企画シンポジウム(第138回大会)
企画シンポジウムは、会員がコーディネータとなって企画する森林学に関する明瞭で簡潔にまとまったテーマをもったシンポジウムです。
- S1. 森林の多面的機能のモデリングと地域に根差した展開に向けて
From modeling to practice: toward place-based management of forest ecosystem services - S2. 琉球国を支えた杣山の再発見とその仕立法
The Rediscovery of Somayama: Traditional Forests Managed by the Ryukyu Kingdom - S3. 遮断蒸発のメカニズムを考える
Considering the mechanism of rainfall interception - S4. 森林と木材がつなぐ炭素循環―持続可能な森林経営から木材利用まで―
Connecting Forests and Wood through the Carbon Cycle: From Sustainable Forest Management to Wood Utilization - S5. 生理部門企画シンポジウム「過酷な環境を華麗に生き抜くマングローブ」とポスター紹介
Tree Physiology Division Symposium “Mangroves Gracefully Surviving in Harsh Environments” and poster introduction - S6. 総合学としての林学史:帝国林業の展開から
History of Forestry as Forest Arts and Sciences: Tracing the Trajectory of Imperial Forestry - S7. ブルーカーボン生態系をめぐる森林科学と社会林業の最前線:マングローブ林から考える自然を活用した気候変動の緩和・適応
Frontiers in Forest Science and Social Forestry for Blue Carbon Ecosystems: Nature-Based Climate Change Mitigation and Adaptation through Mangrove Forests - S8. 「緑の社会資本」のこれまでとこれから:林野公共事業のあり方を問う
The Past and Future of “Green Social Capital”: Examining the Role of Forestry Public Works - S9. 科学知・実践知・地域知をつなぐ日本フォレスター協会(仮称)の役割
The Role of the Japan Forester Association (Tentative Name) in Connecting Scientific, Practical, and Local Knowledge - S10. ウルシの起源とその栽培利用の最新動向
Current Perspectives on the Origin, Cultivation, and Utilization of the Lacquer Tree (Toxicodendron vernicifluum) - S11. FIT制度におけるバイオマス発電燃料としての輸入木質バイオマスの現状と課題
Current Status and Challenges of Imported Woody Biomass as Fuel for Biomass Power Generation under the FIT Scheme
S1. 森林の多面的機能のモデリングと地域に根差した展開に向けて
From modeling to practice: toward place-based management of forest ecosystem services
略称
森林の多面的機能
コーディネータ
山浦悠一(森林総合研究所)
立川真悟(もりとみず基金)
山田祐亮(名古屋大学大学院生命農学研究科)
趣旨
森林には木材生産のみならず、生物多様性保全、水源涵養、土砂災害防止、炭素固定、景観形成など、多様な機能が備わっている。近年、人工林の高齢化に伴う主伐・再造林の拡大が進む一方で、気候変動に伴う自然災害の激甚化や森林環境税の導入を背景として、これらの多面的機能の維持・増進に対する社会的要請は一層高まっている。しかし、森林管理の現場では、木材生産と公益的機能との間にトレードオフが生じることもあり、それぞれの地域において森林から得られる便益をどのように最大化していくかが重要な課題となっている。
