企画シンポジウム

企画シンポジウムは,会員がコーディネータとなって企画する、森林学に関する明瞭で簡潔にまとまったテーマをもったシンポジウムです。

S1.階層モデリングは森林の隠れた生態的状態の推測を可能にする
Inference of latent process of forests by hierarchical modeling and its validation

コーディネータ:飯島勇人(森林総合研究所)、伊東宏樹(森林総合研究所)

階層モデルは、森林に存在する動物や植物の在・不在や個体数量などと、それらの動態を司る要因を明示的にモデル化し、推測できる優れた手法である。例えば、森林の構造は、立木や下層植生の存在により水平方向および垂直方向に複雑であり、動物はその複雑な構造に応じて行動している。そのため、研究者が動植物の在・不在や個体数量などとそれらの動態を直接かつ誤差なく観測することは、困難である。階層モデルは、興味のある現象やそれを駆動する要因を含む系全体の動態(生態的状態)を記述するモデル(生態モデル)と、生態モデルで記述した要素に関して取得するデータの取得過程を記述するモデル(観測モデル)の2モデルから構成される。そして、生態モデルと観測モデルには、解析者が任意の確率分布や構造を適用できる。このため、階層モデルは興味のある対象を直接観測できない状況での推測に適した特徴を有しており、森林科学分野でも普及しつつある。しかし、階層モデルはモデルの構造が柔軟であるがゆえに、階層モデルを用いて推定されたパラメータの妥当性の評価が、困難である。階層モデルによる推定結果は、純粋科学のみならず応用科学、政策の意思決定でも用いられるため、その妥当性の評価は重要である。本シンポジウムでは、森林科学分野における階層モデルによる推論事例と、推定されたパラメータの妥当性の評価方法を複数紹介する。これによって、本当に推測したいことと、推測に必要なデータについて「階層的に考える」ことの重要性を示したい。さらに、このような妥当性の評価の手法は、次の新たな研究を始める際に、必要なデータの種類や量を研究を始める前に推測できるなど、森林科学分野全体にとって有用であることを示したい。

S2.2011 -2021 -2031:森林の放射能研究のこれまでとこれから
2011 -2021 -2031: Past and future of radiation research in Japanese forests

コーディネータ:小松雅史(森林総合研究所)、大久保達弘(宇都宮大学)

大会が行われる2021年の3月で東日本大震災および福島第一原発事故から10年が経過します。事故から行われた研究によって多くのことが明らかになりました。一方でまだ明らかでないこと、解決していない社会的問題は山積しています。そのため、森林の放射能研究を今後も継続していくことが何よりも重要です。昨年は大会が中止になったものの、有志でオンラインセッションを行い、研究の火を絶やさないようにしてきました。 例年は森林の放射能研究に関して公募セッションでの参加を行ってきましたが、事故後10年という節目であることから、これまでの研究の総括と今後の研究のあり方について皆様と議論していくためのセッションとして、企画シンポジウムにて開催いたします。セッションでは福島事故後の研究に関わってきた数名の研究者や行政担当者にこれまでと今後についてお話をしていただいた上で、パネルディスカッションを行いたいと思います。 なお、これまで行ってきた通常の研究発表についてはポスターセッションで実施します。システム上企画シンポジウムの枠ではできないようなので、発表予定の方はお手数ですが立地分野での登録をお願いします。またオンラインで行うため、恒例の一分ポスター紹介は行わない予定です。ご了承ください。

S3.森林遺伝研究で明らかにするブナの生態・生理―樹木の生態遺伝学最前線―
Ecology and physiology of Japanese beech revealed by forest genetics:
the leading edge in ecological genetics for forest trees

コーディネータ:玉木一郎(岐阜県立森林文化アカデミー)、
長谷川陽一(森林総合研究所)、稲永路子(森林総合研究所)、木村恵(森林総合研究所)

