公募セッション一覧
公募セッションは、既存の部門ではカバーできない部門横断的なテーマについて会員の研究交流を継続的に進めることを目的としたセッションです。発表者は公募します。
- T1. 生物多様性保全と森林管理
Biodiversity conservation and forest management - T2.森林環境の持つ保健休養機能の基礎的研究と応用研究 -森林+αの可能性-
Basic and applied research into the health and recreational functions of forest environments -The potential of forests and more- - T3.森林の放射能研究
Radioactivity in contaminated forests - T4.総合学・原論としての森林科学
Pursuing Forest Arts and Sciences as Comprehensive Studies - T5.樹木根の成長と機能
Development and function of tree roots - T6. フォレストデジタルツインの可能性を探る: ポテンシャルと課題
Exploring the potential and technical issues of forest digital twin - T7.ネットゼロ社会における森林の役割(第二回)
The Role of Forests in a Net Zero Society in Japan(Ⅱ) - T8.環境・社会と調和した持続的な木質バイオマスのエネルギー利用
Sustainable use of woody biomass energy in harmony with the environment and society
T1. 生物多様性保全と森林管理
Biodiversity conservation and forest management
略称:生物多様性保全
コーディネータ:山中聡、森林総合研究所北海道支所
山浦悠一、森林総合研究所四国支所
河村和洋、森林総合研究所北海道支所
ポスター発表 有
森林の減少・劣化は世界各地で進行しており,森林生態系における生物多様性保全とその持続可能な利用のための行動が必要とされています。日本の国土の約7割は森林に覆われていますが,人間活動による改変が少ない森林は限られており,老齢林やそれらに依存する生物の生息環境を維持することは重要です。また近年では,里山などで人間活動の衰退に伴う生物多様性の減少も懸念されています。その一方で,日本の森林の4割を占める人工林は各地で伐採が進み,林業の地域社会や経済への貢献が期待されています。これらの人工林は一般に生物多様性が低いことが知られていますが,管理の仕方によって多くの生物の生息地として機能するとも指摘されています。森林と林業の社会的価値や持続可能性を向上させていくために,日本でも生物多様性の保全に配慮した森林管理が,今後より重要となっていくと考えられます。
生物多様性の保全に配慮した森林管理を行うには,様々な分類群や林相(天然林や人工林など),地域を対象とした生態学的研究や保全技術の開発や検証,集積が必要です。また,得られた知見を実際の森林管理に導入するためには,政策学や社会経済学など,様々な学問分野からのアプローチが必要とされます。
本セッションでは,森林生態系における生物多様性の保全という共通の課題を扱う研究の発表を募ることで,これまで異なるセッションで発表されてきた研究や研究者が集まる場を作りたいと考えています。研究対象とする生物多様性の階層(遺伝子,種,生態系)や空間スケール(林分,景観,流域など),学問分野は問いません。発表形式は口頭発表とポスター発表の両方を対象とします。
当セッションは今回5回目の開催です。今後も継続することで,参加者の方々が取り組んでいる課題について情報を交換・議論し,理解を深め,生物多様性に配慮した森林管理の実践に寄与できる場を作りたいと考えています。
T2.森林環境の持つ保健休養機能の基礎的研究と応用研究 -森林+αの可能性-
Basic and applied research into the health and recreational functions of forest environments -The potential of forests and more-
略称:保健休養
コーディネータ:上原 巌、東京農業大学
ポスター発表 有
本セッションは本大会で20周年を迎え、森林科学研究の分野の中で、一般市民の関心とニーズが高い分野の1つである。