本シンポジウムでは、森林総合研究所の交付金プロジェクト「林業収益と公益的機能のトレードオフ関係の全国解析」および環境研究総合推進費「生物多様性と社会経済的要因の統合評価モデルの構築と社会適用に関する研究」(S-21)で得られた成果を踏まえ、森林の多面的機能を評価するモデルの利活用と、その地域展開の可能性について議論する。双方のプロジェクトを通じて、森林の多面的機能を広域的に評価可能なモデルを整備するとともに、住民の意識調査やシナリオ分析を通じて、森林の管理方策が地域にもたらす影響の可視化に取り組んだ。また、自治体や森林管理の実務者との意見交換を通じて、モデルの社会実装に向けた課題の整理も進めてきた。
シンポジウムでは、森林・林業政策の動向、統合モデルやシナリオ分析の展開、住民が期待する森林の価値、地域における森林管理の実践事例を紹介する。さらに、研究者、行政担当者、地域実践者がそれぞれの立場から、モデルが地域の意思決定や合意形成にどのように貢献できるのか、多様な主体が森林の将来像を共有するために何が必要かを議論したい。森林の多面的機能の評価を研究成果として終わらせるのではなく、地域に根差した森林管理や広域的な森林計画へとつなげていくための展望を参加者とともに考える機会としたい。
発表予定者(予定)
山浦悠一(森林総合研究所)、和田卓己(林野庁計画課)、山田祐亮(名古屋大学)、芳賀智宏(東京大学)、垂水亜紀(森林総合研究所)、鈴木保志(高知大学)、立川真悟(もりとみず基金)、高橋康夫(IGES)
コメンテーター:調整中
S2. 琉球国を支えた杣山の再発見とその仕立法
The Rediscovery of Somayama: Traditional Forests Managed by the Ryukyu Kingdom
略称
杣山の発見と仕立
コーディネータ
阿部隼人(九州大学大学院農学研究院)
趣旨
かつて琉球国は、限られた島嶼の森林資源を「杣山」として王府の管理下に置き、資源保護と住民利用を両立させる独自の施行体系によって、木材の保護育成を図ってきたとされる。しかし、そのほとんどが破壊され、杣山的環境やその施業の実態を調査した資料は非常に乏しい。このため、かつての沖縄の森林施業の姿は、殆ど明らかになっていない。2021年、沖縄市域(旧・越来間切大工廻)で良好に残る杣山が発見された。本シンポジウムでは、この杣山と周辺を対象とした学際調査の参加者5名よる調査結果について発表する。まず、杣山を生物文化遺産/林業遺産として位置付ける。続いて、杣山の発見に至った経緯、並びに発見された杣山の概況を報告する。さらに、植物調査の結果に基づく杣山の植生環境と、それを維持する森林環境について、当時の施行体系から考察する。一次資料に当たる機会が減るなか、開発を免れて残された杣山は、琉球国の森林政策と植物利用を今に伝える貴重な現地資料である。本企画は、その再発見と仕立法の解明を通じて、生物文化遺産/林業遺産としての森林の価値を問い直す。
発表予定者
当山昌直(沖縄大学地域研究所)
刀禰浩一(沖縄市立郷土博物館)
藤彰矩(北谷町立博物館)
佐藤寛之(沖縄市文化財審議委員)
岡美治(沖縄風水アカデミー)
S3. 遮断蒸発のメカニズムを考える
Considering the mechanism of rainfall interception
略称
遮断蒸発を考える
コーディネータ
村上茂樹(森林総合研究所九州支所)
南光一樹(東京農工大学)
趣旨
森林に降った雨の約20%は林床に到達することなく蒸発し、大気に戻ることが知られています。この蒸発現象を遮断蒸発といいます(樹冠遮断、または遮断損失とも呼ばれます)。林床に浸透する雨水は遮断蒸発によって減少することから、森林の存在そのものが洪水緩和や土砂災害の軽減に寄与していると考えられます。しかし、遮断蒸発のメカニズムは解明されておらず、林況との関係もほとんど分かっていません。
遮断蒸発は、一般に降雨量の増加に伴って増加し、強い降雨時にも大きな値を示すことが報告されています。その要因は、樹冠で生じる雨滴飛沫、あるいは葉・枝・幹の表面に付着・貯留した雨水の蒸発であるとする研究があります。さらに、樹皮や枝などへの一時的な吸収・貯留、樹冠通過雨や樹幹流としての排水、降雨中および降雨後の気象条件など、複数の過程が相互に関係していると考えられます。樹冠通過雨は、樹冠構造や枝葉の配置、樹幹からの距離などによって著しく空間的に不均質となるため、雨量計の数、配置、観測期間によって推定値が異なる可能性があります。樹幹流や樹体の貯留量の測定にも不確実性があり、遮断蒸発量は一般に降雨量、樹冠通過雨量、樹幹流量の水収支差として求められるため、各測定誤差の影響を受けます。このような計測条件の違いが、研究間で異なる結果が得られる一因になっている可能性があります。
