文化庁選定:重要文化的景観「智頭の林業景観」~日本初の林業景観選定の意義~

中越信和
広島大学名誉教授(理学博士)

1951 年、広島県生まれ。専門は生態学、景観生態学、環
境計画学。都市緑地・文化的景観・自然保護区についての
景観研究。
智頭の重要文化的景観選定に関わる。
智頭町文化的景観保存活用委員会・委員⾧


講演概要

日本における文化的景観の存在を確認していただきます。文化庁が文化財としている文化的景観の内容を知ってください。そのうち景観法で規定される文化庁所管の「重要文化的景観」について解説させていただきます。重要文化的景観は2006 年の最初の選定から、2021 年10 月現在で総数71 物件あります。重要文化的景観選定基準には8 つあり、その3 番目が森林景観です。文化的景観は生業が基盤です。日本では必然的に農地の評価が高く、特に主食である稲を生産する水田が第一義的に評価されています。しかし、国土の主要景観である森林の41%が人工林なのも事実です。人工林は木材生産を目的としていますから林業景観は明らかに文化的景観です。全71 物件のうち、基準3 を構成する林業景観の物件は「智頭の林業景観」ただ一つです。この物件が重要文化的景観に選定されたのは2018 年です。日本のひな型となる選定ですから、その林業景観の内容が充実していなければなりません。智頭町ではこの要件を満たしている林業景観が存在しています。同町が林業景観の重要性に気付き、文化庁選定にいたるまでの努力をご紹介させてください。
 今後、智頭町を含む全国の中山間地域での林業景観を維持するために必要な要件を本集会に参加されている皆様と議論できれば幸いです。より広義には、自称森林国とされる日本における森林の生態系サービスについて、林業からの貢献について皆様が実行に向けて努力されることを大いに期待しているところです。