第128回日本森林学会大会/企画シンポジウム一覧

企画シンポジウムは,森林学に関する明瞭で簡潔にまとまったテーマをもったシンポジウムです。発表者は公募せずコーディネータが決定します。

S1 “森林・林業分野の人材育成”と教育研究機関の役割-新しい林学を求めて
The role of educational research institutions in human resource development for forest and forestry – toward a new dimension of forestry science

コーディネータ:田村典江(総合地球環境学研究所)、井上真理子(森林総合研究所)

趣旨:「森林・林業再生プラン」(2009年)および「森林・林業基本計画」(2011,2016年)では,人材育成が重点のひとつとされ,注目されている。林野庁はフォレスター・プランナー・現場技能者の3つの人材が相互に連携する像を取りまとめ,各人材の職務内容とそれに対応する技術知識の体系を整理し,各種の研修や資格を整備することで体系的な人材の育成を図るものとした。

林野庁が主導する人材育成の取り組みの中で,大学等の教育研究機関との関わりは,個々の教員(研究者)が有識者として研修の企画運営委員やテキスト執筆,講師などを担うにとどまった。他方,大学等の教育研究機関が自らの役割として,社会人再教育を担う事例も各地にみられ,鹿児島大学,北海道大学,岩手大学,島根大学では,文科省事業「成長分野等における中核的専門人材養成の戦略的推進」(平成25–27年度)を利用して教育プログラムの開発を試行し,大学の社会人教育について検討を行い,今年度も継続している。

また2012年の京都府立林業大学校の開校を皮切りに,全国各地で林業大学校の設立が相次いでいる。林業大学校の設立は就業前の人材育成を図るものであるが,大学教育を対象とする日本技術者教育認定機構(JABEE)の「森林及び森林関連分野」の技術者教育プログラム認定もまた,就業前教育を担うものである。

多様な背景と主体による取り組みがある中で,教育研究機関が相互にどう連携して人材育成を行うべきかについての検討が必要である。また,現状の”林業人材育成ブーム”は林野庁が主導した部分が大きいが,森林や林業に対する社会的な要請は多様化しており,林業技術者・技能者として期待される人材像や,学術研究と教育や普及のあるべき姿などについても,広く議論する必要がある。本シンポジウムでは,現状の各教育機関の取組状況を確認しつつ,よりよい人材育成に向けた議論を行う。

S2 残されたマツ林をどのようにして守るか
How can we protect the surviving pine forests from pine wilt disease?

コーディネータ:二井一禎(京都大学)、竹内祐子(京都大学)

趣旨:マツ枯れは日本各地のアカマツ林,クロマツ林を壊滅させながら今や本州最北端の青森県にまで侵入した。流行病防除の要諦はその水際における徹底した対策に尽きるが,森や林で何本かのマツが枯死した段階(=水際)ではなかなか発見が難しく被害木は放置されがちであったのであろう。やがて被害が激害化の様相を見せ,誰の目にも事態の深刻さが認識されるようになる頃には,少々の予算処置では被害の沈静化にいたらず,結局様々な理由をつけて防除は打ち切られる。そのようにして日本のマツ類は見捨てられ,マツ林は消滅してきた。しかし,日本各地には今も必死にマツ林を維持しようと努力する行政が存在する。また,ゴルフ場や社寺,庭園のマツ類,あるいは景観上の理由で欠かすことのできない重要なマツ林が存在し,大きな経費を覚悟の上で防除を続けている行政や団体が存在する。このように,現在も限られた防除予算という桎梏の中,予算を投下すべき森林を選択し,集中的に防除しようという方針がある。また,一方で様々な防除法を効果的に組み合わせてマツ林を守ろうという考えもある。このシンポジウムでは,これらいくつかの新しい防除戦略に取り組んでいる方々にその戦略について説明をいただき,現行の防除法の問題点を検討し,新しい防除法についてその可能性を議論する。

S3 収穫期を迎えた人工林における資源循環利用と水土保全との両立
Balancing between the soil and water conservation and the cyclic use of bioresources in manmade forests in ready for harvest

コーディネータ:玉井幸治(森林総合研究所)、鶴田健二(京都大学)、谷誠(人間環境大学)