このように、遮断蒸発については蒸発のメカニズム自体、及び立木密度や樹種などの林況との関係について、未知の部分が多いのが実情です。そこで本企画シンポジウムでは、遮断蒸発そのものの直接測定・解析に加えて、モデル解析による遮断蒸発と洪水時の河川流量の関係を検討する研究、森林の伐採・植栽・成長と河川流量変化の解析から遮断蒸発の影響を評価する研究を踏まえながら、遮断蒸発研究における矛盾点や未知の項目について議論を深め、その解決に向けた方向性を探ります。
発表予定者
飯田真一(森林総合研究所)
篠原慶規(宮崎大学)
田中延亮(東京大学)
南光一樹(東京農工大学)
村上茂樹(森林総合研究所九州支所)
S4. 森林と木材がつなぐ炭素循環―持続可能な森林経営から木材利用まで―
Connecting Forests and Wood through the Carbon Cycle: From Sustainable Forest Management to Wood Utilization
略称
森林木材炭素循環
コーディネータ
尾張敏章(東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林北海道演習林)
中村健太郎(住友林業株式会社森林・緑化研究センター)
趣旨
森林は大気中の二酸化炭素を固定する重要な炭素吸収源であり、森林から生産された木材は、建築物をはじめとする様々な用途に利用されることで、その炭素を製品中に長期間貯留できる。こうした森林と木材の機能を持続的に発揮するためには、森林を適切に更新・管理しながら木材を有効に利用する持続的な資源循環の構築が重要である。この循環は、気候変動緩和、生物多様性の保全、資源循環型社会の形成など、多面的な価値の創出にもつながる。
近年、森林炭素吸収量の評価、森林施業・森林計画・森林資源管理、森林由来J-クレジット、木材製品への炭素貯留(Harvested Wood Products: HWP)、ライフサイクル評価(LCA)などに関する研究や評価手法が進展し、森林から木材利用までを一体的な炭素循環システムとして捉える重要性が高まっている。一方で、森林施業・森林経営、木材利用、建築、ライフサイクル評価などは、それぞれ独立した学問分野として発展してきたため、森林と木材が果たす役割を共通の視点から議論する機会は必ずしも多くない。
本シンポジウムでは、森林施業・森林計画、木材製品への炭素貯留(HWP)、木材利用・木造建築、ライフサイクル評価を専門とする研究者が最新の研究成果を紹介する。森林から木材利用までの炭素循環を、持続可能な森林経営、木材製品への炭素貯留、木材利用、ライフサイクル評価という一連の視点から俯瞰的に議論し、森林と木材を一体的に捉えた持続可能な森林経営と木材利用の方向性を考える。
発表予定者
鈴木智之(北海道大学北方生物圏フィールド研究センター)
山本一清(名古屋大学大学院生命農学研究科森林・環境資源科学専攻)
加用千裕(東京農工大学グローバルイノベーション研究院)
山﨑真理子(名古屋大学大学院生命農学研究科森林・環境資源科学専攻)
菊池康紀・兼松祐一郎※・尾下優子※(東京大学未来ビジョン研究センター)
(※共同発表者)
S5. 生理部門企画シンポジウム「過酷な環境を華麗に生き抜くマングローブ」とポスター紹介
Tree Physiology Division Symposium “Mangroves Gracefully Surviving in Harsh Environments” and poster introduction
略称
生理部門シンポ
コーディネータ
田原恒(森林総合研究所)
渡辺信(琉球大学)
東若菜(神戸大学)
斎藤秀之(北海道大学)
津山孝人(九州大学)
則定真利子(東京大学)
趣旨
講演会「過酷な環境を華麗に生き抜くマングローブ」と生理部門のポスター発表の1分紹介で構成する生理部門の企画シンポジウムを開催します。
生理部門では、個体から細胞・分子レベルまでの幅広いスケールの現象を対象に、多様な手法を用いて樹木の成長の仕組みを明らかにする研究に携わる方々の情報・意見交換の場となることを目指しています。従来の研究分野の枠組みにとらわれることなく、さまざまなスケール・手法で樹木の成長の仕組みの解明に携わる多くの皆様に、生理部門での口頭・ポスター発表にご参加いただくとともに、本シンポジウムにご参集いただきたいと考えております。
講演会では、沖縄に分布するマングローブを対象に研究をされているお三方にご講演いただきます。マングローブ樹種は、高塩分濃度や低酸素など厳しい環境条件を生き抜いており、植物のストレス耐性機構を理解する上で大変興味深い植物です。琉球大学の渡辺信さんには、マングローブが特異な環境下で森林を成立させる生理・生態的背景について概説していただくとともに、環境変動下におけるマングローブ林の現状と今後の課題についてご講演いただきます。沖縄科学技術大学院大学の佐瀬英俊さんには、ゲノムやエピゲノム解析によって明らかにしたストレス下のマングローブの遺伝子制御についてご紹介いただきます。琉球大学の屋宏典さんには、マングローブをはじめとした熱帯樹木におけるストレス耐性脂質(テルペノイド、イソプレン)についてご紹介いただきます。本講演会を通して、マングローブやそのストレス耐性機構、新たな手法などへの理解が深まることを期待しています。
