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日本学術会議幹事会声明 「新型コロナウイルス感染症対策の検討について」

日本学術会議幹事会声明

「新型コロナウイルス感染症対策の検討について」

昨年来、世界は1年以上にわたって新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大に苦しんでおり、現在もその制御に成功していません。日本では、昨年末からの再度の感染拡大に対して、一部地域への2回目の緊急事態宣言が発出され、新型インフルエンザ等対策特別措置法等の一部を改正する法律が国会で成立しました。法律の成立に際し、国会では附帯決議がなされ、慎重な法の運用が求められています。この機会に、日本学術会議幹事会は、より長期的な視野で新型コロナウイルス感染症対策が適切に講じられることを期待し、以下の見解を表明いたします。

まず、昨年来の新型コロナウイルス感染症拡大により、お亡くなりになった方々ならびにご家族の方々に心より哀悼の意を表したいと思います。また、現在も闘病中のみなさま、感染拡大に伴いさまざまな困難に直面しているすべてのみなさまに、衷心よりお見舞い申し上げます。
医療関係者、感染症対策に携わる行政関係者や各種支援活動を行っている方々、営業自粛などの制約に応じている方々、市民生活の基盤を支える職に従事する方々の献身的な取り組みに対して深甚なる感謝を表明いたします。

新型コロナウイルス感染症への対策は、「本来なら死なずに済む人が亡くなる」という事態を防ぎ、「誰一人取り残さない」という社会的包摂の理念のもとに展開されるべきだと考え、その実現のための基本的な考え方を以下に記すことにします。

【科学の知見】

新型コロナウイルスに関する科学には不確実性が伴うことを踏まえつつ、現時点での科学の知見を最大限尊重して対策を検討すること
現在、各種新型コロナウイルスワクチンの感染・重症化予防効果に期待が集まっており、その接種のための体制構築が急務となっています。ワクチン接種が今後の感染症対策の重要な柱であることは論を俟ちません。その一方で、新薬では常に課題となる予期せざる副反応にも備え、その効果や副反応について科学的な検証を続けていく必要があります。また、治療薬の開発や回復後の後遺症、ウイルス変異などの解明も途上にあることなど、今後もさらなる研究が必要なことは多く、現時点の見解には一定の不確実性が伴っています。したがって、感染症対策を講ずる際には、科学研究の進展に伴う柔軟な見直しと修正を行えるようにすべきだと考えます。
また、法改正を受けてこれから実施される感染症対策が、人々の行動変容を引き出し、感染症の抑止に十分な効果を持つかどうかについても科学的な検討を行い、必要に応じて見直しを行うことが重要です。

【大事な価値】

我々の社会が大事にしている人権や民主主義、自由、寛容などの価値の尊重を原則とし、新型コロナウイルス感染症対策のために一時的にこれらの価値の尊重に制限を加えざるを得ないとしても可能な限り抑制的なものにとどめ、大事な価値の尊重という原則が毀損されないような手立てを講じること
感染症対策のための制度構築は、本来、平常時に科学的知見を踏まえて慎重に検討されるべきものですが、新型コロナウイルス感染症の拡大という「緊急事態」の状況下、時間制約のもとでの検討とならざるをえません。その際、日本医学会連合をはじめとした学協会等が指摘している通り、今回改正された感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律が日本の感染症への過去の対応の反省に基づき制定されたこと、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律においても「非自発的入院」に関して厳格な人権配慮がなされていることに十分留意し、患者の人権を最大限尊重しつつ今後の感染症対策が運用されることを期待します。
もとより疾病自体は懲罰の対象ではありません。感染症対策のために一時的に人権や自由などの価値の尊重に制限を加えざるを得ない場合には、その対策がもたらす医学的効果、対策の必要性や衡平性を慎重に考慮し、その制限を可能な限り抑制的なものにとどめ、これらの大事な価値の尊重という原則が毀損されないような手立てを講じることが求められると考えます。また、そうした措置が人々の離間や分断につながることのないよう、慎重な配慮が求められます。

【信頼とコミュニケーション】

新型コロナウイルス感染症対策が効果を生むには、広く社会の中で相互の信頼が醸成されることが不可欠であり、そのために、人々にそれらの対策を立案した際の根拠、対策のもたらす医学的効果および社会・経済的影響の見積もりと不確実性などについて、具体的かつ丁寧に説明すること
新型コロナウイルス感染症対策の検討と実施にあたっては、人々の懸念を正確に把握することが重要です。現状では、入院待機者の急増などから、医療資源の適正配分への不安が広がっています。この状況において対策の優先順位を明らかにし、その根拠や理由を明確に説明することが必要です。
また、日常生活の制限や経済活動への影響からメンタルヘルスに問題を抱える人々が増えており、幅広くメンタルヘルスへの対応策と広報の充実を図ることが必要です。今後の対策の柱となるワクチン接種体制の構築においても、医療現場の実情と人々の不安を踏まえ、接種機会が遍く人々に提供されるようにし、接種後の不安に対するケアを提供することが必要です。
なお、ワクチン接種の機会は国内のみならず世界全体で公平に提供されるべきであり、その実現のための努力を惜しむべきではないことを付言します。このことは、感染症への効果的な対応という点にとどまらず、「誰一人取り残さない」という国際社会が合意した持続可能な開発目標(SDGs)の理念の追求という観点からも重要です。
また上述の通り、新型コロナウイルス感染症対策が科学的不確実性を免れ得ないことから、すべての対策が必ずしも確実に効果をあげる保証はないことも併せて丁寧に説明すべきです。
他方、感染者に対する偏見差別や風評被害も生まれていることに鑑み、その解消に向けた積極的な取り組みや啓発活動も展開されるべきです。

【今後に向けて】

感染拡大の防止にとどまらず、その後も長く継続することの予想される社会的影響の解決に向けて、幅広い分野の科学的・専門的な知見を動員し、活用すること
新型コロナウイルス感染症対策は長期にわたる取り組みになるでしょう。その場合、当初予想されていなかった問題が顕在化する可能性もあり、対策の効果をモニタリングしつつ、その時点での最良の科学的、学術的知見を動員することが必要です。また、各種学協会等から学術や現場の状況を踏まえた貴重な提言や意見が表明されており、それらを活用することを求めたいと思います。

日本学術会議は、今後とも学協会と連携しつつ、学術の立場から新型コロナウイルス感染症対策の検討体制を構築し、提言や学術情報の発信を行っていく所存です。

                               令和3年2月9日
                             日本学術会議幹事会
                          会 長    梶田 隆章
                          副会長    望月 眞弓
                          副会長    菱田 公一
                          副会長    高村ゆかり
                          第一部部長  橋本 伸也
                          第一部副部長 溝端佐登史
                          第一部幹事  小林 傳司
                          第一部幹事  日比谷潤子
                          第二部部長  武田 洋幸
                          第二部副部長 丹下  健
                          第二部幹事  尾崎 紀夫
                          第二部幹事  神田 玲子
                          第三部部長  吉村  忍
                          第三部副部長 米田 雅子
                          第三部幹事  沖  大幹
                          第三部幹事  北川 尚美