第131回日本森林学会大会/公募セッション一覧

公募セッションは、既存の部門ではカバーできない部門横断的なテーマについて会員の研究交流を継続的に進めることを目的としたセッションです。発表者は公募します。

T1 木質バイオマスの小規模エネルギー利用の現状と課題
Current status and challenge of small-scale utilization of woody biomass for energy

コーディネータ: 有賀一広(宇都宮大学)、久保山裕史(森林総合研究所)、佐藤政宗(森のエネルギー研究所)

平成24年7月に再生可能エネルギー固定価格買取制度FITが開始され,木質バイオマス発電,特に固定価格が高値に設定された未利用木材を燃料とする発電施設が,平成30年9月時点で,全国で112ヵ所新規認定され,すでに61ヵ所で稼動しています。未利用木材を燃料として利用することは,林業振興や山村の雇用創出などに貢献することが期待されていますが,一方で出力5,000kWで60,000t/年程度が必要とされる未利用木材を買取期間20年間,安定して調達できるかが懸念されています。

そこで、FIT制度では平成27年4月より小規模な発電施設を整備し、地産地消を推奨するため、出力2,000kW未満で40円/kWhの価格が設定されました。また、木質バイオマス発電施設の発電効率は25%前後と低く、設備・燃料コストが高いため、高い経済性を確保することは容易ではありません。一方、バイオマスエネルギー利用の先進地である欧州では、木質バイオマスエネルギーの実に82%が熱として利用されており、実際に発電事業者の65%が熱電併給を行い、熱も生産しています。

熱利用・熱電併給に当たっては、事業者自らが熱の需要先を開拓する必要があるとともに、熱の販売価格が固定されていないことなどから、導入に当たっては慎重な検討が必要となっています。このような中、農林水産省と経済産業省は平成29年7月に、報告書「『地域内エコシステム』の構築に向けて」を公表し、小規模熱利用・熱電併給の導入を促進しています。本公募セッションでは各地域で取組まれている木質バイオマスの小規模エネルギー利用についてご紹介いただき、小規模エネルギーの現状を整理するとともに、今後の課題に関して議論を深めたいと考えております。多数の皆様のお申込を心よりお待ち申し上げております。

T2 2020年からの森林放射能研究
Radioactivity studies in the contaminated forests after 2020

コーディネータ: 小松雅史(森林総合研究所)、大久保達弘(宇都宮大学)
ポスター発表の設置有り

この大会が行われる2020年3月には、福島第一原発事故からすでに9年が経過する。前年度の大会では、これまでの研究結果から森林の放射性セシウムは変化の小さい「準平衡状態」にあるのでは、という視点からセッションの討論を行ない、参加者からも準平衡状態を実感しているという意見を得た。放射性セシウムが森林で平衡状態にあるのであれば、これ以上調査・研究を行う必要はないのでは、という意見もあるだろう。しかし、緩やかな平衡状態になったことでさらに研究の必要性が増したと考えている。その理由の一つとして、変化が小さくなったとは言えチェルノブイリ原発事故後と同様に完全な平衡状態には達していないことが挙げられる。主要な汚染元素である放射性セシウム137の半減期が約30年と長く森林内に留まることから、長期的なスパンで見据えるのであればより高精度な予測が求められる。また一方で、より巨視的な観点から準平衡状態を捉えると、事故初期はサイト間・サイト内のヘテロな汚染によって生じるばらつきが解釈を難しくさせていたが、時間経過によってばらつきが小さくなり、生物種や環境による影響をより評価しやすい状況になったと言える。そのために様々な時空間スケールで森林内の放射性セシウムの挙動をより詳細に理解し、得られた成果をいまだ続いている森林および林産物の汚染問題の解決または緩和技術の開発、将来万が一同様の事故が起きてしまった場合に被害を最小限に止めるための指針、といったものに繋げていく必要がある。今後もさらなる森林放射能研究の発展が望まれることから、引き続き公募セッションを企画することとした。社会科学的観点も含めた幅広い分野・視点からの参加をお願いしたい。

T3 森林におけるシカ問題の解決に向けて
For eliminating the impact of deer on forestry and forest ecosystems

コーディネータ: 藤木大介(兵庫県立大学)、飯島勇人(森林総合研究所)、明石信廣(北海道立総合研究機構)、安藤正規(岐阜大学)、田村淳(神奈川県自然環境保全センター)
ポスター発表の設置有り

全国各地におけるシカの増加によって、森林では様々な影響が顕在化している。シカによる森林への影響を軽減するためには、シカの生息状況や森林への影響の把握方法、影響の程度を決定する要因の解明のみならず、科学的モニタリングや捕獲技術に支えらえた個体数管理手法の確立が必要とされる。また、これらの知見や技法を育林技術や林業経営、さらには森林に関する政策と統合するための多様な視点からの検討が必要である。