講演会に引き続き、生理部門でのポスター発表者に1分間で内容を紹介いただく予定です。
生理部門のFacebook(森林学会_生理部門/Tree_Physiology_JFS)やX(@TreePhysiol_JFS)などで関連情報を随時お知らせいたします。
S6. 総合学としての林学史:帝国林業の展開から
History of Forestry as Forest Arts and Sciences: Tracing the Trajectory of Imperial Forestry
略称
帝国林業の展開
コーディネータ
竹本太郎(東京農工大学大学院農学研究院)
平野悠一郎(国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所多摩森林科学園)
趣旨
日本森林学会の学問的基盤である「森林科学」は、東アジアにおいては19世紀後半から20世紀前半にかけて、総合学・現場主義を軸に体系化された「林学」を直接的に受け継いできた。第137回日本森林学会大会の企画シンポジウム「総合学としての林学史」では、造林技術、水土保全、本草学・植物学、森林利用学、造園史といった林学のルーツについてそれぞれの専門家から報告をいただいた。林学は、自然生態的・社会的・歴史的背景の異なる地域において、各種の価値や期待を実現するため、経験主義・現場主義を必然的に有することになったといえるだろう。
もちろん日本国内おいても自然生態的・社会的・歴史的背景は異なるが、台湾や朝鮮、樺太、満洲、南洋諸島といった植民地における森林を管理したときに、林学は、より一層の経験主義・現場主義を必要としたのではなかろうか。2023年に出版された中島弘二編『帝国日本と森林』(勁草書房)では「帝国林業」に注目し、各植民地における経験主義・現場主義の実態に迫った。この研究チームはその後も研究を続け、帝国林業に携わったフォレスターや、そうした人材の育成・移動、ポスト帝国林業、大英帝国との比較など、帝国林業の展開を明らかにしてきている。
そこで、本企画シンポジウムではこの研究チームによる直近の成果を共有するとともに、帝国林業の展開のなかに「総合学としての林学史」の形成過程を見出すことを目的とする。近年、周辺分野や国際交渉の場でも人間社会における森林の重要性に関心が集まる。様々な学問分野を横断した長期持続的な資源管理や調査研究が、「林学」という枠に体系化されたプロセスへの着目は、「持続可能な社会構築」や「多様性の中での共存」という課題の解決に向けて、科学史・技術史的な論拠を提示する。以上の観点から、林学の源流や分岐を探ることで、森林科学の意義や可能性を改めて見出していく。
発表者には、米家泰作(京都大学)、中島弘二(金沢大学)、水野祥子(駒沢大学)、竹本太郎(東京農工大学)を、コメンテーターには、山本伸幸(森林総研)、平野悠一郎(森林総研)を予定している。
S7. ブルーカーボン生態系をめぐる森林科学と社会林業の最前線:マングローブ林から考える自然を活用した気候変動の緩和・適応
Frontiers in Forest Science and Social Forestry for Blue Carbon Ecosystems: Nature-Based Climate Change Mitigation and Adaptation through Mangrove Forests
略称
マングローブ林BC
コーディネータ
香坂玲(東京大学)
小野賢二( 国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所)
趣旨
近年、気候変動の緩和・適応、生物多様性保全、地域レジリエンスの向上を同時に図る自然を活用した解決策として、マングローブ林、藻場、干潟などのブルーカーボン生態系への関心が高まっている。なかでもマングローブ林は、炭素の固定・貯留に加え、沿岸域の防災・減災、生物多様性の保全、漁業・観光・地域文化の維持にも寄与することから、森林科学、沿岸生態学、社会科学、国際協力を横断する重要な研究対象である。その保全・再生を評価し、地域社会で実装するためには、地上部・地下部バイオマス、土壌炭素、水文・植生動態、リモートセンシング、遺伝的多様性に加え、住民による資源利用・管理、企業投資、政策・制度、ガバナンスを含む多層的な視点が求められる。
