第129回日本森林学会大会/企画シンポジウム一覧

企画シンポジウムは,会員がコーディネータとなって企画する、森林学に関する明瞭で簡潔にまとまったテーマをもったシンポジウムです。

S1 下刈り省力化を睨んだ造林要素技術の展開
Development on the silvicultural elemental technique for the labor-saving weeding

コーディネータ: 宇都木玄(森林総合研究所)、八木橋勉(森林総合研究所)

国産材の利用拡大と齢級構成の平準化により主伐面積が増大する事を想定すると、造林から初期保育にかけて最も経費の高い下刈り作業の効率化が、低コスト再造林の重要な鍵となる。さらに下刈り作業は機械化による省力化の目処が立っておらず、作業の労働強度も非常に高い。このような下刈りの問題を解決するためには、下刈り回数の削減を目指す必要がある。また地域によって雑草木の種類が異なり、その技術的対応方法は地域や環境の特性を最も受けやすいと言える。

下刈り作業削減には、雑草木と苗木との競争関係を丁寧に観察して下刈り回数を減らす、一貫作業とコンテナ苗を利用して雑草木の進入より早くに植栽木を成長させる、機械による徹底した地拵えにより雑草の進入を抑制する、下刈りそのものの機械化を促進する、育種苗や大苗を用いて初期から雑草との競合関係を優位にする、除草剤を用いる、カバークロップを用いる等、立地条件や施業方法に応じてカスタマイズが可能であろう。

本シンポジウムでは、下刈り経費の削減を目指して、直接的に下刈り作業に関連した報告だけでは無く、下刈り回数削減に結びつくと考えられる造林個別要素技術研究を報告する。また多くの地域から様々なアプローチを紹介し、下刈り経費の削減・省力化に向けた、研究の方向性を共有することを目的とする。

S2 気候変動はマツ材線虫病の拡大に対してどのような影響を与えるか?
What kind of influence does the climate change have for expansion of the Pine Wilt disease?

コーディネータ: 渡辺敦史(九州大学)、福田健二(東京大学)

温暖化に代表される気候変動が森林に対し、様々な影響を与えることが懸念されている。その1つに病虫害の拡大があり、マツ材線虫病も温暖化に伴い、拡大する可能性が指摘されてきた。実際、マツ材線虫病の東北やこれまで被害が軽微であった高標高地域への被害拡大は、この指摘を裏付けるものと言える。本シンポジウムでは、野外環境とマツ材線虫病の関係性またはマツ材線虫病の病徴進展と温度との関係性等の研究成果から宿主寄生者間相互作用に環境要因、特に温度がどのように影響するのか、ここ数年に亘る研究成果を紹介する。さらに、全国から収集したマツノザイセンチュウを対象として、その拡大過程を分子遺伝学的アプローチによって明らかにするだけでなく、適応性に関する研究成果から温度要因が拡大と定着に与えた影響について考察する。今後の気候変動、特に温暖化に伴うマツ材線虫病の拡大に新たな視点を提供する可能性が高い最新の研究成果を報告することに加え、温暖化に代表される気候変動に対して松枯れ被害対策の一つであるマツノザイセンチュウ抵抗性育種の将来方向性を議論したいと考える。

S3 冬の森林生態学 —気候変動への示唆—
Winter Forest Ecology —Implications for climate change—

コーディネータ: 小林真(北海道大学)、上田実希(日本女子大学)

植物は冬季の低温や積雪などに適応するため、成長期とは異なる多様な挙動を示す。また、近年の研究から、冬季は植物にとって単に耐え忍ぶだけの期間ではなく、土壌からの養分獲得や光合成など、年間の活動量の無視できない割合を行っていることが分かってきた。しかし、成長期に比べて、冬季の植物の振る舞いや生態系プロセスに関する研究は圧倒的に少ない。さらに、進行中の気温上昇にともない、冬の気温、積雪量や雪解け時期の変化など冬の気候変化が報告されているが、未だその森林生態系への影響には不明な点が多く残されている。本シンポジウムでは、植物の越冬戦略に関する最新の基礎研究や、気候変動を巧みに模倣した実験的研究の成果などについて講演いただくとともに、植物生理学、森林生態学、土壌学など多様な視点から、今後の研究の方向性について議論したい。

S4 データベースは樹木根研究を加速させるか? —樹木根の成長と機能 企画シンポジウム—
Can the development of database accelerate the woody root research?

