第133回日本森林学会大会/企画シンポジウム一覧

企画シンポジウムは、会員がコーディネータとなって企画する、森林科学に関する明瞭で簡潔にまとまったテーマをもったシンポジウムで、本大会ではS1からS5までの5つのシンポジウムを開催します。発表者は公募せず、コーディネータが決定します。

S1.スギ雄性不稔遺伝子の同定およびマーカー選抜技術の開発と利用
Identification of male-sterile genes and development and application of marker-assisted selection systems

S2.山地森林環境の長期的な変化と、それらが水・土砂・流木の流出に及ぼす影響をふまえた災害予測の可能性
The effect of long-term changes in mountain forest environment on water, sediment and woody debris transport and possibility of disaster prediction based on those knowledges

S3.環境変化にともなう森林の生産性と分布の予測
Forest productivity and distribution under changing environment

S4.森林バイオマス利用はカーボンニュートラルか? 炭素負債問題を理解する
Is forest bioenergy carbon neutral? Understanding the carbon debt issues

S5.生理部門企画シンポジウム「動的な細胞壁」とポスター紹介・討論
Tree Physiology Section Symposium “Cell wall dynamics” and poster discussion

S1.スギ雄性不稔遺伝子の同定およびマーカー選抜技術の開発と利用
Identification of male-sterile genes and development and application of marker-assisted selection systems

コーディネータ:森口喜成(新潟大学)、上野真義(森林総合研究所)

主働遺伝子に支配されている形質の選抜では、有用形質に関連したDNAマーカーを利用するmarker-assisted selection(MAS)が効果的である。林木においては形質が評価できるようになるまでに長い年限を必要とするため、短期間で有用形質を持つ個体を選抜することが可能になるMASは非常に魅力的である。針葉樹はゲノムサイズが大きく、反復配列が多く含まれていることからゲノム配列の構築が作物に比べて遅れている。しかし、近年、次世代シーケンサーによる解析などゲノム解析技術の進歩とともに、針葉樹においても、徐々にゲノム情報が蓄積されてきている。

スギ花粉症対策として、花粉を全く飛散させない無花粉スギの利用は非常に有効である。無花粉スギは、単一の潜性遺伝子(雄性不稔遺伝子)に支配されており、これまでに4つの雄性不稔遺伝子MS1、MS2、MS3、MS4が見いだされ、それらは異なる連鎖群に位置することが明らかになっている。本シンポジウムでは無花粉スギの普及促進に向けて、雄性不稔遺伝子の同定とMASシステムの開発、その応用についての最新の成果を報告していただく。多くの学会員に参加いただき、情報を共有し、今後の研究展開や取り組むべき課題について考える場としたい。

S2.山地森林環境の長期的な変化と、それらが水・土砂・流木の流出に及ぼす影響をふまえた災害予測の可能性
The effect of long-term changes in mountain forest environment on water, sediment and woody debris transport and possibility of disaster prediction based on those knowledges

コーディネータ:浅野友子(東京大学)、内田太郎(筑波大学)

人が身近な森の資源に頼って暮らしていた100年前には里山は荒廃し、毎年の降雨による表土の侵食速度は現在に比べて大きかった。一方、近年は、森林資源があまり使われなくなり森林や下層植生が回復し、表土は年々厚さを増し、山地流域内では土と材積量が増加しつつある。そのため、今、国内の山地の多くはこの100~200年では経験したことのない状況(豊かな植生、厚い土層)にあると考えられる。この場合、一度の豪雨で流出する土砂と流木の量は、山地が荒廃していた時代よりも多くなる可能性がある。さらに近年、気候変動の影響があらわれ始め、今後いっそう豪雨の頻度や強度が増すことが予想されている。このように場の条件と災害の誘因となる外力のいずれもが変化しており、災害の生じ方が従来と異なってくる可能性が考えられる。一方で、現在の災害対策技術は過去の災害の経験をもとにしている部分が多くあり、将来の災害を予防するためには、山地森林環境の歴史的な変化を理解し、それらが水・土砂・流木の流出に及ぼしてきた影響を考慮した上で将来を予測する必要がある。

昨年度の企画シンポジウムでは、時間の流れの中で森林環境や災害の現状を理解することに焦点を当て、主に江戸時代以降に大きく変化した山地・森林、土壌やそれらを取り巻く社会や山地災害の変遷を振り返った。そうしたところ、目の前にある山地森林環境が成立した歴史的な経緯を理解することが重要であるが、山地環境は異なる時間軸を持つ複数の要因が相互に関係し合って成り立つ複雑な系であるということ、したがって過去を知り正しく整理・分析する必要があるが、過去の現象解明は容易ではないことがわかってきた。そこで今年度も引き続き同じテーマでシンポジウムを行い、過去の現象理解を深め、災害予測や今後の森林管理につなげる可能性をさぐる。

S3.環境変化にともなう森林の生産性と分布の予測 Forest productivity and distribution under changing environment

コーディネータ:渡辺 誠(東京農工大学)

産業革命以降、化石燃料の消費増大に代表される人間活動によって、森林を取り巻く環境は劇的に変化している。気候変動に伴う降水量の変化、大気CO2濃度の上昇、窒素や硫黄などを含んだ酸性物質の沈着量の増加、オゾンやPM2.5などの大気汚染物質が森林生態系に与える地球規模の影響が懸念されている。このような環境変化は、光合成活性の低下、土壌の養分・水分の利用性や病虫害に対する抵抗性といった様々なプロセスに複雑な変化を与え、森林の生産性や分布に影響を与える。そして、そのフィードバック作用として、森林からの養分・水分および揮発性有機化合物などの放出特性も変化する。数十年以上かけて蓄積される森林バイオマス、環境資源としての森林の持続的利用、そして流域レベルでの物質循環の将来予測を行う上で、これら人為的な環境変化と森林・樹木における相互作用の理解は避けて通ることができない重要な課題である。