本企画シンポジウムでは、沖縄開催という地域的特性を踏まえ、マングローブ林を中心とするブルーカーボン生態系を、森林科学と社会林業の双方から捉え直す。細根分解と泥炭堆積、水文・植生動態モデルによる種分布の再現といった自然科学的研究に加え、インドネシアにおける企業主導型ランドスケープ・アプローチ、ブルー/グリーンカーボン投資の信頼性、ガバナンス形態と保全成果、社会林業に対する関係主体の認識、ベトナムの森林環境サービス支払い制度における住民参加、マングローブツーリズムを通じた環境学習を取り上げる。自然科学から社会科学、企業実践、政策・制度に至る知見を接続し、マングローブ林から考える自然を活用した気候変動の緩和・適応と、その地域社会における実装の方向性を議論する。尚、国際誌の特集号での成果の発信を29年に予定している。
発表予定者
小野賢二(国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所)
中村隆志(東京科学大学)
矢納早紀子(住友林業株式会社)
香坂玲(東京大学)
古賀瑞(東京大学大学院)
Rizky Arif Nugroho(東京大学大学院)
Elisabeth Sianturi(東京大学大学院)
Le Thi Thu Ha(東京大学大学院)
Yining Wang(東京大学大学院)
諏訪錬平(国立研究開発法人国際農林水産業研究センター)
Jay Mar D. Quevedo(シンガポール国立大学アジア研究所)
S8. 「緑の社会資本」のこれまでとこれから:林野公共事業のあり方を問う
The Past and Future of “Green Social Capital”: Examining the Role of Forestry Public Works
略称
林野公共のあり方
コーディネータ
佐藤宣子(九州大学大学院農学研究院)
趣旨
国土が急峻で災害が多発する列島にある日本は、森林が「治山・治水」の役割を果たしていることを古くから重視し、森林を造成してきた。森林が安全・安心な生活に資する「緑の社会資本」として広く認識されているといえる。
明治期の過剰伐採に対して保安林制度による伐採規制を行い、戦後は拡大造林によって1千万haの人工林を造成し、その後は主に間伐施業によって森林の水土保全機能を高めてきた。近年では、気候変動の影響とみられる豪雨による洪水や土砂災害が激甚化しており、「流域治水」対策への対応が森林に求められている。一方で、森林は木材生産の場でもあるが、80年代以降、木材利用は低位な状況が続き、「過少利用」が問題とされてきた。しかし、2010年代後半からそうした状況は大きく変化し、人工林の「主伐・再造林」が推進され、木材自給率も43%まで回復している。主伐(ほぼ皆伐)が進められる中で、再造林率が3割程度であり、再造林率を高める方策が盛んに議論されている。この議論で欠けているのは、伐採のあり方についてである。
主伐時代とは、どう伐採し、どう更新・育成するのか、それを通じて次の世代へ向けてどのような「緑の社会資本」を作り上げるかが問われる時代だともいえる。全国一律に拡大造林を進めた反省を踏まえると、地域に応じて考える必要があり、行政的には158の地域森林計画(流域計画)別に見る必要がある。さらに、社会資本のあり方を考える上では、林野庁予算の約2/3を占める林野公共事業費(治山、造林、林道、災害復旧)の現状を踏まえた議論が求められる。
本企画シンポジウムは昨年度に続いて第2回目であり、今回は林野公共事業費の実態、特に造林事業の要件となっている森林経営計画、市町村レベルでの地方行政と財政の実態等について成果を共有し、今後の「緑の社会資本」に関する活発な議論ができることを期待している。
発表予定者
佐藤宣子(九州大学大学院農学研究院)
石崎涼子(森林総合研究所)
佐藤忠道(九州大学大学院農学研究院)
吉村哲彦(島根大学生物資源科学部)
山本美穂(宇都宮大学農学部)
沼尾波子(東洋大学国際学部)
嶋田暁文(九州大学大学院法学研究院)
S9. 科学知・実践知・地域知をつなぐ日本フォレスター協会(仮称)の役割
The Role of the Japan Forester Association (Tentative Name) in Connecting Scientific, Practical, and Local Knowledge
略称
知とフォレスター
コーディネータ
小森胤樹(フォレスターズ(株))
趣旨
第137回日本森林学会大会の企画シンポジウムS5では、日本型フォレスターに求められる役割と、その役割を担う森林総合監理士の現状及び今後の方向性について議論した。この議論を踏まえ、2026年12月には、森林管理を担う専門家の職能団体として「日本フォレスター協会(仮称)」を設立する予定である。
本シンポジウムでは、第137回大会での議論をさらに発展させ、日本フォレスター協会(仮称)が、森林科学の研究成果と森林管理の実務をつなぐために、どのような役割を担うべきかを検討する。