コーディネータ: 福澤加里部(北海道大学)、檀浦正子(京都大学)、大橋瑞江(兵庫県立大学)

近年、生態学をはじめさまざまな研究分野においてデータベース(DB)の整備が進んでいる。根の研究においても欧米などでこの流れに乗る動きがある。しかし、国内の樹木根や関連領域を扱う研究者にとって、DBへのデータの提供とそれらの利用に関する理解は必ずしも進んでいない。本シンポジウムでは、「そもそもDBとは何なのか?」という基本から始め、「DBを活用することでどのように研究が発展するのか?」、「基礎的なデータ取得に地道に取り組んでいる研究者にとってのメリットはあるのか?」など、多くの研究者がいだいていると思われる疑問について情報を共有し、樹木根研究データの提供と利用の可能性について議論をしたい。この中で、DBの構成要素であるメタデータや成果出版物であるデータペーパーについても触れる予定である。生態学分野でのDBの活用事例について、北海道大学の柴田英昭さんと京都大学の小野田雄介さんに紹介していただくとともに、根の研究におけるDBの活用についての課題と展望を信州大学の牧田直樹さんに講演していただく。そしてDBを活用することにより樹木根研究がどのように加速するのかについて皆で議論する。樹木根研究に直接関わっていない方々も含めて、DB活用など当テーマに関心を持つ多くの方々の参加を歓迎する。

S5 わが国における新たな国産材産地形成の実態とその意味について
The current state of new domestic lumber production system and its meanings

コーディネータ: 餅田治之(林業経済研究所)

今日のわが国における国産材の生産・流通のあり方は、かつて1980年代・90年代に「国産材産地」と言われた頃の生産・流通構造と比べると大きく変わってきている。本企画は、その変化の実相と意味を考察することを目的としている。

かつての国産材産地(旧産地)のイメージとしては、たとえばスギ材産地では岩手県気仙、宮城県津山、静岡県天竜、高知県嶺北、大分県日田、宮崎県耳川などの各地域が、ヒノキ産地としては岡山県勝山、高知県幡多・八幡浜、熊本県球磨地域などが浮かんでくる。これらの国産材産地は、中小規模製材工場が多数立地し、近隣の原木市売市場あるいは国有林の公売・随契に原木を依存する形で、それぞれの地域毎に成立していたのである。

しかし、これら旧産地は90年代の後半から縮小・衰退の一途をたどり、それと表裏をなす形で、2000年代に入る頃から、北海道東、南東北・北関東、南九州などにおいて、新たに大規模な国産材の生産・流通の構造が形成されてきた。これらの新産地は、旧産地が再編された形で形成されたものではなく、まったく新しいタイプの産地として構築されてきたものであった。その新国産材産地の特徴を一言で言えば、かつての産地よりもはるかに広域的な規模で、製材・集成材・合板・プレカット・木質バイオマス発電などが錯綜しつつ、かつ相互の競争の中で形成されてきたことであると言えるであろう。当然生産規模も大型化し、新たな流通・消費の仕組みを内包するものであった。

本企画は、今日日本国内に新たに形成されつつあるこうした国産材の生産・流通の仕組みが、何によってどのようにもたらされ、旧産地に対していかなる特徴と意味を持っているのかを明らかにしようとするものである。

S6 森林気象害のリスク管理 —森林保険創設80周年を迎えて—
Risk management for meteorological damages &mdsh; the 80th anniversary of the establishment of forest insurance

コーディネータ: 髙橋正義(森林総合研究所)、鈴木覚(森林総合研究所)、後藤義明(森林総合研究所)

林業は林木が成熟するまでに長年月かかるため、その間に強風、乾燥、降雪等の様々な気象条件を経験し、時に気象害が発生する。このような気象害は林業経営においてリスクとして認識されている。日本は、1937(昭和12)年に森林火災国営保険として創設された森林保険制度を有するなど、リスク管理に関して古くから関心を持つ国である。森林資源の変化とその要請に応じて様々に拡充された森林保険制度は、2017年で80年の節目の年を迎えた。