これまでの大会では、生理的および心理的なアプローチの基礎的研究をはじめ、臨床事例、研究手法、尺度開発、国内外の地域における事例研究などが発表されてきた。保健休養に供する森林環境の整備といったハードの課題、治療・保養プログラム作成等のソフトの課題、さらに各臨床症例・事例研究や、保養地事例などに至るまで多岐にわたった内容になっていることが特徴である。そのため、森林・林業関係者だけでなく、医療、社会福祉、心理、教育など、多領域とのコラボレーションに取り組んできたことも本セッションの特色であり、存続意義である。
今回の第137回大会においても、森林を活用した健康増進はもとより、日常生活における保健衛生や、医療、福祉、教育などの諸分野とも融合したセッションを目指している。
身近な事象から国際的な課題まで、多種多様な研究発表をお待ちしています。
T3.森林の放射能研究
Radioactivity in contaminated forests
略称:森林の放射能
コーディネータ:今村直広、森林総合研究所北海道支所
高橋純子、筑波大学、
大久保達弘、東北農林専門職大学
ポスター発表 有
東日本大震災から15年が経過し、第2期復興・創成期間が終了しようとしている。しかし、原子力災害被災地域は、地域ごとに復興のスピードや進捗が大きく異なるため、地域の実情を丁寧に把握し、今後もそれに応じた施策をきめ細やかに実施していくことが重要とされている。令和7年6月に変更された「第2期復興・創成期間」以降における東日本大震災からの復興の基本方針では、帰還した住民が日々の暮らしを送る中で里山の恵みを享受できるための森林整備の再開やそれに必要な放射性物質対策、里山再生、原木や原木しいたけ等の産地再生に向けた取組、バイオマス発電施設活用を含む樹皮の有効利用、帰宅困難区域内での森林整備作業者の安全ガイドラインの策定、更には、野生きのこ、山菜、ジビエ等の食品について基準の再検討、分かりやすい形で情報発信・リスクコミュニケーションの推進などが目標に掲げられている。このように、福島の森林・林業の復興・再生には、未だに多種多様な問題が存在し、多岐にわたる分野の研究推進が必要となっている。本セッションでは、昨年に引き続き、森林内の放射性セシウム動態から、林業や山村地域の再生を含めた社会・経済的影響、さらにはリスクコミュニケーションまで、幅広い研究発表を募集し、森林の放射能研究に携わる研究者の意見交流の場としたい。
T4.総合学・原論としての森林科学
Pursuing Forest Arts and Sciences as Comprehensive Studies
略称:総合学・原論
コーディネータ:平野悠一郎、森林総合研究所多摩森林科学園
竹本太郎、東京農工大学
齋藤暖生、東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林樹芸研究所
水内佑輔、金沢大学融合研究域
ポスター発表 無
今日でこそ各部門に分かれている森林科学は、本来、多様な生態系や人間社会と森林との歴史的な関わりに向き合う総合学・現場主義の「林学」として、日本を含めた世界各地で発展を遂げてきた。そこでは、多様性や不確実性を前提としながらも、保続の思想や森林美学等が模索され、「森林の価値・機能・サービスとは何か」、「持続性とは何か」、「人と自然との関わりがどうあるべきか」といった理念的・原論的な議論も行われてきた。
また、近年では、歴史学、文学、民俗学、考古学、倫理学といった人文科学のアプローチにおいて、林学が向き合ってきた人間と森林との多様な関わりの内実が掘り下げられるようにもなった。その中で、林学全体、或いは各部門や専門分野で論じられてきた思想・理論や実践が、学史や学説、技術史や地域間比較研究といった形で振り返られ、深められようともしている。また、歴史学等のアプローチを通じた長期の地域履歴・データの発掘と検証が、今日の森林をめぐる課題解決や管理保全に活かされる道筋も模索されつつある。
その一方で、生物多様性の維持、地球温暖化防止、SDGsの達成、Well-beingの実現といった、今後の人間社会のあり方を規定する概念や議論がグローバルに広まるにつれて、それらの要諦としての森林をいかに管理保全していくかには、大きな注目と期待が寄せられつつあり、森林科学としての応答や発展も求められている。