趣旨:日本の人工林は収穫期を迎え,2016年5月改定された森林林業基本計画でも,「資源の循環利用」が重視されている。しかし,持続的に人工林を利用するためには,解決すべきさまざまな学術的な課題が存在する。これまで,過密人工林の間伐は,下草生育を促進して地表面流やそれによる土壌侵食を抑制するとされ,環境面でのプラス影響が強調されてきた。これに対して,皆伐後は,蒸発散の低下による洪水流出量増大,あるいは,根系腐朽による表層崩壊の発生頻度の増加など,むしろ環境面でのマイナス影響がこれまでの研究で指摘され,水土保全上の負荷への対策を考えなければならない。さらに,人工林の循環利用には,人工林施業の担い手不足,シカ食害などがかかわるので,災害防止の面のみならず,林政,造林,保護にまたがる森林科学全体の深刻な問題と認識する必要がある。

そこで,直面する人工林の循環利用の観点から森林の水土保全機能評価を見直してみると,研究成果の蓄積が十分ではないことに気づく。もちろん,この研究分野においては,長期水文試験による森林伐採の水量水質への影響,樹木根系の崩壊防止機能などについて,多くの知見が得られてきた。しかし,皆伐を前提とする林業を持続的に展開するために必要な水土保全技術,皆伐を行う場所と行わない場所をゾーニングするための水土保全機能評価技術の開発までには至っていない。そのため,これまでの研究知見をレビューし,今後取り組むべき研究方向性を見いだすことが求められる。また,この研究推進には,森林科学全体,ひいては林業現場との連携が不可欠であることは言うまでもない。

本企画シンポジウムでは,成熟して収穫期を迎えた人工林が増加している背景のもと,木材生産と環境保全の両立を見据えて,水土保全の側面だけでなく,他分野と連携して包括的に適正な森林の整備・保全のあり方を検討することを目標とする。

S4 森林保全遺伝学のこれまでとこれから
Forest conservation genetics: research in the past and future

コーディネータ:戸丸信弘(名古屋大学)、津村義彦(筑波大学)、井鷺裕司(京都大学)、陶山佳久(東北大学)

趣旨:地球上の生物多様性は,様々な人間活動の直接的・間接的影響により急速に減少していることはすでによく知られている事実である。より深刻なケースでは,多くの種や集団がすでに絶滅,あるいは絶滅の危機に瀕している。このような状況は森林生態系を構成する生物においても例外ではない。保全遺伝学は保全生物学の重要な一分野であり,特に種や集団の絶滅に影響する遺伝的要因を明らかにし,絶滅のリスクを最小化する遺伝的管理を考える学問である。これまでの森林保全遺伝学の研究では,絶滅危惧種や希少種を保全するために,種や集団の遺伝的多様性,集団間の遺伝的分化,集団内の遺伝的構造,近親交配,近交弱勢,送受粉・種子散布,実生繁殖やクローン繁殖による更新プロセス,さらには外来種との交雑・遺伝子浸透など多くの情報を明らかにしてきた。また,普通種なども対象として,それらの保全単位を決定するために種内の集団遺伝構造なども明らかにしてきた。これらの研究成果は,遺伝マーカーを用いた分子生態学的解析手法の目覚ましい発展によるものである。さらに近年では,次世代シークエンサー(NGS:Next Generation Sequencer)の登場により,桁違いの分子データを比較的容易に取得することが可能となり,保全遺伝学の研究も全く新しい局面を迎えている。そこで本シンポジウムでは,森林保全遺伝学のこれまでの研究成果を俯瞰しつつ,最新の研究成果を発表していただき,今後の研究にどのように新しい研究手法を取り入れていくのかなど,将来の森林保全遺伝学研究の課題と展望について,参加者とともに議論したい。

S5 生理部門特別セッション-樹木の成長と環境:講演会とポスター1分紹介
Special session of the Physiology Section “Tree Growth and Responses to Environmental Factors”

コーディネータ:則定真利子(東京大学)、小島克己(東京大学)、斎藤秀之(北海道大学)、津山孝人(九州大学)

趣旨:講演会と生理部門のポスター発表の1分紹介からなる生理部門の特別セッションを企画します。

生理部門では樹木の成長の仕組みを明らかにする研究に携わっておられる方々の情報・意見交換の場となることを目指します。キーワードとして以下の21語を掲げています:樹木生理,個体生理,生態生理,水分生理,光合成,呼吸,栄養成長,生殖成長,環境応答,ストレス応答,代謝,栄養,物質輸送,植物ホルモン,細胞内小器官,細胞壁,組織培養,形質転換,遺伝子発現,ゲノム科学,オミクス解析。個体から細胞・分子レベルまでの幅広いスケールの現象を対象とした多様な手法によるアプローチを含んでおりますので,これまでの研究分野の枠組みにとらわれることなく,さまざまなスケール・手法で樹木の成長の仕組みの解明に携わっておられる多くの皆様に生理部門での口頭・ポスター発表にご参加頂くとともに本シンポジウムにご参集を頂きたいと考えております。