しかしながら、森林、林業におけるリスク管理は、リスクに応じた施業が十分ではないなど、いまだ発展途上にある。その原因は、気象害の発生頻度や被害の深刻さに関して、林分ごとのリスク評価が十分にはできていないためと考えられる。森林の造成、維持、管理を適切に行うなど林業経営を長期的に支え、同時に、森林に求められている国土保全に関する役割を十分に果たしていくためには、リスクを適切に評価し、リスクに対応した森林の造成・管理技術を開発する必要がある。さらに、森林保険制度もこうした技術的な発展を踏まえながら一層の拡充を図る必要がある。

そこで、風害、雪害、干害、林野火災等の気象害におけるリスク評価に関連する研究報告や、リスクに対応した施業技術、森林保険の歴史やその問題点などリスク管理における現状を紹介するとともに、今後の方向性を探る。

S7 林業遺産の保存と持続的な活用に向けて —日本森林学会の選定遺産の紹介—
Direction toward preservation and sustainable use of forestry heritage — Introduction of the heritage selected by the Japanese Forest Society

コーディネータ: 佐藤宣子(九州大学)、柴崎茂光(国立歴史民俗博物館)、竹本太郎(東京農工大学)、深町加津枝(京都大学)、櫻井倫(宮崎大学)

近年、近代化産業遺産や日本遺産といった制度が誕生し、これに呼応する形で、産業遺産に対する世間の関心も高まりをみせています。日本森林学会も2013年度から「林業遺産」選定制度を開始し、2016年度までに計23件が選定されました。

しかし現実をみると、多くの林業遺産は、適切に保存されないまま年々風化が進むという問題を抱えています。林学の世界においても、過去の技術や遺構の適切な保存・活用に関する研究は、必ずしも十分行われてきませんでした。

本シンポジウムでは、「林業遺産を保存しつつ、長期的な視点から林業教育や地域づくりにつなげるための方策」を皆さんと一緒に 考えたいと思います。日本森林学会が選定した林業遺産を紹介しながら、応募にいたる経緯や遺産活用の状況、林業遺産を保存するための課題などについて議論します。

S8 生理部門企画シンポジウム「金属元素-輸送・集積・無毒化」とポスター1分紹介
Physiology Section Symposium “Metal elements in trees — transportation, accumulation and detoxification” and poster introduction

コーディネータ: 則定真利子(東京大学)、田原恒(森林総合研究所)、小島克己(東京大学)、斎藤秀之(北海道大学)、津山孝人(九州大学)

講演会「金属元素-輸送・集積・無毒化」と生理部門のポスター発表の1分紹介からなる生理部門の企画シンポジウムを催します。

生理部門では樹木の成長の仕組みを明らかにする研究に携わる方々の情報・意見交換の場となることを目指します。個体から細胞・分子レベルまでの幅広いスケールの現象を対象とした多様な手法によるアプローチを対象として、以下のキーワードを掲げています:樹木生理、個体生理、生態生理、水分生理、栄養成長、生殖成長、物質輸送、栄養、環境応答、ストレス耐性、光合成、呼吸、代謝、細胞小器官、細胞壁、植物ホルモン、組織培養、形質転換、遺伝子発現、ゲノム解析、エピゲノム解析、オミクス解析。従来の研究分野の枠組みにとらわれることなく、さまざまなスケール・手法で樹木の成長の仕組みの解明に携わる多くの皆様に生理部門での口頭・ポスター発表にご参加頂くとともに本シンポジウムにご参集頂きたいと考えております。

講演会では、樹木における金属元素の動態をテーマとして、大会開催地の高知大学でイネを材料にマンガンやカドミウムの輸送機構や耐性機構などの研究に携わっておられる上野大勢氏に植物におけるマンガン輸送機構についての研究成果をご披露頂きます。また名古屋大学の富岡利恵氏からの樹木の重金属集積機構についての研究成果披露と森林総合研究所の田原恒氏からのアルミニウムの細胞内無毒化機構についての研究成果披露とを予定しています。研究上の苦労や工夫なども交えながらの3講演を通して、樹木以外の植物種で得られている知見にも触れながら樹木の金属元素動態に関する情報・議論を交わして理解を深める場となることを期待しています。