国内の様々な樹木を対象に森林遺伝研究が行われており,研究成果の蓄積が進んでいる。次世代シーケンサーの登場により,データ取得が加速される昨今,蓄積された個々の成果をつなぎ合わせ,もっと大きな枠組みで森林のメカニズムの理解に迫ることができる段階にあるのではないだろうか。例えば,系統地理学的研究では数十樹種以上の結果が論文として報告されており,情報の普及と活用を目指し,研究成果をまとめた書籍も出版されている。複数種の結果をまとめて活用した例である。一方で一つの樹種について,生態・生理を遺伝学的手法を用いて深く追求できている樹種は今のところ限られている。 ブナは,日本の冷温帯の主要構成樹種の一つであり,九州から北海道にかけて広く分布している。日本海側では純林を形成し,太平洋側ではその他の高木性樹種と混交林を形成する。生態・生理に関する研究の蓄積が豊富なだけでなく,日本の森林遺伝学の黎明期から研究の対象とされており,現在でも多くの研究グループにより森林遺伝研究が進められている。  本シンポジウムは昨年度に計画されていたものをベースとし,それにさらに最新の知見を加えたものとなっている。ブナの幅広い研究事例を遺伝学的視点から概観することで,日本を代表する広葉樹であるブナの生態・生理について議論したい。また,ブナの例を通して,成果の蓄積と共有が今後,森林遺伝学の発展に与える影響について考える機会としたい。p>

S4.深層学習による森林画像の分析とその活用
Analysis and Application of Forest Image by Deep Learning

コーディネータ:矢田豊(石川県農林総合研究センター)、鷹尾元(森林総合研究所)

本セッションでは、令和2年版森林・林業白書のトピックスにも紹介された「スマート林業のフル活用」を推進していくための重要な技術分野である、UAVによる空撮画像や全天球画像等の森林画像の活用技術に注目したい。UAVによる空撮画像からSfM技術により生成される高解像度オルソ画像や、手持ち式の比較的安価な全天球カメラもしくはUAVによる全天球画像の取得により、従来にない情報の量と質を併せ持った森林画像が、比較的低コストで取り扱えるようになってきた。一方、画像等の解析対象から必要な特徴量を効率的に抽出するための手段として、深層学習等のAI技術が注目されてきており、森林・林業分野での応用についても期待されている。 本セッションでは、UAVによる空撮画像や全天球画像等の森林画像から深層学習技術等を用いて森林境界や森林資源に関する情報を抽出し、その情報を林業の実務現場で容易に活用できるシステム開発の成果を中心に紹介する。 そして上記成果を踏まえ、これらの技術を活用していく上での今後の課題や研究・普及の方向性について、議論を深めたい。

S5.森の根の生態学 -樹木根の成長と機能共同企画シンポジウム-
Root Ecology of Forest Trees

コーディネータ:平野恭弘(名古屋大学)、野口享太郎(森林総合研究所)、 大橋瑞江(兵庫県立大学)

樹木は、太い根を土壌中に広く良好に発達させることで根返りや表層土壌崩壊を防ぎ、細い根で養水分を吸収し様々な環境に適応しながら生存します。樹木の根に関する研究は、土壌中に生育し見えないことや研究対象として取り扱うことの難しさから、葉や幹など地上部研究に比べ立ち遅れてきました。近年、環境変動化における樹木の適応や森林の物質循環を駆動する役割などの視点から、樹木根の研究も急激に進展しつつあります。  本企画シンポでは、樹木根の成長と機能について、太い根から細い根、また根をとりまく生物や土壌環境などにも着目しながら、「森の根の生態学」としていくつかの総説的な講演をしていただく予定です。具体的には、樹木根の構造や成長の基礎的な仕組み、物質循環における樹木根の役割、温暖化や酸性化などの樹木根の反応、樹木根の持つ減災機能や生態系サービスなどについて、国内の知見を中心にこれまでの知見をまとめた講演となる予定です。これを機会に「樹木根の成長と機能」を体系的に理解し、持続可能な発展のための社会にどのように樹木根研究が貢献できるかも議論していきたいと思います。

S6.燃料革命以降の森林状況変化の理解と、それらが水・土砂・流木の流出に及ぼす影響をふまえた災害予測の可能性
Understanding the effects of the changes in forest conditions since the fuel revolution on water, sediment and woody debris transport, and for consideration of the disaster prediction based on those knowledges

コーディネータ:浅野友子(東京大学)、内田太郎(筑波大学)