これらの動きは、今日において「総合学・原論としての森林科学」を改めて議論し、再構築していく必要性を我々に提起している。そこで、本セッションでは、各部門に跨って、①各部門及び森林科学と人文科学(歴史学・考古学・文学・芸術学・民俗学等)の接点となる研究、②林学・森林科学の歩みを解明する研究(学史・学説・思想研究等)、③森林科学や森林との関わりの意義やあり方を問う研究(哲学・倫理・美学・価値研究等)などを広く公募し、部門横断的なForest Arts and Sciencesとしての研究交流・発展の場を、日本森林学会内に形成していくことを狙いとするものである。
T5.樹木根の成長と機能
Development and function of tree roots
略称:樹木根
コーディネータ:平野恭弘、名古屋大学環境学研究科
大橋瑞江、兵庫県立大学環境人間学部
野口享太郎、国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所
牧田直樹、信州大学理学部
福澤加里部、北海道大学北方生物圏フィールド科学センター
檀浦正子、京都大学農学研究科
ポスター発表 有
公募セッション「樹木根の成長と機能」では、樹木根をキーワードに太い根から細い根まで、生態系レベルから細胞レベルまで、根と関連した多岐にわたる研究を公募し、報告対象といたします。本公募セッションでは、樹木根だけでなく、様々な境界領域分野との融合を目指します。研究内容に「根」に関する測定や事象があれば、葉や幹をはじめとする樹木地上部に関する研究、土壌微生物や土壌物理化学特性、緊縛力など防災・減災に関する研究、温暖化や酸性化といった環境変動に関する研究など、根以外を主な対象とする発表も広く歓迎いたします。また「根」を測定項目としたい会員向けに測定方法の共有も目的とします。
2025年6月には本セッションをプラットフォームとして、Journal of Forest Research誌特集号「Recent advances in the understanding of the development and functions of roots in forest ecosystems(森林生態系における樹木根の発達と機能の最近の理解の進展)」が発刊されました。今回は、特集号に執筆された会員の皆さんに特集論文に関わる最新知見の口頭発表をお願いし、それに加えて、会員の皆さんの根に関する研究ならばどなたでも、口頭発表およびポスター発表を広く募集をします。
発表当日は、趣旨説明の後、口頭発表していただき、適宜発表間に討論時間を設け、最後に総合討論の時間を設ける予定です。趣旨説明では根研究学会の開催する根研究集会の紹介、2026年6月にイタリアで開催予定の第9回国際樹木根会議の紹介など樹木根研究の国際および国内動向を森林学会員に広く情報提供します。総合討論では、樹木根と境界領域分野との研究者間ネットワーク作りを促進するための討論も行います。
T6. フォレストデジタルツインの可能性を探る: ポテンシャルと課題
Exploring the potential and technical issues of forest digital twin
略称:デジタルツイン
コーディネータ:橋本昌司、森林総合研究所
南光一樹、東京農工大学
瀧誠志郎、森林総合研究所
中澤昌彦、森林総合研究所
陣川雅樹、森林総合研究所
ポスター発表 無
都市部を中心にデジタルツインの整備が急速に進み、都市防災シミュレーションやゲーム開発への活用が進められています。デジタルツインとは現実世界(リアル空間)で収集した情報を元に仮想空間上にリアル空間を再現する技術を指します。都市部のデジタルツインは都市情報のあり方や活用法を劇的に変えつつあります。森林版のデジタルツインであるフォレストデジタルツインは、従来の森林情報のあり方を大きく変革し、資源把握、木材生産、防災、多様性、リクリエーション、教育など様々な森林生態系サービスに活用できる可能性を秘める革新的技術です。一方、都市部と比べると、広域で、複雑な地形の上に生物で構成されている自然生態系である森林は、デジタルツインの構築のためには森林特有の工夫と克服すべき課題もあると考えられます。本セッションは、日本版フォレストデジタルツインの可能性と課題について情報交換とネットワーキングを行います。デジタルツインの構築、デジタルツインを利用した研究、デジタルツインの社会実装、デジタルツインと連携できる可能性があるセンシングやデータベース・マッピングなど、デジタルツインに関わる幅広い研究内容を含みます。総合討論では、日本版フォレストデジタルツインの可能性と課題について討論も行います。是非お気軽にご参加ください。
T7.ネットゼロ社会における森林の役割(第二回)
The Role of Forests in a Net Zero Society in Japan(Ⅱ)
略称:ネットゼロ森林(Ⅱ)