1分紹介では、生理部門でポスター発表をされる方に発表内容を1分間でご紹介頂きます。研究発表の申し込みの締め切り後に、生理部門でのポスター発表を申し込まれた方々に1分紹介への参加を呼びかける予定です。

S9 里山林の前史としての「草山」を考える
“KUSAYAMA” as prehistory of Satoyama woodlands

コーディネータ: 大住克博(鳥取大学)、横川昌史(大阪市立自然史博物館)

里山林は、本州以南の日本列島では最も身近な二次的生態系である。里山林が古くから緑肥や薪炭の利用に伴う人為攪乱により維持され、その生態系は人と密接に関わってきたことや、その歴史の中で特徴的な生物相が形成されてきたことは、近年の多くの研究により明らかにされてきた。それらの知見の中で注目すべきことに、近世の里山では、森林ではなく草山が卓越していたことが挙げられる。農地生産力の維持を草山でとれる緑肥に大きく頼っていたために、農村の周囲には、薪炭林の5~10倍程度の草山が必要であったと推計されている。このことと現在の里山がほぼ森林に覆われていることを考えあわせると、現在の里山林には、人為攪乱により天然林から二次林化したものばかりではなく、近世以降、草山からシフトすることで成立したものも多く含まれている可能性が高い。しかしながら、里山林の前史としての草山の存在は、今までの里山林生態系についての議論の中に、十分に反映されてきたとはいえない。

本シンポジウムでは、まず、近世から現代にかけての里山利用の変遷を文書資料などにより追跡することで、里山での森林と草山の動的な変化について検討する。また、草山から里山林に移行する中での植物相の変化について、樹木種の生態から見た草山の森林化のメカニズムと、草本種からみた草山の森林化に伴う衰退メカニズムの双方から概観し、その生態的なプロセスを議論したい。

S10 森林教育研究のさらなる展開を目指して—教育学、実践現場との関わりを通じて
For seeking to extend forest education research activities: associating with various pedagogists and specialists of forest administration

コーディネータ: 井上真理子(森林総合研究所)、東原貴志(上越教育大学)、大石康彦(森林総合研究所)

森林・林業分野では、「森林環境教育」の提唱(1999年)や「木育」の提唱(2004年)など、教育活動が推進されている。日本森林学会大会での森林教育に関するセッション(企画シンポジウム)は、2003年(第114回大会)から設けられ、研究発表が継続して行われてきている。本年からは、新たに教育部門が設置されることとなった。森林教育の研究史をひも解くと、古く1925年の林學會雑誌に農林学校の林学に関する論文が掲載されており、取り組みの歴史は長く、森林学での教育研究は、これから更なる推進が期待される。ただし、森林に関わる教育活動は、森林や林業の専門教育、子ども達や一般の人を対象に森林や林業への理解を広める活動などを含んでおり、幅広い。活動内容をみても、森林や自然の観察活動、林業や木工作業、ハイキングや登山などの森林レクリエーション活動など、多様な要素が含まれている。内容の幅が広い森林教育について、森林学会の部門として研究を深めてゆくには、様々な視野からのアプローチが必要といえるであろう。

そこで、教育の部門化を契機に森林教育研究のさらなる発展を目指して、学際的に研究を推進してゆくために、森林に関わりが深いさまざまな教育学の研究者や行政や教育活動の実践者などと教育研究の情報を共有するシンポジウムを企画した。本シンポジウムには、環境教育、理科教育、林産教育や木育、野外教育、森のようちえん活動、森林・林業行政等の関係者にご登壇頂く予定である。森林教育の研究者に限らず、森林学の知見を広く普及することに関心のある各分野の研究者や、森林・林業分野の人材育成に関わる方など多くの学会員にご参加頂き、活発な議論を行いながら、森林教育研究の可能性を追求してゆきたいと考えている。