現在、日本の山地は豊かに森林が生い茂り、過小利用による人工林の荒廃や、土砂流出量の減少が問題視されることさえある。森が主な燃料や肥料、建材の供給源であった100年前までは、里山は荒廃し、はげ山など荒廃した山地からの土砂流出が問題であった。当時は、毎年あるような降雨による表土の侵食速度は現在に比べて大きかった。つまり、森林の回復にともない、通常降雨による侵食速度が減少したことにより、斜面の表土層厚は年々増していると考えられる。この状況は言い換えると、斜面崩壊による土砂流出が生じない限り、山地流域内に土砂と立木をため込み続けているともいえる。このような状況下で記録的な豪雨があると、斜面は崩壊し、流域にたまっていた土砂と流木が流出することになる。この場合、一度の豪雨で流出する土砂と流木の量は、山地が荒廃していた時代よりも多くなる可能性がある。また、斜面崩壊を生じさせる降雨の規模も変化する可能性がある。要するに、現在、山地の多くは、森林の生育と表土の蓄積により、特に江戸時代以降では経験したことのない状態にあり、今後、気候変動によりさらに降雨が激甚化すると、災害の生じ方が従来とは異なってくる可能性がある。一方で、現在の災害対策技術は過去の災害の経験をもとにしている部分が多くあり、将来の災害を予防するためには、森林状況と表土層の歴史的な変化と現状を理解し、それらが水・土砂流出に及ぼす影響を考慮した上で将来を予測する必要がある。そこで本シンポジウムでは、日本の山地・森林の変遷について振り返り、過去からの時間の流れの中で現状を理解することに焦点を当てる。また、水・土砂・流木流出の実態理解の到達点を整理し、森林状況の変化をふまえた災害予測の可能性について議論する。

S7.生理部門企画シンポジウム「分析のツボ」と研究交流の促進
Physiology Section Symposium “Tips for tree growth analysis” and research exchange promotion

コーディネータ:則定真利子(東京大学)、田原恒(森林総合研究所)小島克己(東京大学)、斎藤秀之(北海道大学)、津山孝人(九州大学)

講演会「分析のツボ」と生理部門の研究交流を促進するプログラムとで構成する生理部門の企画シンポジウムを開催します。  生理部門では、部門キーワード(第132回日本森林学会大会のお知らせ(第2回)参照)にもありますように、個体から細胞・分子レベルまでの幅広いスケールの現象を対象に、多様な手法を用いて樹木の成長の仕組みを明らかにする研究に携わる方々の情報・意見交換の場となることを目指しています。従来の研究分野の枠組みにとらわれることなく、さまざまなスケール・手法で樹木の成長の仕組みの解明に携わる多くの皆様に、生理部門での口頭・ポスター発表にご参加頂くとともに、本シンポジウムにご参集頂きたいと考えております。  講演会では、樹木の成長のしくみをさまざまなアプローチで探っている研究者に、分析・解析手法のツボをご紹介いただきます。オンラインによる開催を活かして、手法のライブ/ビデオ紹介を講演に含めるなどの工夫をすることで、ワークショップ的な要素を含む講演会とします。講演者は、NanoSIMSによる元素イメージングを用いた木部形成過程の解明に取り組まれている、東京大学の竹内美由紀氏、年輪試料の安定同位体比分析から光合成産物や酸素・水素の分配様式の解明に取り組まれている、森林総合研究所の香川聡氏、樹木の水分通導性のストレス応答を組織内の水分布様式に着目して研究されている、森林総合研究所の矢崎健一氏の3名です。  本企画シンポジウムの一環として、大会の発表様式がより具体化した段階で、生理部門での研究発表に関連する研究交流を促進するしくみを設計します。ポスター発表の1分の音声付き紹介ファイルを事前に集めてシンポジウムのプログラムに含める、あるいはオンライン情報意見交換会を設けて、それを企画シンポジウムで案内する、などの形式が考えられますが、これらに拘ることなく、効果的なしくみを設けたいと考えています。

S8.土木分野における木材の利用促進に向けて
Towards the promotion of wood utilization in civil engineering

コーディネータ:玉井幸治(森林総合研究所)、桃原郁夫(森林総合研究所)

本格的な利用期を迎えた国内の森林資源を循環利用し、林業・木材産業を成長産業化することが強く求められている。そのためには林業の低コスト化に加え、材価を向上させる木材の需要拡大が必須となる。木材の需要拡大に向けた取組については、大型木造等に関する建築分野の取組及びその成果が広く普及するに至っているが、土木分野における取組やその成果については十分に知られていない状況にある。そこで今回、森林学会員と木材学会員を発表者とする企画シンポジウムを開催し、土木分野における木材需要拡大に資する最新の研究成果を紹介したい。

S9.スギの生育および雄花着花に影響を与える環境要因の解明とその評価―気候変動に適応した林木育種の可能性―
Elucidation and evaluation of environmental factors affecting growth and male strobili formation in Japanese cedar: Feasibility of breeding aiming at the adaptation to climate change

コーディネータ:三嶋賢太郎(森林総合研究所)、松下通也(森林総合研究所)、倉本哲嗣(森林総合研究所)、高橋誠(森林総合研究所)、渡辺敦史(九州大学)