講演会では,樹木の環境ストレス応答の分野で長年にわたって活躍され鳥取大学農学部を退職された山本福壽氏に樹木のストレスとエチレンの生理作用について,植物の二次代謝産物の代謝機構について研究されているマルティン・ルター大学ハレ・ヴィッテンベルクのCarsten Milkowski氏に植物の加水分解性タンニンの代謝について,生物的ストレスに対する樹木の防御機構について研究されている東京大学の楠本大氏にシグナル物質によるヒノキ師部防御反応の制御についてお話し頂く予定です。

1分紹介では,生理部門でポスター発表をされる方に発表内容を1分間でご紹介頂きます。大会での発表申し込みの締め切りの後に,生理部門でのポスター発表に発表申し込みをされた方々に1分紹介への参加を呼びかける予定です。

S6 環境に適応する根系の形態と機能 —樹木根の成長と機能 企画シンポジウム—
Root morphology and function under different environmental condition —Symposium in development and function of tree roots—

コーディネータ:平野恭弘(名古屋大学)、野口享太郎(森林総合研究所)、大橋瑞江(兵庫県立大学)

趣旨:本企画シンポジウムでは【根系の形態とその機能】に焦点をあてます。根系の形態や構造はどのように決定されるのか? また根系形態や構造は土壌物理性化学性にどのくらい影響するのか? 根形態の違いはどのような機能の違いをもたらすのか? などの視点から,根系形態と構造を種特性や取り巻く環境条件とともに議論していきたいと思います。

今回は,東海大学農学部 阿部淳先生に【栽培環境に適した植物根の形態-作物根系の事例から-】と題し,養水分が乏しい荒廃地や湿害が起きやすい水田転換畑でも栽培が可能なバイオマス作物の根など例に,根の垂直分布や不定根形成の話題を提供していただく予定です。また兵庫県立農林水産技術総合センター 山瀬敬太郎氏に【樹木の根系構造と引き抜き抵抗力】と題し,スギやクロマツなどの根の引き抜き試験の事例から,根系の形態構造の違いが土壌と根が形成する土壌緊縛力に与える影響について,ご講演いただきます。

当日は,それぞれ30分程度話題提供していただき,質疑の後,作物の根と樹木の根を比較しながら環境への適応する根形態とその機能について総合討論を行います。

S7 森林管理者としての大学演習林~森林の教育・社会貢献活動の意義を考える~
University forests as forest manager: considering about the meaning of educational and social activities in forests

コーディネータ:齋藤暖生(東京大学)、當山啓介(東京大学)、石橋整司(東京大学)

趣旨:1990年代以降,「持続可能な開発」,「地球環境の保全」というキーワードが社会全体に拡がっていく中で,都市の周囲に拡がる「森林」に対する意識が高まり,環境教育の場として期待されるようになった。昨年度の企画シンポジウムにおいて,大学演習林を管理する立場から「実現可能」かつ「効果的」な森林の教育・社会貢献活動のあり方について実際の大学演習林の取り組みを元にあらためて議論を行った。その結果,人員・予算が縮小の一途をたどるなか安全管理面では厳格な対応を要求されているなど,利用者を受け入れる際の負担が増えている実態と,その状況下でも大学外教育・社会貢献活動に取り組もうとする大学演習林の姿が明らかになった。そこで,昨年に続き,大学演習林が今後担うべき社会的任務とは何なのか,大学演習林にとって必要な「持続可能な教育・社会貢献活動の姿」について考えたい。今回は,特に森林管理者としての大学演習林にとって森林の大学外教育・社会貢献利用を行うことの意義を掘り下げ,何をめざして社会からの希望に応えていくべきなのか,という点を中心に議論を深めたい。

S8 熊本地震による森林・林業被害と今後の課題
Damages on forests by the 2016 Kumamoto Earthquake

コーディネータ:森貞和仁(森林総合研究所)、大丸裕武(森林総合研究所)