本シンポジウムでは樹木生理生態学を基礎として、環境に関わるモニタリング、実験的研究およびフィールド調査、さらには数値モデルを用いた森林や樹木への影響評価に関する研究、というように分野横断的に最新の知見を持ち寄り、日本をはじめとしたアジア地域の森林に対する環境変化の影響と将来の展望を議論する。特に異なる分野間の異なるスケールで得られた知見を、どのように融合していくのかについての議論を深めることを目的とする。

S4.森林バイオマス利用はカーボンニュートラルか? 炭素負債問題を理解する Is forest bioenergy carbon neutral? Understanding the carbon debt issues

コーディネータ:相川高信(自然エネルギー財団)、久保山裕史(森林総合研究所)

バイオマス起源のCO2は、生物の成長過程で光合成により大気中から吸収されたものであり、燃焼時に大気中のCO2を増加させないため、差し引きゼロ(炭素中立/カーボンニュートラル)とされ、バイオマスのエネルギー利用を気候変動対策として進める根拠となってきた。しかし近年、この考え方は単純すぎるという批判が強まっている。

事実として、化石燃料に比べてバイオマス燃料の方が単位エネルギー量あたりのCO2排出量が多く、大気中のCO2量を一時的に増加させる。特に、樹木・森林の場合は、成長・再生に時間を要するため、放出されたCO2の再吸収にかかる時間が長く、CO2削減効果が発現するのに時間がかかると批判されているのである。

他方、バイオマスエネルギー利用の気候変動対策としての評価を定量的に行うためには、森林の現状の炭素蓄積や成長速度、エネルギー利用効率といったパラメーターに加え、エネルギー利用が行われない場合のシナリオ設定など、地域条件の影響を受ける。既往研究の多くは、主に欧州や北米においてに行われてきたため、日本国内の条件に基づく研究が必要であるが、サプライチェーンのLCA評価研究は行われているものの、バイオマス由来のCO2を考慮した議論は行われてこなかった。さらに日本では、木質バイオマス燃料消費量は今後も増加することが予想される中、カスケード利用を前提とした従来型の供給方法に加えて、新たに早生樹や広葉樹の活用などが政策的に検討されており、これらも含めて科学的な評価が行われる必要がある。その際には、LCAなどを用いた環境評価に加え、造林・利用上の技術的・経済的な制約も考慮する必要がある。

そこで、本企画シンポジウムでは、国際的な論争の論点整理を行うとともに、実際に日本の状況を想定した研究報告と、今後に向けた供給オプションの可能性と課題を探る。これらの結果を踏まえて、日本の林業・バイオマス政策への示唆を示したい。

【第1部】炭素負債問題の国際動向と日本への示唆(モデレーター:相川)

泊みゆき(NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク)

古俣寛隆(北海道立総合研究機構林産試験場)

大久保敏宏(日本木質バイオマスエネルギー協会/早稲田大学人間科学学術院人間総合研究センター)

【第2部】持続可能かつ気候変動対策として有効な供給(モデレーター:久保山)

原山尚徳(森林総合研究所)

他調整中(広葉樹や早生樹育成の実践的取組についての報告を予定)

S5.生理部門企画シンポジウム「動的な細胞壁」とポスター紹介・討論 Tree Physiology Section Symposium “Cell wall dynamics” and poster discussion

コーディネータ:則定真利子(東京大学)、田原 恒(森林総合研究所)、小島克己(東京大学)、斎藤秀之(北海道大学)、津山孝人(九州大学)

講演会「動的な細胞壁」と生理部門のポスター発表の1分紹介とで構成する生理部門の企画シンポジウムを開催します。

生理部門では、個体から細胞・分子レベルまでの幅広いスケールの現象を対象に、多様な手法を用いて樹木の成長の仕組みを明らかにする研究に携わる方々の情報・意見交換の場となることを目指しています。従来の研究分野の枠組みにとらわれることなく、さまざまなスケール・手法で樹木の成長の仕組みの解明に携わる多くの皆様に、生理部門での口頭・ポスター発表にご参加頂くとともに、本シンポジウムにご参集頂きたいと考えております。

講演会では、細胞壁に注目し、外界因子に対して動的に応答するさまを見つめ、樹木の環境応答を細胞壁から考えます。埼玉大学の高橋大輔さんには、細胞壁多糖およびタンパク質に焦点を当てて取り組まれておられる凍結耐性の仕組みについてご講演いただきます。神戸大学の東若菜さんには、細胞壁を構成する生体分子と水との相互作用に注目して追究されてこられた葉の貯水能についてご講演いただきます。ほかにもう1名、ご講演いただく予定です。

講演会に引き続き、生理部門でポスター発表をされる方々に発表内容を1分間でご紹介いただき、口頭での討論をする場を設けます。

生理部門では、大会期間中に討論や懇親など多目的に自由に使えるオンラインスペースを用意します。詳細については、生理部門のFacebookページ(森林学会_生理部門/Tree_Physiology_JFS)やツイッター(@TreePhysiol_JFS)などで随時ご案内していきます。