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書において、地球温暖化は確実に進行し続けるとされている。将来の気候変動下において、森林・林業分野における人工林の生産性と健全性を維持するためには、短期的対応だけでなく、最も厳しい温室効果ガスの削減努力を行った場合においても想定される気候変動に対処するためにも中長期的な適応が必要となる。本企画シンポジウムでは、今後想定される気候変動適応を見据え、環境要因がスギの成長等の生育に与える影響の解明および評価手法の開発について、またそれらの知見を基に気候変動に適応したスギ育種の可能性といった一連のテーマについて複数の研究報告を行う。具体的には、全国に設定された試験地(検定林等)のミクロ環境情報とマクロな環境情報(メッシュ気候値データ)と成長データをGISに統合・解析した植栽木の環境応答性の定量化、気候変動による高温化および乾燥化を想定し、人工制御環境下において育成したスギ苗の環境応答性を定量化する新たな表現型評価手法の開発、気候変動による高温および乾燥下でのスギにおける遺伝子の発現動態や雄花着花量の変動等に関する最新の研究成果について報告を行っていただく。これらの研究発表を踏まえて、今後の環境変動に適応した林木育種の可能性について議論したい。

S10.森林教育研究のさらなる展開を目指して―森林、自然、木材を活用した教育活動の研究の可能性を探るー
For Seeking to Extend Forest Education Research Activities: Exploring the possibilities of research on educational activities that utilize forest, nature, and timber

コーディネータ:山田 亮(北海道教育大学)、東原貴志(上越教育大学)、井上真理子(森林総合研究所)

日本森林学会では、森林教育に関するセッションが第114回大会から設けられ、第129回大会から教育部門が設置された。近年では、地域の森林環境における体験活動の展開やプログラム開発など、教育に関する研究に、より一層の推進が期待されている。ただし、森林に関わる教育活動は、実践するフィールドの条件が多様で、活動内容も幅広く、数多く実践活動が行われている一方、研究の対象や方法の確立には至っておらず、未だ発展途上といえる。森林教育研究が、人を相手にする実践が基本となる教育活動を多角的に読み解き、森林科学の一部門としての発展を図るには、森林教育に関係する近接領域の研究者や教育活動の実践者がもつ視点から学び、研究方法の確立を目指さなくてはならない。 第129回大会では、森林教育に関わりが深い環境教育、野外教育、木材学や建築学の関係者とともに「森林教育研究のさらなる展開を目指して」と題した企画シンポジウムを開催し、森林教育研究の深化と拡がりの可能性を見いだすことができた。続く、第130回大会でも同様に、森林教育の近接分野の研究者が、教育実践活動から得られる効果について様々な視点で言及した。そして2020年2月に発刊された日本森林学会誌第102巻第1号において、「森林教育研究の展望」と題した特集に論文2編、短報2編が掲載され、画期的かつ先駆的な研究成果が発表された。いずれも森林教育の実践や研究の課題を整理しながら、近接領域で導入されている研究手法を用いて結果を導き出しており、その成果は森林教育研究の発展に寄与するものであるとともに、これまでの企画シンポジウムの成果といえよう。 そこで、これまでの流れを踏まえ、森林教育研究のさらなる展開を目指して、近接領域である林産教育や野外教育、環境教育の関係者からの研究や実践事例を集めたシンポジウムを企画した。森林科学の知見の普及に関心のある研究者や人材育成に関わる多くの学会員に参加いただき、ともに議論を行いながら、森林教育研究の可能性を追求していく機会としたい。

S11.水源涵養機能の科学的評価を考える
Toward scientific assessments of water securing function of forest

コーディネータ: 五味高志(東京農工大学)、堀田紀文(東京大学)

近年、人工林を中心として50年生以上の林分が半数以上を占めるなど森林資源が充実している状況である。かつて、ハゲ山であった山地からの森林の回復過程では森林の有無を中心とした水源涵養機能の評価で十分であったが、森林の管理や森林状態を考える必要がある「森林飽和」時代の水源涵養機能の評価においては、林相状態や管理までを考慮に入れた水源涵養機能の評価が必要である。一方で、森林の水源涵養機能を中心とした公益的機能は森林土壌に強く依存するものとしての認識もあり、森林状態や成長による林相の変化と森林の水源涵養機能との関係は十分に議論されていない。そこで、本企画シンポジウムでは、日本における水源涵養機能の評価について、現状と課題を網羅的に議論するととともに、今後の流域森林計画における水源涵養機能の評価の位置づけを検討するものである。