研究開発
The smart forestry, from research and development to implementation

コーディネータ :矢田豊(石川県農林総合研究センター),鷹尾元,鹿又秀聡(森林総合研究所)

日時・会場: 3月8日 14:15-17:15・442講義室

趣旨

スマート林業とは「デジタル管理・ICTによる林業、安全で高効率な自動化機械による林業」であるとされている(スマート林業実践マニュアル:林野庁 2023)。また、国は、2028年までに、スマート林業を、ほぼすべての意欲と能力のある林業者に定着させるという目標を掲げている(未来投資会議構造改革徹底推進会合資料:農林水産省 2019)。UAV、LiDAR、AIなどを活用した様々な製品/サービスが導入されつつあるが、林業生産活動の現場である山林は広大であり、かつ通常の移動体通信網の通信圏外にあることも多い。また生産物(木材)の量やサイズが大きいことなど、林業特有の事情を踏まえ、さらなる研究開発が強く求められている分野であり、近年の森林学会や関係学会等において、同分野の研究成果が活発に報告されているところである。
 スマート林業分野に限らず、研究成果を「現場実装」するためには、現場の状況やニーズを十分に理解したうえで研究方向を設定する必要がある。学術研究とそれを活かすための技術開発、そして現場のユーザーとの密接な連携によって、初めて成果の現場実装が実現するものと考える。
 また、スマート林業分野においては、個別システムの連携による一連の業務の効率化が期待されており、国の主導によるいくつかの標準仕様の策定等により、その道筋も示されつつあるところである。
 本シンポジウムでは、スマート林業技術の現場実装を見据えた研究事例の報告を共有し、これまでの成果とこれからの課題について議論を深めることで、本分野の研究と現場実装のさらなる発展に寄与したい。

S10. 木質バイオマス燃料供給の現状とこれからの木質バイオマスの可能性
Current status of woody biomass fuel supply and the future potential of woody biomass

コーディネータ :佐藤政宗(森のエネルギー研究所),有賀一広(宇都宮大学),久保山裕史(森林総合研究所),澤田直美,大久保敏宏(日本木質バイオマスエネルギー協会)

日時・会場: 3月8日 9:00-12:00・442講義室

趣旨

平成24年7月に再生可能エネルギー固定価格買取制度FITが開始され、未利用木材を燃料とする木質バイオマス発電の採算性が高まり、発電所の建設が相次ぎました。令和4年3月時点で、全国で243ヵ所新規認定され、すでに105ヵ所で稼動しています。
 木質バイオマス発電用の燃料需要は、これまで未利用となっていた地域林業の低質材の受け皿となりました。森林資源の有効活用により、林業事業体の所得向上や雇用創出につながり、木質バイオマス発電は林業・木材産業界を下支えしてきました。しかし近年、木質バイオマス発電の新設件数が増加し続けていることに加え、木材業界全体に大きな影響を与えたウッドショックや、年間100万m3を超える原木輸出の影響なども相まって、木材の需要は増大しています。こうした状況により、木質バイオマス発電の燃料安定調達は量的にも価格的にも厳しい状況にあります。
 本企画シンポジウムでは、複数の地域で木質バイオマス燃料の供給を行う事業者の発表や全国の発電所を対象に実施されたアンケートを通して、木質バイオマス発電用燃料調達の現状を整理します。さらに、安定的な燃料調達の可能性としての早生樹や、ガス化及び熱電併給システムの現状、発電に限らず産業用熱利用の可能性といった、木質バイオマスエネルギーの利用についてもご講演いただき、これからの木質バイオマスの可能性について考える機会になればと思います。
 多数の皆様のご参加を心よりお待ち申し上げております。

S11. 生理部門企画シンポジウム「スギを語る」とポスター紹介
Tree Physiology Division Symposium “Talking about Japanese cedar” and poster introduction

コーディネータ :則定真利子,小島克己(東京大学),斎藤秀之(北海道大学),田原恒(森林総合研究所),津山孝人(九州大学)