シカによる影響の蓄積によって、森林生態系に容易には回復させることのできない変化が生じることが明らかにされつつあり、他の生物や土壌などに及ぼす影響についても研究がすすんでいる。森林への影響が広域化し、これまでシカの少なかった地域でもシカ対策が求められるようになっているが、そこでは、すでに対策がすすんでいる他地域の事例が大いに参考となるだろう。一方、林業分野ではシカの生息下で適切に施業を進めていくための方策が求められており、更新施業の中でシカ捕獲を実施するなどの実験的取り組みなども実施されている。今後、人工林資源が成熟して再造林面積が増加することが予想される中、再造林地のシカによる更新阻害問題が深刻化する可能性がある。育林技術や林業経営の視点からのシカ対策に関する研究も大いに取り組まれる必要があるだろう。

本セッションは、6回目の開催となる。今年も、シカ問題に関心をもつ多様な分野の研究者の参加による活発な議論を行いたい。

T4 樹木根の成長と機能
Development and function of tree roots

コーディネータ: 平野恭弘(名古屋大学)、野口享太郎(森林総合研究所)、大橋瑞江(兵庫県立大学)
ポスター発表の設置有り

『樹木根の成長と機能』の公募セッションでは、樹木根をキーワードに太い根から細い根まで、生態系レベルから細胞レベルまで、根と関連した多岐にわたる研究を公募し、報告対象といたします。本公募セッションでは、樹木根だけでなく、様々な境界領域分野との融合を目指します。ご自身の研究内容に「根」に関する測定や「根」に関連する事象があれば、葉や材質特性など樹木地上部に関する研究、土壌微生物、土壌化学特性、土壌緊縛力など土壌に関する研究、温暖化や酸性化といった環境変動に関する研究など、根以外を主な対象とする発表も広く歓迎いたします。また、今後「根」を測定項目としたい会員向けに測定方法の共有も目的とします。発表形式は口頭発表またはポスター発表とします。

 発表当日は、趣旨説明の後、口頭発表していただき、適宜発表間に討論時間を設け、最後に総合討論の時間を設ける予定です。趣旨説明では根研究学会の開催する根研究集会の紹介、2020年6月に米国で開催予定の第8回国際樹木根会議の紹介など樹木根研究の国際および国内動向を森林学会員に広く情報提供します。総合討論では、樹木根と境界領域分野との研究者間ネットワーク作りを促進するための討論も行いたいと思います。

T5 森林環境の持つ保健休養機能の基礎的研究と応用研究
Basic and applied studies on forest amenities

コーディネータ:  上原巌(東京農業大学)
ポスター発表の設置有り

本セッションは第131回大会で16回目を迎え、森林科学研究の分野の中で、一般市民の需要と関心が高い分野の1つである。これまでの大会では、生理的および心理的なアプローチの基礎的研究をはじめ、臨床事例、研究手法、尺度開発、国内外の地域における事例研究などが発表されてきた。基礎的研究から、保健休養に供する森林環境の整備といったハードの課題、治療・保養プログラム作成等のソフトの課題、そして各臨床症例・事例研究や、保養地事例などに至るまで多岐にわたった内容になっていることが特徴である。そのため、森林・林業関係者だけでなく、医療、社会福祉、心理、教育など、多領域の専門家に参加していただきながらコラボレーションを行ってきたことが本セッションの特色であり、存続意義である。森林環境は、一般市民の日常的な健康増進はもとより、日常の各職場における保健衛生や、医療、福祉、教育などの社会における諸分野での可能性が大きい。本大会のセッションでは、そのような諸分野における視点から心身の保健休養に供する森林、樹木の利用、活用手法などの調査研究だけでなく、特に事例研究にも重点を置き、森林の持つ保健休養機能についての研究手法、アプローチ方法についても検討、考究することを目的とする。

T6 熱帯林研究
Tropical Forestry Research

コーディネータ:  TERAUCHI Daisuke 寺内大左(Toyo University東洋大学)、OTA Masahiko 大田真彦(Kyushu Institute of Technology 九州工業大学)、ONDA Nariaki 御田成顕(Kyushu University 九州大学)、FUJIWARA Takahiro 藤原敬大(Kyushu University 九州大学)

This session is designed to share knowledge, information, and experiences on tropical forestry research. To address issues and achieve better conservation and utilization of tropical forests, it is essential to have the following: (1) knowledge on interdisciplinary approaches, (2) dialogue based on accurate information, and (3) learning from past experiences of trial and error. We invite presentations from various research fields such as ecology (e.g. biodiversity, carbon stock), silviculture, socioeconomics (e.g. farm economy, community forestry), anthropology (e.g. local livelihood, culture), politics (e.g. national and international policy), and information science (e.g. remote sensing, GIS). We also welcome presentations by international students as well as young Japanese researchers. To carry out discussion among participants from different countries, English is official language for all presentations and following question and answer in this session. To facilitate lively discussion in this session, the speakers are encouraged to make your presentations understandable for the participants with different background and mother languages.