趣旨:熊本県熊本地方で2016年4月14日夜と16日未明に最大震度7の地震が相次いで発生した。また,16日以降,熊本県阿蘇地方および大分県西部・中部地方にかけても地震が相次ぎ,これら一連の地震活動は「平成28年(2016年)熊本地震」と名付けられた(以降,熊本地震)。熊本地震により,熊本県を中心とした地域で建築物の損壊や土砂崩れが数多く発生し,地震による直接の犠牲者は50人にのぼった。

この熊本地震は広範な地域で森林・林業にも大きな打撃を与えた。林野庁のまとめによると,林業関係の被害は鹿児島を除く九州6県から報告があり,山腹崩壊(433カ所)や林道被害(1686カ所)のほか,流出した土砂等による立木への被害,木材加工施設やきのこ栽培施設の破損等など,林業関係の被害額は総額395億円(2016.7.13現在)に達している。

広範囲にわたる森林被害状況の把握は,労力の点や林道被害による現場へのアクセス障害などから現地調査だけではカバーできない。そのため,森林被害調査には現地調査に加えてヘリコプターを用いた上空からの目視調査が行われた。さらに,森林内の地表面の亀裂等は上空からの目視調査でも把握が困難であることから,航空レーザー計測などによる詳細な微地形情報等の把握及び解析等が行われた。

本シンポジウムでは,これらの様々な調査結果および現場からの森林・林業関連施設の復旧の取り組み等の発表を行い,地震による森林・林業被害の実態と今後の課題に関して情報交換と議論を行うことを目的とする。

S9 森林動態研究:到達点・応用・展望
Researches of forest dynamics: Present issues, applications, and perspectives

コーディネータ:長池卓男(山梨県森林総合研究所)

趣旨:「どのような研究分野を専門にしようとも,森林学者には,森林と人間社会の仲立ちをする者としての自覚が求められる(「教養としての森林学」)」ならば,森林学における基礎研究的位置付けにある分野は,どのような議論を今後進めていけばよいのだろうか?

森林は,樹木という長寿命の生命体を主とした集合であり,木材生産機能を発揮するにしろ,公益的機能を発揮するにしろ,長期的かつ総合的な視点をもった研究が必要であることは言うまでもない。天然林では,その維持機構の解明のために長期動態研究の必要性が高まり,各地で森林動態研究が始まった。森林生態系としての維持機構の解明が,資源管理,天然更新施業,生態系サービス供給などのための基礎として今後どのように活用されるだろうか。人工林では,資源管理の観点から収穫試験地などで成長量等に関する長期データが収集されてきた。これらのデータを成長,競争関係等の基礎研究的視点から資源管理へ応用していくには今後どのような展開があるだろうか。

気候変動が顕在化し,木材自給率の向上が求められる中,「森林と人間社会の仲立ち」を俯瞰した際,森林動態研究は,現在どこまで解明し,何がわかっていないのだろうか? また,今後どのような視点が求められ,何に活かせるのだろうか? このような視点のもと,落葉広葉樹林と人工林での研究事例を議論の端緒とし,会場の参加者と双方向で議論する場としたい。

S10 大気環境変化にともなう森林の生産性と分布の予測
Forest productivity and vegetation under changing atmospheric environment

コーディネータ:渡辺 誠(東京農工大学)

趣旨:産業革命以降,化石燃料の消費拡大に代表される人間活動によって,森林を取り巻く環境は劇的に変化している。特に大気CO2濃度の増加やそれに伴う気候変動,窒素や硫黄といった酸性物質の沈着量の増加,PM2.5を始めとした微粒子,そして大気汚染物質である対流圏のオゾンが森林生態系に与える影響は世界的に懸念されている。数十年の長い年月が必要とされる木材の生産,環境資源としての森林の持続的利用,そして流域レベルでの物質循環の将来予測を行う上で,大気環境の変化に対して森林やその主要構成種である樹木がどのように応答するのかを明らかにする必要がある。本シンポジウムでは樹木生理生態学を基礎として,大気環境に関するモニタリング,実験的研究およびフィールド調査,さらには数理モデルを用いた森林や樹木への影響評価に関する研究,というように分野横断的に最新の知見を持ち寄り,日本をはじめとしたアジア地域の森林に対する大気環境の変化の影響と将来の展望を議論する。特に異なる分野間の異なるスケールで得られた知見を,双方からどのように捉えるのかについての議論を深める機会としたい。