日時・会場: 3月8日 9:00-12:00・341講義室

趣旨

講演会「スギを語る」と生理部門のポスター発表の1分紹介とで構成する生理部門の企画シンポジウムを開催します。
 生理部門では、個体から細胞・分子レベルまでの幅広いスケールの現象を対象に、多様な手法を用いて樹木の成長の仕組みを明らかにする研究に携わる方々の情報・意見交換の場となることを目指しています。従来の研究分野の枠組みにとらわれることなく、さまざまなスケール・手法で樹木の成長の仕組みの解明に携わる多くの皆様に、生理部門での口頭・ポスター発表にご参加頂くとともに、本シンポジウムにご参集頂きたいと考えております。
 講演会では、日本の主要な造林樹種として古くから環境応答に関する知見が積み上げてこられ、最近全ゲノムが解読されたスギを見つめます。東京大学の丹下健さんに、苗木から成木まで、また木から山まで、スギを総体的に捉えて進めてこられた研究の成果をご紹介頂きます。森林総合研究所の宮澤真一さんに、針葉樹が特異的に有する光呼吸代謝について、スギを材料にして深まった知見に特に焦点を当ててご紹介頂きます。森林総合研究所の伊原徳子さんに、高温ストレスに対するスギの遺伝子発現応答に関する研究の成果をご紹介頂きます。主要造林樹種であり、一属一種の日本固有種であるスギの個性への理解が深まると同時に、遺伝情報や発現解析の手法の進展によって樹木の生き様への理解が深まってきたことを実感する機会となることを期待しています。
 講演会に引き続き、生理部門でのポスター発表者に1分間で内容を紹介いただきます。
 生理部門では、会場での議論の場を補完する形で、口頭発表およびポスター発表に関する議論のためのオンラインスペースを用意することを検討しています。詳細については、生理部門のFacebookページ(森林学会_生理部門/Tree_Physiology_JFS)やツイッター(@TreePhysiol_JFS)などで随時ご案内していきます。

S12. 広葉樹林化を進めるためには何が必要か
How can we encourage the regeneration of broadleaf trees in conifer plantations?

コーディネータ :星野大介,酒井武(森林総合研究所)

日時・会場: 3月8日 9:00-12:00・342講義室

趣旨

令和6(2024)年度から国税として1人あたり森林環境税1,000円が賦課徴収される。森林環境税は、森林環境譲与税として都道府県、市町村の状況に応じて按分され、森林整備等の財源として譲与される。これらの税金は経済的に成り立たない人工林において、間伐を通じた広葉樹林化に用いられるケースも多いと考えられ、既にそうした取組が散見される。いま私たち学会員には、どのようにすれば広葉樹林化を確実に進めることが出来るのか、その情報提供と技術開発が求められている。本シンポジウムでは広葉樹林化について現在の情報を交換しつつ、広葉樹林化を加速させる可能性のある技術情報を共有する場となることを狙いとする。自然に任せた広葉樹林化の難しさ、広葉樹林化の実態、有効な施業方法、行政の課題、更新補助技術など、各発表は誘い水であり、総合討論ではさらなる情報提供や議論をぜひお願いしたい。

S13. 変動環境下における大気‐森林間の物質交換と樹木の生理生態
Atmosphere-forest material exchange and tree physiological ecology under changing environment

コーディネータ :渡辺誠(東京農工大)

日時・会場: 3月8日 14:15-17:15・332講義室

趣旨

産業革命以降、化石燃料の消費増大に代表される人間活動によって、森林を取り巻く環境は劇的に変化している。気候変動に伴う降水量の変化、大気CO2濃度の上昇、窒素や硫黄などを含んだ酸性物質の沈着量の増加、オゾンやPM2.5などの大気汚染物質が森林生態系に与える地球規模の影響が懸念されている。このような環境変化は、光合成活性の低下、土壌の養分・水分の利用性や病虫害に対する抵抗性といった様々なプロセスに複雑な変化を与え、森林の生産性や分布に影響を与える。そして、そのフィードバック作用として、森林からの養分・水分および揮発性有機化合物などの放出特性も変化する。数十年以上かけて蓄積される森林バイオマス、環境資源としての森林の持続的利用、そして流域レベルでの物質循環の将来予測を行う上で、これら人為的な環境変化と森林・樹木における相互作用の理解は避けて通ることができない重要な課題である。本シンポジウムでは大気環境の変化と森林・樹木の関係に関する個別事例に関わる講演に加えて、東京農工大学の松田和秀氏より、未だ解明されていないPM2.5や反応性窒素ガスなどの大気−森林間の交換について、国内外の観測に基づくメカニズム解明とそのモデリングに関する研究成果を講演頂く。様々な分野における最新の知見を持ち寄り、日本をはじめとしたアジア地域の森林に対する大気環境の変化の影響と将来の展望を議論する。特に異なる分野間の異なるスケールで得られた知見を、双方からどのように捉えるのかについての議論を深める機会としたい。