コーディネータ:小南裕志、森林総合研究所
加用千裕、 東京農工大学大学院農学研究院自然環境保全学部門
ポスター発表 有
昨年に引き続き、公募セッション「ネットゼロ森林」では、2050年の日本の温室効果ガス排出正味ゼロを目指す長期目標に対して日本の森林が果たす役割の評価についての幅広い研究を公募し、報告対象とします。2021年に閣議決定された「森林・林業基本計画」や「地球温暖化対策計画」においては森林資源の循環利用の促進や2013年時点からの温室効果ガス排出量削減の2.7%を森林吸収で担うなど、ネットゼロ社会に向けた森林の機能の強化がうたわれています。一方、現在および将来の広域森林の正味のCO2吸収量(NEP)の推定や森林管理の寄与、環境変動の効果、さらには伐採木材製品(HWP)の炭素隔離効果などに関しては専門分野が多岐にわたるなどの問題により、研究や問題点の把握の俯瞰が困難な状況にあると考えられ、上述の森林吸収の妥当性や継続可能性などに関しては包括的な議論が十分にされていないと思われます。しかしながら近年の広域データの蓄積、衛星情報の高精度化、モデルの高度化などにより、個々の森林群落の状態を統合した日本全体の森林の機能評価や将来推定が徐々に実現可能になってきていると考えます。本セッションでは、地域や日本全体でのデータ統合やモデルの高度化などによる将来の森林炭素収支の推定、伐採利用や植林などの森林管理により長期的なNEPの強化は可能か?さらには今後の日本の木材生産とHWPの関係、森林利用と多様性の両立など、これからのネットゼロ社会における森林の広域機能評価にかかわる広範な発表を募集し、これからの人間社会と森林の在り方や未来の日本の森林のあるべき姿について幅広い議論を行うことを目的とします。発表形式は口頭発表またはポスター発表とします。
T8.環境・社会と調和した持続的な木質バイオマスのエネルギー利用
Sustainable use of woody biomass energy in harmony with the environment and society
略称:調和的木エネ利用
コーディネータ:横田康裕、森林総合研究所
鈴木保志、高知大学教育研究部
有賀一広、宇都宮大学農学部
佐藤政宗、森のエネルギー研究所
寺岡行雄、鹿児島大学農学部
久保山裕史、森林総合研究所
ポスター発表 無
趣旨(日本語または英語): 2012年7月に再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT制度)が施行されて以降、国内各地で木質バイオマス発電の導入が進むなど、近年、木質バイオマスのエネルギー利用が活発に展開されています。こうした取り組みには、林業の振興や持続可能な社会の構築への貢献が期待されています。2023年には、国内で生産された丸太の約3割(1,132万m3)がエネルギー用途に利用されるまでになっています。一方で、発電事業に限らず、木質バイオマスのエネルギー利用全般においては、事業の経済性の確保に加え、環境や社会との調和をいかに図るかが重要な課題となっています。近年は、ウッドショックによる木材需給の変動をはじめ、急速なインフレ、賃金上昇、労働力不足など、社会経済状況の変化が著しく、さらにはSDGs(持続可能な開発目標)への貢献やCSR(企業の社会的責任)の履行も、これまで以上に強く求められるようになっています。
こうした現状を踏まえ、本公募セッションでは、今日における「環境・社会と調和した持続的な木質バイオマスのエネルギー利用の在り方」について多角的に議論し、理解を深めるとともに、今後の展望を参加者の皆様と共に考えること目的とします。これまでの森林学会では、発電事業に注目し、事業実施における最重要課題として燃料の低コスト・安定調達に関する議論を継続してきました。今回も、引き続き同課題を重要な論点として取り上げつつ、他の経済・環境・社会面の課題にも焦点を当てたいと考えています。例えば、経済面における燃焼灰処理、熱利用等による事業性改善等、環境面における森林資源の持続的利用の確保、生態系・生物多様性保全への配慮、ライフサイクルGHGの削減等、社会面における、木材のカスケード利用、地域社会への貢献等に関する報告を期待します。また、発電事業に限らず、熱利用や小規模分散型エネルギー利用など、木質バイオマスのエネルギー利用全般に関する報告も歓迎いたします。
多様な立場・視点からの報告を多数お寄せいただくとともに、学会当日には多くの方にご参加いただき、活発な議論が交わされることを期待しております。なお、今回は、上記の趣旨に沿い、未利用木材等の国産燃料を主に使用する事業を対象とします。