S11 津波被災海岸林の再生に向けた取り組み:人工造成基盤上への森林造成の状況
Recent studies for afforestation of coastal forests damaged by the mega-tsunami: Current state of the replanting trees on the berms constructed as a growth medium of coastal forests

コーディネータ: 小野賢二(森林総合研究所)、野口宏典(森林総合研究所)

東日本大震災で発生した津波により一部の海岸林は壊滅的被害を受けた。この一因に地下水位が高い場所では根が地中深くまで発達していなかったことがある。このことから、被災した海岸林の再生においては植栽木根系の健全な成長が担保されるよう、生育基盤として盛土が行われている。しかし、盛土は造成時の重機の走行等による締固めによって、土壌が硬くなり、排水性も低くなることが報告され、これらが盛土の目的である「根系の健全な成長」を妨げている事例が生じている。現在、東北地方太平洋沿岸で進められている盛土を伴う海岸林造成のように、非常に広大且つ分厚い有効土層を有した生育基盤を造成した上での森林造成は、東日本大震災以前にはほとんど行われていなかった。従来の森林造成は「適地適木」が原則だったためである。そのため、樹木の生育基盤としての造成土上への森林造成法に関する知見は、公園造成や都市緑化などの小面積で有効土層が浅い「緑化工」分野に限定されている。本シンポジウムでは、現在進められている被災海岸林再生現場において造成された生育基盤としての盛土土壌の現状を紹介し、土壌硬度や排水不良などの土壌物理性と植栽木根系発達の問題を取り上げて議論を深めたい。さらに、東日本大震災以前から低湿地対策としての盛土造成を伴う海岸林造成を行ってきた千葉県有海岸防災林や、埋め立て地における公園緑化を進めてきた東京都海の森公園予定地(2020年東京オリンピック会場)における事例も紹介し、今般の海岸林再生事業に役立てるべき情報について整理する。さらに、海岸林の再生にあたっては広葉樹の利用も求められ、実際に植栽されているので、そうした現場の実態と課題を整理し、海岸林での広葉樹類の活用のあり方を議論する予定である。

S12 薬剤使用の制約を見越して松くい虫被害対策を考える
To cope with pine wilt disease under limited use of chemical agents

コーディネータ: 中村克典(森林総合研究所)

日本の松くい虫防除技術は駆除と予防(予防散布、樹幹注入、抵抗性育種)をセットに成り立っていたが、農薬使用を忌避する風潮の下、とくに予防散布の実施に強い制約がかかるようになり、結果として松くい虫被害の拡大に十分に対処できない例が増えている。このような条件下での今後の松くい虫対策では、予防散布が担っていた外部から飛来、侵入する媒介昆虫へのバリアの効果を一部でも代替できる手法を開発・導入するとともに、予防散布以外の技術についても高度化を図っていく必要があるだろう。これを実現するために、今、具体的に考えられる手立ては何か?

本企画シンポジウムでは薬剤使用への制約が強まる中での松くい虫被害対策の強化に向け、(1)伐倒駆除の高度化に資する未普及の技術に関する有効性の検証、ならびに被害材の燃料利用の普及に向けた生産-流通システムの検討、(2)予防伐採、樹種転換の促進に向けたアカマツの新規用途としてのCLT製造技術の開発、(3)既被害地、未被害地、アカマツ林業地といった場面ごとに求められる抵抗性マツ生産・利用技術の高度化、のそれぞれの観点からすすめられてきた研究の現状を紹介する。その上で、これらの技術を組み込んだこれからの松くい虫防除戦略ないしマツ林管理のあり方について議論を深めたい。

S13 日本の伝統的な漆塗を支える国産漆の増産
High urushi lacquer production for keeping traditional urushi painting in Japan

コーディネータ: 田端雅進(森林総合研究所)、小谷二郎(石川県林業試験場)