持続的な森林管理には、研究を通じて形成される「科学知」、実践を通じて蓄積される「実践知」、地域の自然条件、歴史、文化及び暮らしに根差した「地域知」を組み合わせる必要がある。しかし、これらを相互に結び付ける仕組みは十分とはいえず、研究成果が現場で活用されない一方、現場の課題が研究者に共有されず、研究課題の形成につながらない場合もある。フォレスターには、科学知を地域の条件に応じて読み解き、実践知や地域知と組み合わせて森林管理や政策形成へ結び付けるとともに、現場の知見や課題を研究へつなぐ役割が求められる。
日本森林学会には多様な科学知が集積しているが、地域の森林管理を担う実務者が必要な知見を求め、研究者と継続的に交流する機会は必ずしも十分ではない。また、両者の間には、情報へのアクセス、用語、評価尺度、時間軸などの違いもある。
そこで本シンポジウムでは、実務者が必要とする科学的知見とその提供方法、研究成果を現場で利用可能な情報へ変換する仕組み、現場の課題を研究課題へ結び付ける方法を議論する。さらに、協会が担うべき研究成果・実践事例の収集、整理及び共有、フォレスターの教育・研修、並びに日本森林学会との継続的な連携の在り方を検討し、科学知・実践知・地域知を循環させる具体的な仕組みを明らかにしたい。
S10. ウルシの起源とその栽培利用の最新動向
Current Perspectives on the Origin, Cultivation, and Utilization of the Lacquer Tree (Toxicodendron vernicifluum)
略称
起源栽培利用
コーディネータ
田端雅進(九州大学)
渡辺敦史(九州大学)
趣旨
日本のウルシは、後期旧石器時代に大陸から何らかの方法で渡来したとするのが定説となっているが、十分な証拠は見つかっていない。一方、ウルシの幹に傷を付けて採取される漆は、7000年前の縄文時代から漆器等に使われ、日本人に広く親しまれている。漆は国宝や重要文化財の修復など伝統文化の維持に貢献してきたが、昨今、伝統文化を支える国産漆の供給が危機的状況にある。現在、日本で使用される漆の約90%を中国産が占め、国産漆は残り10%程度しか生産されていない。これに対し、文化庁は2015年2月、国宝や重要文化財の保存修理事業において、下地を含め原則として国産漆を使用する方針を通達している。この方針の実現に必要な国産漆は、年平均約2.2トンと試算されており、漆の持続的生産と良質なウルシ資源の確保は喫緊の課題となっている。このような背景の中で科研費等の研究プロジェクトを行い、第123・124・129回森林学会テーマ別シンポジウムではウルシ林の管理技術や病気の被害防除技術について報告し、情報共有した。今回のシンポジウムでは、ウルシの起源とその栽培利用の最新動向について参加者と議論し、情報共有を図りたい。
(発表者氏名、所属)
谷川東子、名古屋大学
影山凜、九州大学
渡辺敦史、九州大学
田端雅進、九州大学
菅裕、県立広島大学
S11. FIT制度におけるバイオマス発電燃料としての輸入木質バイオマスの現状と課題
Current Status and Challenges of Imported Woody Biomass as Fuel for Biomass Power Generation under the FIT Scheme
略称
輸入バイオ課題
コーディネータ
久保山裕史(森林総合研究所東北支所)
泊みゆき(バイオマス産業社会ネットワーク)
有賀一広(宇都宮大学農学部)
寺岡行雄(鹿児島大学農学部)
趣旨
2012年7月に再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)が施行されて以降、木質ペレット等の輸入が激増しています。2025年末には、FIT(FIP)制度において輸入バイオマスを主な燃料とする一般木質バイオマスの区分の稼働設備の発電容量の合計は488万kWに及んでいます。2025年の木質ペレットの輸入量は864万トン、油ヤシ殻(PKS)と合わせた輸入総額は4,000億円に迫っています。木質ペレットは、ベトナム、カナダ、米国、マレーシア、インドネシアなどから輸入されていますが、そのなかには原生林や絶滅危惧種が生息する保護価値の高い森林を皆伐した木材を原料とするものも含まれています。経済産業省や林野庁は、ガイドラインの整備など輸入バイオマスの持続可能性を担保する取り組みを進めていますが、国や地域ごとに異なる状況に充分に対応しきれていないのが実情です。
こうした現状を踏まえ、本企画シンポジュウムでは、「FIT制度におけるバイオマス発電燃料としての輸入木質バイオマスの現状と課題」について、現地の状況に詳しい研究者の方から、バイオマスの供給実態とその課題に関する報告をしていただき、参加者の皆さんと今後の輸入バイオマス供給のあり方について議論を深めてまいりたいと考えております。