ウルシの樹脂(漆液)は、9000年前の縄文時代から漆器等に使われ、日本人に広く親しまれている。漆は国宝・重要文化財の修復など伝統文化の維持に貢献してきたが、昨今伝統文化を支える国産漆の供給が危機的状況にある。現在日本で使用される漆の約97%を中国産が占め、国産漆は残り3%程度しか生産されていない。全国産漆の4割が平成19年からの日光の文化財修復で使用され始めたことによる深刻な漆の供給不足が起こっていることから、安定的な需給体制を確立する必要性が高まっている。そのため、漆の生産性や品質の向上が強く求められている。このような背景の中で平成22年度新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業の研究プロジェクトを行い、第123・124回森林学会テーマ別シンポジウムではウルシ林の管理技術や病気の被害防除技術について報告し、情報共有した。今回のシンポジウムでは漆増産に関連する樹脂生産量と樹皮組織の関連性、樹脂流出機構、樹脂生産の簡易判別、傷害応答に関わる遺伝子、萌芽木の成長に与える密度調整の影響等の研究成果を紹介し、今後の国産漆増産について参加者と議論し、情報共有を図りたい。

S14 環境変化にともなう森林の生産性と分布の予測
Forest productivity and distribution under changing environment

コーディネータ: 渡辺誠(東京農工大学)

産業革命以降、化石燃料の消費拡大に代表される人間活動によって、森林を取り巻く環境は劇的に変化している。特に降水量の変化などの気候変動、大気CO2濃度の増加、窒素や硫黄といった酸性物質の沈着量の増加・減少、オゾンやPM2.5などの大気汚染物質が森林生態系に与える影響は世界的に懸念されている。これらの人為起源の環境変化は、土壌の養分・水分の利用性や病虫害に対する抵抗性といった様々なプロセスの複雑な変化を通じて森林の生産性や分布に影響を与える。一方で、そのフィードバック作用として、森林からの養分・水分および揮発性有機化合物などの放出特性が変化する。数十年の長い年月が必要とされる木材の生産、環境資源としての森林の持続的利用、そして流域レベルでの物質循環の将来予測を行う上で、これら人為起源の環境変化と森林・樹木における相互作用の理解は避けて通ることができない重要な課題である。本シンポジウムは樹木生理生態学を中心として、大気を中心とした環境のモニタリング、操作実験およびフィールド調査、さらに森林や樹木への影響の数値モデルを用いた評価、というように分野横断的な発表により構成される。これらの様々な分野における最新の知見を持ち寄り、日本をはじめとしたアジア地域の森林に対する大気環境の変化の影響と将来の展望を議論する。特に異なる分野間の異なるスケールで得られた知見を、双方からどのように捉えるのかについての議論を深める機会としたい。

S15 森林の種間交雑の実態にせまる
Get to the picture of hybridization in forest

コーディネータ: 玉木一郎(岐阜県立森林文化アカデミー)、津田吉晃(筑波大学)

森林で研究をしている人であれば、これまでにフィールドで「これは雑種ではないか?」という形態を示す生物を目にした経験があるのではないだろうか。そのような直感は概ね正しく、操作実験や遺伝マーカーにより確かめることができるが、雑種形成過程の実態はそう単純ではないことも多い。一方で雑種と思われる個体を遺伝マーカーで調べてみると、雑種でないということもある。祖先多型なども考慮する必要があるが、最近の種間に着目した遺伝構造研究の多くは、種分化後に種間で遺伝的交流が存在した可能性が高いことを報告している。つまり、現在の種内の遺伝的構造には、過去の種間交雑が多かれ少なかれ影響を及ぼしている可能性があるということである。具体例としては、我々人類のゲノムにも、過去のネアンデルタール人やデニソワ人との種間交雑の痕跡が残っていることが知られている。種間交雑の時間的スケールには、現在進行形のものから、最終氷期やさらに昔に生じていたものまでと幅がある。また、交雑帯が生じている空間的スケールも、流域レベルから、大陸レベルまでと幅広い。どのような生物的・非生物的要因の下で種間交雑が生じている/生じていたのかを明らかにすることは、対象種の過去や将来を予測し、森林資源の管理・保全や育種に役立てる上で重要である。本シンポジウムでは、樹木を中心に、時間的・空間的スケールが異なる種間交雑の最新研究を紹介する。そして、これら雑種形成動態をどのように森林科学の研究現場だけなく、森林リクリエーションなど森と社会との繋がりの場に応用するか、参加者とともに議論を行いたい。